姫様、初めてのダンジョン3
フレメラスダンジョン、神殿が入口となっていた神からの贈り物と呼ばれるダンジョンである。
ダンジョン内は自然フィールドが1広がり、8階層が最下層になっている。
神からの贈り物と呼ばれる所以、それは、フィールド内に溢れる恵みの多さ、貴重な薬草もあれば、この世界には無い果物等多く植生している。
神殿から続く階段を降りた先は高台になっており、そこから広がる景色は地下とは思えぬ壮大な景色となっている。
「凄いですわね、こんなに広く明るいなんて、あれがダンジョンの太陽石の光なのですね。」
昔語ってもらったダンジョンの話を聞きながら想像していたよりも、素晴らしい景色に声が弾むクリア。
「あれは太陽石では無いのですよ、フィールド型は小さな世界らしいのです。」
「フィールド内は全て本物という事ですね、空も太陽も、神の恵みと呼ばれるのも神秘的な面が多いというのも1つらしいです。」
ホーレンに跨るリリアナの訂正に、タチアナが補足を入れて説明を続ける。
「では、地下の洞窟にいる訳ではないのですか?」
「そういう所もありますよ、幻術がかけられた所とか、ここは、山に囲われたフィールドの空や湖、木々も全て本物です、フィールド型のダンジョンは異空間だという説もあるそうですよ。」
クリアの疑問にはアキラが答える、青薔薇情報は大体アキラが仕入れており、彼の情報の幅は雑学な分野も含まれそこらの情報屋より豊富なのだ。
「クリアは私とホーレンに乗っていく?」
「魅力的ですがなるべく自分の足で歩きますわ、休憩の時にでも乗せてくださいませ。」
「うん、分かったよ。」
年が近い為、リリアナはクリアに対しても畏まらず接する、階層へ向かう間随分と仲良くなったようだ。
「それでは冒険に行くとしましょう。ここからは何処でモンスターに出会うか分かりませんのでクリア様もそのつもりで。」
「はいですわ。」
黒蝶を先頭にクリアを挟み青薔薇が後方を守る陣形で下へ続く坂道を一同は降りて行く。
降りた先には草原が広がり、敵も視界に捉えやすく比較的安全に進む事が出来るが、モンスターからも此方が見える事から刺激すると戦闘となる為注意が必要である。
「クリア様、この辺の魔物は大人しいので刺激しなければ襲いかかっては来ません、ただ、戦闘となると他の魔物も群がってくる危険があるので、なるべく大きな声等はお控えください。」
クリアの背後で凛とした立ち振る舞いで歩くエリアナが彼女へ注意の言葉を掛ける。
「今回は右手の森から探索します、多分草原部分にはポータルは無いと思いますのでこのまままっすぐ向かいましょう。」
高台から見た限りポータルらしき淡い青の魔法陣は見受けられなかった事から、草原エリアはそのままスルーする事を決めた春蘭。
彼女の意見にクリアもエリアナも首を僅かに縦に振り同意した。
モンスターとの距離を取り、右手に見える森へ進路を向けて歩き出す一同。
慣れた様子で歩く黒蝶の後に続いて歩けば容易に最短距離で森へと向かう事が出来た。
何より獣系のモンスターは危機管理能力が高く、ホーレンの気配に近づいてくる相手は居なかったのも理由の一つである。
それでも草原は広く、お姫様であるクリアには数kmの道のりは年齢的にもかなり消耗させられる。
森に着く頃には息を見出しかなりの疲労が溜まった様子であった。
彼女のペースに落としながら進んできてはいたが、温室育ちであり、まだ12歳の子供であるクリアが彼らに着いてここまで休まず来たことは皆が驚く所であった。
「クリア様、そろそろ1度休憩しましょう、ここからはより危険が伴いますので。」
「本来、日が落ちる前に休める所迄行くのではないのですか?」
「確かにそうですが、体調も考慮に入れることは良くある事です、無理をする事が1番危ない事ですから。」
「ダンジョンは夜は危険だと聞きますわ、私の為に遅れてますわよね。」
疲れの見えない他のメンバーを見渡し、クリアが最後にホーライに乗るリリアナを見つめる。
「私のわがままな様な依頼ですわ、このまま行きましょう、私はホーライ君に乗せて頂きますわ、それが1番安全策ですわよね。」
「我らは依頼者の命に危険でない限り従います。クリア様の判断に異論はありません。」
エリアナが彼女の判断に肯定の意を示し、他の者達も頷きながら微笑んでホーライに乗るクリアを見つめる。
「よし、それではこのまま今日の野営地である湖迄向かう。森にはスカイウルフが出没する、立体的な移動をしてくるので防衛戦は不利だと思っていてくれ。」
「俺と想遊が先行索敵を行います。桃華はリリアナ嬢クリア様への援護が出来る位置に待機させます。」
「私は後方を担当しよう、タチアナは中衛で私の援護とリリアナ達の援護何方にも対応してくれ。春蘭殿は前衛お任せして良いか。」
「勿論です。一通り役回りは決まりましたが、アキラ殿はどうするのですか。」
それぞれの立ち回りが決まっていく中、エリアナが指示を出さずに1人だけカヤの外となるアキラを見て疑問を投げかける。
「あぁ、僕戦闘は殆ど役に立ちませんから、皆さん全体にアイテムでも配って行くので気にしないでください。」
「はっ?何を仰って居るのか不明なのですが?」
戦闘出来ないと言いながら好きに動くような事を告げるアキラ、自殺行為とも取れる答えに目を丸くする黒蝶のメンバー。
「問題ない、アキラは自由に動くのはいつもの事、心配はいらないので気にしなくて良い。働きは保証する。」
エリアナが何の心配もなく擁護の言葉を吐くものだから余計に頭を悩ます黒蝶のメンバー、しかし、パーティーメンバーの言葉である以上彼らが口を出す事ではないと任せる事にした。
そして、彼らは目的の場所を目指し、森へと入る。