特S級の指名依頼5
西門を飛び立って2時間も経たないうちに彼らは目的のトートの山の上空付近まで近づいていた。
山頂付近には目的のグリフォンは見当たらず、中腹の森林地帯に居を構えて居るのだろうと、中腹辺りへと降り立つ。
「ありがとうミス・レティー、今度ゆっくりと君の背中に乗せてもらうよ、遠い中ご苦労だったね。」
「ピュッ、ピュッ、ピュイー。」
中腹部の森の入口へと下ろしてもらった彼は、レティーと子供達を労いの言葉をかけ、彼女らが去っていく空に手を振りながら、見えなくなるまで見送る。
細かい気遣いが出来る彼が王子の様な見た目麗しい存在であったなら、世の女性は皆彼の虜になっていたかもしれない。
天は二物を彼には与えなかったようだが。
「さて、ここからは険しい道のりになるね、その前に皆でティータイムを取ってから行こうか。」
「はい、シュウ様。」
「シュウ様とお茶が出来るなんて光栄だわ。」
「シュウ様のお茶は絶品ですもの楽しみだわ。」
同行する奥サマーズのメンバーにも気遣いを忘れない、一同は小休憩にシュウの入れる紅茶に舌鼓し、談笑した後、グリフォンが居るであろう森林の中へ足を踏み入れる。
なだらかな登りが続く森の生い茂る木々の間を進む一同。
歩きにくい自然のままの道を草木を掻き分け彼等は先を進む。
まるでピクニックをしているかの様に道中は、景色と会話を楽しみながら進み、舗装もされていない道に適さない革靴のシュウだが、かなりこなれた感じで足を進めている。
「もうすぐだと思うんですがね。」
気配だけを頼りに何処にいるかもしれない目標を探す彼、後について行く奥サマーズも彼の後を何の疑問も持たずに信頼しついて行く。
シュウの気配を感じる能力は探知魔法と同等の信頼度がある。
勘便りで気配を感じ取っている彼、ただ、テイマーが相性の良いモンスターの気配には敏感な事もあり、彼の気配察知能力はかなり信頼度が高い。
元々種族関係なく相性の良い彼が気配を読み取れば、獣並の察知能力を有し、距離が近く成程精密差も上がる。
気配便りでここまで来たが、方向はしっかりあっていたようだ。
「あそこでしょう。」
茂みを掻き分けた先に見えた洞穴、その中から2体の強い気配を感じ、指を指しな示しながら奥サマーズを引き止める。
「それでは言って来るよ、君達は辺りの警戒をお願いしても良いかな。」
キラリと白い歯を輝かせ、奥サマーズに指示を出すシュウ、彼の言葉に彼女達も頷き辺りに散らばる。
「さぁ、新たな出会いを楽しもう。」
そんな言葉を呟き、高さがそれなりにある広い洞窟の中にシュウが入、数分、体をくの字に折り曲げ洞窟の外へ彼が吹き飛ばされ出てくる。
直線上にあった木に打ち付けられ地に伏す彼に皆が駆け寄る。
「シュウ様、大丈夫ですか。」
「まさかシュウ様が追い返されるなんて。」
「いやはや、流石に一筋縄では行かないようだね、ミス・グリフォンは気がたっている様だ。大丈夫、彼女の気持ちは理解出来た、心配しないでくれ。」
渡された回復薬で喉の乾きを潤し、気崩れた服の身なりを整え、再び彼は悠々と洞窟の奥へ進む。
洞窟を数メートル進めば少し広がり空洞になっている。
藁を敷き詰めたそこへ威嚇の唸り声を、喉を震わせ鳴らす一頭のグリフォン。
「1人で不安なのだね、ミスターと喧嘩でもしたかな。」
空洞の壁には争った後もある、グリフォンの羽根が散らばっていることから彼ら同士でなにかあったのだろう。
距離を詰め、彼女と対峙しながら相手を見つめる。
「素晴らしい毛並みだ、そのつぶらな瞳がまた素晴らしい。」
「グルルルル。」
シュウの言葉に威嚇の意思を示すグリフォン。
しかしめげずに褒め殺しの言葉を投げかけ続ける彼はグリフォンからの攻撃を受けながら吹き飛ばされを繰り返す。
何度吹き飛ばされただろうか、日も暮れ始め彼の顔は青く変色し腫れ上がっていた。
「ミス・グリフォン、君の気品にましゃ者は居ないだろう。ぼふもしょんな君に一目見てひゅかれてしまったよ。」
ぼこぼこにされながらも褒めては吹き飛ばされるを永遠に続けていたシュウ。
そんな相手にいつの間にか威嚇もなくなり、諦めの悪い相手を軽くいなすだけとなったグリフォン。
相手をするのに嫌気がさしているのかも知れない。
「ミスターは、君の心配を分かってくれなかったのだね。」
愚痴に似た言葉の中で不満を零していたグリフォン、その言葉を理解していた彼が、彼女の落ち着いた頃合を見て言葉を零す。
グリフォンはぴくりと反応する、何を言っても訳の分からないことを伝えるだけの相手が急に確信をついてきたから、そして、こちらの意思を読み取っていた事に驚く。
テイマーのスキルに意思疎通という、感情を伝え合うスキルがある。
相手の感情により伝わり方が弱くなるという欠点はあるが、喜怒哀楽の感情位はこのスキルで読み取る事が出来る。
彼はそれに加え、何が原因でなのかを映像で見る事が出来る。
最初の邂逅で彼女がどうして怒っていたのか理解していたのだ。
ただ、荒れた感情の中では此方の意思が伝わりにくいため、敵意とは真逆の賞賛の褒め殺しという感情をずっと相手に伝えいた。
落ち着いた今の彼女なら共感してやれると、話を切り出したのだ。
「2人っきりの同族だ、心配するのもよくわかる、彼だってその気持ちは分かっているだろうさ、しかし、彼にも君を大事にしたい気持ちが会ったんだろう。」
それからはグリフォンの愚痴を静かに受け止めるシュウ。
洞穴の外では、グリフォンの鳴き声を聞きながらシュウが出てくるのを待ち続ける奥サマーズの姿があった。
「シュウ様、大丈夫かしら。」
「大丈夫よ、シュウ様ですもの。」
「それにしては長く掛かるわね、今日は。」
「様子見に行きましょうよ。」
不安を時間と共に積み重ねて行く彼女達、そろそろ我慢も限界に達し、様子を見に行こうとした時、中からグリフォンと仲良さげにシュウが出てきた。
スーツは汚れ、顔は所々膨れ上がり、より大きな顔面となっている。
そんな顔で洞窟から出てくれば奥サマーズの面々に親指を立て合図を送る。
長い時間をかけ、グリフォンと分かり合えたのだろう、テイム契約も済んで、彼の刻印がグリフォンに浮かび上がっている。
「さぁ、今日は此処で野営して、明日帰ることにしよう、皆お疲れ様。」
ボロボロになったシュウは彼女達に支えられ、キラリと奥歯を光らせ指示を出す。
それから帰ってきた番のグリフォンとのいざこざはあったが、どんな夫婦も嫁の力は強い、彼女に説得され契約を交わし、依頼達成となった。