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異色パーティーの後日談

「その後筒がなく荷物は盗賊共を労働力に関所へ運搬、盗賊もこちらへ護送、帰りは特に問題なく帰還したのであった。執筆者ロンド。」


最後の1ベージを残し報告書という名の物語を読み終え

、胃薬を水で流し込む。


「何だろうね、毎度思うんだけれど、何で物語風に書いてくるんだろうね…この紙、追加情報と予備事項の余剰紙なんだけど、備品の補填すると上が煩いのにな。」


窓の外に視線を向けて黄昏れる、遠い目をしながら来月分まで使われているであろう紙の束を眺め、溜息をつく。


少し心が落ち着いた、胃の痛みも薬を飲んだおかげで和らいだ気がする。

そして、見たくないと目を背けた最後の一枚、デスク上で不穏な空気を漂わせるスティッドの備考報告に目をやる。


【試験内容に関しては目標達成、昇格項目はボーダーラインをクリアし合格。続いて被害状況、馬2頭恐慌状態によりトラウマを抱える、復帰の見込みは無いとの事、荷馬車については荷台部に大穴、後部車輪の車軸の損壊】


ドンッ、思わずデスクを握った拳で叩く。


「規定ではクリア何だよ、荷物届けて野営もしっかりこなして、道中の護衛もちゃんとこなしてるし…なのに何故、うちの試験はいつもいつも損害が出るのかな?」


和らいだと思っていた胃痛が再びぶり返しデスクへ突っ伏しながら泣き言を零す、この調子で後数件の報告書を読む事になると思うと更に痛みは増す。


そんな状況等お構い無しに世界は俺に追い打ちを運んでくる。


「支部長!何よあの試験内容、あんなのどう見たって嫌がらせじゃないのよ、特別報酬を要求するわ。」


バンっと力任せに開かれた扉が壁にぶつかり音を立てる、不意な衝撃音に体が反射的に震えた。

来訪者は入ってくるなり甲高い声で捲し立て、自分の要望だけを簡潔に言い放つ。


「マーティンちゃん、あれは俺が付け加えたものじゃ無いんだよ、それに報酬も上乗せしてるじゃないか。」


「そうですよ、追加報酬も付け加えるの苦労したんですからね。」


マーティンの後に入ってきた意外な人物から救いの手が差し伸べられる。


(ナーネルちゃん、上との話任せたの根に持ってると思ったら助け舟とは、女神様に見えるよ)


尊敬の眼差しで敬い、援護射撃を繰り出してくれる彼女に祈りを捧げておく。


「それはナーネルさんが交渉してくれたんでしょ。支部長からの迷惑料がないわ、これは権力による圧政よ、パワハラよ。」


(あれ、こちらの損害の件は考慮されてないのかな?権力振りかざしてるのは上で俺は何も…)


「確かに一理ある言い分ですね。支部のトップが責任を負うべき案件かも知れません。」


「えっ、ちょっ、何この流れ...」


救いの糸があっさり切り落とされ、奈落へ真っ逆さまに落ちる心境、この流れには既視感しかない。


「今夜の昇級祝い、支部長の奢りで手を打つわ、これぐらい構わないわよね。」


(何時もよりはましか、パーティーの飲み代くらい祝いだしな)


「しょうがない、俺の奢りで酒場にはツケとけばいい。」


「言質とったわよ、今日は大宴会よ、飲むわよぉ、じゃあ私は皆に伝えてくるから。」


怒りを露わにしていた表情をころりと変化させ、階下のギルドへスキップで出ていく彼女を見送る。


「たまにはこれくらいしてやらないとな...んっ?待てよ、大宴会?ねぇナーネルちゃん、大宴会って聞こえた?」


消えたマーティンの言葉の再確認にもう1人いた人物へ問い掛ける。

気配をおって視線を向けた先に居た彼女の姿を見てまた嫌な予感を感じる。


「窓に足をかけてどうしたのかな?まさか、変な事考えてないよね?」


「そうですね、今回はソーイに可哀想な事をしてしまいましたし、冒険者の精神ケアも私達ギルドの職員のお仕事、ラリスタに特別ライブを依頼してきますわ。」


「あぁ、さいですか。」


止められない流れと言うものがこの世にはある、東支部名物支部長殺し、どう足掻こうとこうなっては後は天に任せるのみ。


窓から颯爽と隣の建物の屋上へ移り、瞬く間に軽快な足取りで消えていく彼女を眺め、俺は新しい胃薬と水を自ら用意するのだった。


その夜、東支部ギルド酒場は大勢の冒険者とラリスタのファンで大変賑わった、胃痛に悩まされギルド宿舎でその賑わいの声を聞き、残った報告書を読みながら寝入った俺は夢を見る。


「ストレラ支部長。領収書、昨日は大盤振る舞い毎度あり。」


渡される1枚の紙切れ、途方もない金額の明示されたそれを受け取り唖然とした俺。

店主によれば、依頼を終えた嫁も参加していたらしく、俺のへそくり口座から引き出し一括で払ったらしい。


夢の中の俺は大幅に減ったであろうへそくりと、嫁にその事実がバレている上、引き出しの合言葉までバレていた事に絶望を隠せず机で二度寝に勤しむというものだった。


「はは、最悪な夢だったな今日は...」


窓から差し込む朝日に目を細め、夢であった事に心底安堵する、しかし、俺の足元に落ちるシワの付いた1枚の領収書が現実を突きつける。


「夢落ちで良いじゃねぇかよ、こんちくしょーーー」


休息日名物、朝の支部長の雄叫びが今週も響き渡るのだった。

こんな感じの短編を1つのサイクルとして書いて行くつもりです


東支部の冒険者達は頭痛の種〜支部長ストレラの胃を虐める報告書〜

面白く読んで貰えるよう日々精進致します


一応閑話を挟んで次のお話をもう1つ今週中にはあげようと思っていますので何卒宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 報告書ごとのオムニバス形式のお話なんですね。 一つの報告書が数話でまとめられていて拝読しやすかったです。 [一言] 読むのが遅くてすみません。一話一話大切に拝読いたします。
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