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姫様、初めてのダンジョン

 今、俺は自分の不幸をここまで呪った事はない。


 目の前の来客用のソファーに座り、優雅にお茶を飲む1人の少女。


 後ろには執事らしき立派な髭を生やした紳士的な男が1人と侍女らしきメイド服の女性が1人控えている。


 少女はフリルのふんだんにあしらわれた豪勢なドレスを身にまとい、ホワイトブロンドの縦ロールに澄んだ水の様な瞳のザ・お嬢様という風貌。


 その顔を俺は良く知っている、知っていると言うか、冒険者時代にあった事もある人物である。


 「ストレラ様、ご無沙汰していますわ。約束をお忘れのようでしたので、私自分から来てしまいましたの。」


 「はぁ、約束ですか?継承権が低い第4王女だからと言って、一国のお姫様がこのような所へ押し掛けてくるのはどうかと思うのですが…」


 「あら、好いた男性を追いかけるのは乙女としては当然でしょう?幼い私の心を盗み去っていたのはストレラ様ですわ。」


 盗み去って行った等と人聞きの悪い言葉に後ろの2人からの殺気がおぞましい。


 誤解も誤解である、5歳くらいの少女にねだられ、冒険の話を聞かせていただけで恋心を持たれると誰が思う。


 「恋心と言われましても、こんなおじさん捕まえてそんな恋だなんだは無いでしょう。それに、私は既に既婚者ですし。」


 「あら、王族が数十も上の男性に嫁ぐなんて普通の話ですわ、それに、重婚だって珍しいものではございませんし。」


 「いやいや、それはお貴族様話であって、私達庶民の常識とは考え方が違いますし。」


 王族や貴族は血を絶やさない為に一夫多妻な事も多い、国家間の関係の為に歳の差のある結婚も少ないとはいえあるだろう。


 しかし、庶民からすればそれは不可能である。


 経済的にも価値観的にも貴族達との考え方が全く違う、大多数が恋愛結婚であり、1人の相手と一生を過ごすのが常識だ。


 「何より、姫様はまだ未成年ではないですか、そんな歳から恋などと早い気がしますが…」


 「私の歳には婚約者が居るものですわ、私はストレラ様がいるから断り続けておりますけれど。お父様もお母様も理解してくださっていますし。」


 親公認なのかと一瞬背筋に悪寒が走る気がしたが、未だ12歳の少女を恋愛対象には見れない。


 メルが幼顔だとしても、俺はロリコンでは断じてないのだ。


 「じょ、冗談はこれくらいにして、そろそろ今日伺った理由が聞きたいのですが?」


 「冗談ではありませんのに…。宜しいですわ、今回、私をダンジョンへ連れて行って欲しいのですわ。」


 俺の言葉に唇を尖らせ呟いた後、ソファーから立ち上がり胸に手を添え、こちらに向いて堂々と答える姫様。


 「勿論。依頼も受理していただいているわ、文句は無いはずだけれど。」


 「誰ですか!そんな依頼受理したのは、何かあったら国際問題にしかならないじゃないですか。」


 「誓約書にはサインしたですわ、勿論父のサインもありますの。」


 目の前に突き出されるそれ。


 何があろうと責任を問わないと言う内容が書かれた紙には、しっかりと彼女の国の王族の紋章印付きでのサインされていた。


 (本部の馬鹿共は何を考えている。)


 頭の中で罵りたくなる。


 いくら依頼だとしても、こんな依頼を受けるのは常識の範疇を逸脱している。


 何より、うちの支部での受注はだぞ、あの問題児達に王女の護衛なんて受けさせられる訳がない。


 「何故、東支部に?本部の冒険者が受けてくれる方が安心ではあるでしょう。」


 「ダンジョンと言えば此方の冒険者の方がよく知っていると受付の方が申しましたの。私もストレラ様に会いたかったですし、丁度良かったですわ。」


 厄介な依頼を体良く此方に振られたと言うわけだ。


 何かあれば制約書があるにしろ問題になる。


 俺としては面倒でしかない。


 「護衛依頼ですね、ダンジョン見学ならば温泉ダンジョンで観光程度でも構わないですよね。」


 「行くダンジョンは決まっておりますの。フレメラスのダンジョンですわ。」


 「フレメラス…、あれはB級ダンジョンですが、護衛をしながら攻略するようなものでは無いですよ?」


 「知っておりますわ、冒険者になる為の約束が、そのダンジョンでの5日間の冒険ですの。」


 不穏な言葉とノルマ、どちらに突っ込めば良いか分からない。


 (姫様が冒険者に?5日間もB級ダンジョンで過ごすだと?そんな安全策も取れない依頼を持って来る等ただの嫌がらせだ)


 依頼内容がまた不味い、依頼料は破格、冒険者に責任が掛からない、誰であろう飛びつく依頼内容。


 出した時点でC級パーティーが何組か飛びつきそうだ、前金まで出るのならばリスクが無さすぎる。


 だからと言って、このお姫様は諦めることはしないのだろう。


 「2つ条件をこちらからも出します。1つ、指名依頼でにする事、3パーティーを同行させて貰う事。」


 「1つ目は承諾しますけれど、2つ目は2パーティーまでですの、安全な冒険等ないのですわ、父が認めなくなる理由を作る訳には行きませんの。」


 返ってくる言葉に反論しようとしたが、後ろの2人が此方を見つめ訴えてくる。


 全ては国王が決めた条件であり、ギリギリの安全策を講じるしか出来ないように画策されている事、姫様の決意は本物である事。


 彼女の好きにさせてやって欲しいと言う訴えが視線に含まれているようだった。


 「分かりました、それで構いません、ただ、冒険者達の命に関わる事態が起きた場合、強制送還する事には同意頂きたい。」


 「それは勿論ですわ、冒険者の方々の安全を蔑ろにするつもりはありませんから、それでは宜しくお願いしますわね、ストレラ様。」


 溜め息が止まらない、どのパーティーに依頼を出すか悩まされ、そして気が気じゃない1週間が始まるとなれば初日から胃がキリキリしてきた。


 俺にとって地獄の1週間が幕を開けたのだった。

いつの間にやら10万文字超えているという…


ここまで続けて掛けたのも見てくれる読者の方々がおられるおかげ、感謝の言葉しかありません。

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