特S級の指名依頼3
「仕方ない事は分かってるが、俺の財布にはかなり痛手何だよな。」
「僕との時間を楽しみにする奥様方を蔑ろには出来ないからね、それに、メル君も楽しんでくれて、それなりに君の株もあげているんだ、ウィンウィンだろう。」
色々規格外なシュウだが、冒険者としてではなく、ちまたでの2つ名の方が有名だったりする。
その名は『奥様キラー』、未婚の女性であれば彼の容姿に圧倒され好意を抱く事はあまりない。
ただ、既婚者に対しては、どういう訳か魅了する。
異性の関係になる訳でもないのだが、絶大な支持を受けるていて、彼との食事会は定期的に開かれており、トロイヤでは、大多数の奥様が参加した事がある有名な食事会となっている。
今回の依頼に関しても、テイマーである為の他に、彼で無ければならない理由が、その能力が大いに関係している。
彼のテイムモンスターの殆どが番であり、雌をテイムする事で雄もテイム出来てしまうのだ。
特S級の特権のひとつに、受領ランクの制限無視がある為、彼は高難易度の依頼も受けられる唯一のE級冒険者となっており、こんな場合には必要不可欠な1人となっている。
「そろそろ依頼内容の説明をしようか。」
「どの子の素材が欲しいんだい、ドラゴン種は遠慮してくれ、彼女達は今産卵期で忙しいからね、頼み事をするのは忍びないんだよ。」
「今回はテイマーとしても仕事をしてもらう、相手はグリフォン、番で現れたらしいが、羽根を定期的に手に入れたいらしくてな。」
「グリフォンか、彼女達はプライドが高く、気品があって凛々しく、とても繊細な面も持ち合わせている、素晴らしいね。」
「まぁ、そのグリフォンが西の山岳に住み着いた、この機会にお前の仲間にして、素材の安定供給が出来るようにして欲しいと上が言っている。」
「中間管理職とはさも面倒な仕事だ、分かった、君の頼みだ、試してみようじゃないか、僕もまだグリフォンはテイムしていないからね。」
快く快諾するシュウの顔には、新しい仲間との出会いに胸焦がれる期待感が滲み出ているが、顔がデカいおっさんがするには適さない表情である。
「いつも通り護衛は奥サマーズ、依頼料はE級扱い、彼女達の報酬も同じになるが良いか?」
「仕方ないさ、彼女達も了承している事だ、日頃の憂さ晴らしになると喜んで着いてきてくれているしね。」
シュウの護衛の為だけにB級冒険者まで上り詰めた最強の主婦パーティーが奥サマーズである。
元々冒険者として活動していた者達ではあるが、早々に引退し、結婚した者が殆どであり、シュウの活躍を見たいとその後をついて行く事があった。
ただ、依頼に同伴する面で色々な制約があったため、再登録と護衛任務という形で同行を許可するようになったのだ。
思わぬ誤算だったのは、彼女達、主婦の力を侮っていた事である。
A級指定の依頼に彼女達が同行することは出来ない、それを知った彼女達が取った行動は、忙しい主婦業と冒険者業の両立。
シュウへの熱の入りようがなせる行動力なのか、半年程度でD級だったパーティーはB級へと急成長を遂げた。
実績も0、経験も殆ど無いに等しい状態から昇格が難しくなる、C級、B級の昇格を半年で主婦がなし得た、という話題は今でも酒のつまみとして語られていたりする。
「特Sは本来存在しないからな、お前に対してB級護衛依頼を出すのも難しい、食事会の時は労ってやってくれよ。」
「愚問だね、僕は全ての奥様に最上の時間を提供するのが生き甲斐さ、彼女達にもそれは変わらないさ。」
何だか、イケメンなら許されるであろうポーズを取りながら言い切るシュウ。
如何せん彼がやれば、イノシシかクマがいきがっているようにしか見えないのが残念である、つまるところ似合っていないのだ。
「それじゃ、頼んだぞ、もしもは無いだろうが、気をつけてな。」
「君のそういう所が僕は好意を持っているよ。邪険にしていても気遣いを忘れない、そんな所がメル君を射止めたんだろうね。」
「う、うるさい、さっさと依頼に行け。」
扉を出る際に一言こぼすシュウへ、近くにあった書類を投げ捨てる。
投げた書類は扉に当たりバラけて地面に落ち、廊下にはシュウの高笑いが響きながら遠のいて行く。
「くそ、余計な仕事が増えた。」
散らばった書類を見据え、ストレラは溜息を零すのだった。