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指名依頼の報告書

 「まぁ、うん、何時もながら巫山戯たテイム方式だな。」


 上がってきた報告書を読みながら思う。


 (どうやればこんな方法でテイム出来るんだ、まず、死ぬだろう、頑丈過ぎるだろあいつ)


 同じ依頼を受けるさい、何度かテイムする姿を見ていたが、今回の様にぼこぼこにされながら、対話を続けテイムする方法は変わっていなかった。


 昔は骨を折ったりとかなり酷い状況になっていた彼だが、グリフォンの攻撃を無防備に受けて打撲と擦り傷だけとの報告内容に唖然とする。


 「まぁ、依頼は達成、これで本部からの要請も達成したし良かった良かった。」


 「また、現実逃避ですか?」


 コップに注がれた水と胃薬をデスクへ用意し、ナーネルちゃんが冷たい表情で此方を見下ろしてくる。


 「全然、そんな事ないよ。しっかり報告書読んで、上にあげるテイム報告書も作り終えたし。」


 「現実を見てください、ブラックリップバード、あれは支部長も見たでしょう。」


 3日前西門で確認された鳥類モンスター、羽ばたいて行く大きな黒い鳥が、街の至る所で目撃されたのは記憶に新しい。


 問題はそれがテイムされたモンスターであり、そのテイマーがシュウ出会ったこと。


 そして、そのモンスターが貴重なモンスターであり、今回の依頼に関わるものであったことだ。


 「グリフォンの羽根を使う前に主流とされていたブラックリップバード、なんで報告に上がってなかったんだ。」


 「依頼達成時に聞いた所、うちには報告したとの事です。確かにうちの記録にはテイムした記録は残っていました。」


 テイマーのモンスターは登録義務がある。


 テイムモンスターの悪用と混乱を招かない為であるが、今回のブラックリップバードに関しては、本部への報告が上がっていなかった為、どうなっているのかと本部からの怒りの手紙が届いている。


 「いや、こんな報告受けた覚えがないんだけど俺。」


 「調べて見たのですが、報告した日時が問題だったのではと、シュウさんも契約後人前で呼び出したのは今回が初めてだそうで、問題にならなかったのでしょう。」


 自身の手に持つ資料を捲り目を通しながらナーネルちゃんが考察を述べる。


 「それ、何時だったの?大体、俺、資料には目を通してたよ、特にそんな重要案件の報告漏れなんて、後が怖いから絶対しないと思うんだけれど。」


 「そうですね、支部長のチキンはよく知っているつもりです。大事な事は見逃さない、だからこそ今も首にならずにすんでいますからね。」


 「うぐっ。」


 自分で認めては居るものの、フォロー所か冷たい刃で串刺しにした後から抉るような彼女の言葉が胸に刺さる。


 「それで、時期なのですが…支部長交代のあの時ですね。サインが前支部長のお名前になっているので。」


 「なぁんだ、それなら俺の責任じゃないね、手違いだったんだし、上に報告し直して、この件は片付いたってことで。」


 「それで済めば良かったのですが、あちらの手違いであるとの報告に対して、難癖付けられまして…」


 「えっ?」


 ナーネルちゃんの少し申し訳なさそうな顔を、不安げに見返しながら彼女が語る説明を聞く。


 資料を携え、此方の非がないと彼女は本部に乗り込んだらしい。


 前支部長が報告を処理、支部長引き継ぎで忙しい中、自分に残された仕事をこなした彼は、ブラックリップバードがシュウと契約した事の処理もしっかり行っていた。


 本部へもしっかりと通達は出した筈だったのだが、出した時間が問題だった。


 本部のギルド員は時間に特にうるさく、頭が固い事で有名である。


 その為、最終の仕事を片ずける前支部長のギリギリの報告書が彼らの稼業時間を数分超えてしまった為、次の日の案件になってしまった。


 しかし、ここで問題が起きた、本部への深刻には支部長の権限が必要であり、丁度俺にその権限が移ってしまったのだ。


 その為、前支部長の報告は無効扱い、本部に申告漏れという状況が発生した。


 これで問題が円満に解決していたのであれば問題はなかった。


 申し訳なさそうに眉を下げる、珍しい表情のナーネルちゃんが、本部での詳細も語り出す。


 「明らかにあちらが手続きをミスしていましたし、私も理不尽だと正論を並べ立てて責め立てたのです。」


 「いや、なんでそんな珍しい事したの、嫌な予感しかしないんだけれど…」


 「今回の依頼、ギルドのやり方はグレーもグレーですから、盟約の穴を縫って儲けようなど許せません。」


 いつになく感情的な彼女、ギルド創設の7人の1人である事は、彼女の過去を知らされている者ならば容易に想像がつく。


 偉大な7人の1人であるが為に、盟約の穴を潜り抜けて私服を肥す上のゼニガメ立ちが許せなかったのかも知らない。


 ギルドの為と言っても、儲かれば彼等も儲かるのは組織上仕方ないのではあるが、ラリスタの引き抜きの件もあり、最近の本部のやり方には彼女も思う所があったのだろう。


 ただ、問題だったのは、怒りが向いたのが、とばっちりの書類の担当部署のエリート志向の集団だった事だろう。


 正論を叩かれながら、上への愚痴も聞かされたあげく、支部の受付嬢姿のナーネルちゃんに、良いように言われる屈辱に非を認められなくなったのだ。


 罪のなすりつけあいになった事から泥沼化し、上の干渉まで入り事が大きくなったのだ。


 「こちらが、本部からの通達書です。」


 「なになに、今回の報告漏れは厳罰に値する。しかし、此方の不手際もあったので懲戒解雇の所を減刑し、3ヶ月の間、給金を半分減額する事で処罰とする…」


 「ご愁傷さまです。」


 色んな面で飛び火し、何故か自身に来た頃には大火事として燃え上がる、何かに呪われているのかと疑いたくなる俺は通達書を握りながら放心した。


 そんな俺を見ながら、騒動の中心となった彼女は合唱して冥福を祈るのだった。


 「俺は全然悪くないだろぉぉぉ。」


 相も変わらず、俺の叫びは休息日前の街を駆け巡るのであった。 


次は戦闘ありのお話を描きたいですね。

最近平和過ぎてワクワクしないですし。

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