ラリスタの温泉ライブ3
声の主が中央ステージ上に姿を現す。
短めの髪を両サイドに結んだ青いツインテールの髪、トップはシンプルな水色のビキニ、ボトムは同じ色でスカート型。
上にはどピンクのトーテムが着ていた物と同じ法被を羽織るルルセラだった。
彼女の登場に1部の者を除き、温泉階層にいるほぼ全ての人間が、息を合わせたように湯船から立ち上がる。
傍らに用意してあった同じ法被を一斉に羽織る。
「司会と進行は私、東支部受付の青い華、ルルセラが行いまーす。」
テンションをアゲアゲ状態の彼女が、拳を頭上に掲げ声を張り上げる。
その後に続き、会場の者達からも一斉に歓声をあがった。
この状況に慣れていない数人の者達は焦る、異常な程の熱気、異常な周囲のテンション。
イベントだと聞いて連れられた者達や、依頼を受けただけの者達からすれば完全なアウェイだった。
「何なのでしょう、これ。」
「目が怖すぎる。」
「おい、俺達場違い過ぎないか。」
困惑した者の声がちらほら聞こえるが、そんな事はお構い無しと、進行役のルルセラが止まらず先を進める。
「それでは、協力して頂いた方の紹介から。」
ステージの出来上がった楕円の温泉、その中に皆と同じどピンクの法被を身にまとった華奢な女性が、ライトを浴びて注目を集める。
「ご自身も2桁台の会員ナンバーを持つコアなファン。討伐を無事に問題なく終える為に同行して頂き、今回のイベントが無事開けた立役者と言っても過言ではございません。」
1本の杖を握りしめ、普段からは想像も出来ない饒舌な言葉の乱打を繰り出すルルセラ。
「冒険者なら誰もが憧れるS級、その中でも頂点と言われる数人の1人である、メルディー・サクラギ様。」
「大したことしてないけど、無事、開催できて良かったね。」
皆の賞賛に少し照れたメルディーが、手を振り返す。
「続きまして、観客の護衛を引き受けてくれた新人冒険者達、イレギュラーな事態にも慌てず、迅速な避難誘導を実施してくれました。彼等にも拍手。」
パチパチと彼女が拍手をすれば、ファン達の盛大な拍手が、場の雰囲気についていけていない数組の新人パーティーに送られる。
彼等は冒走族からの訓練依頼だと聞いて来ただけであり、こんなイベントが開催されるとは聞いてはいない。
開催者側は、この気に新規ファンの獲得を目論んでいたりもする。
「そして、今回の出資者であり、掃討依頼の資金も負担してくれた我ら東支部の大黒柱、ストレラ・サクラギさん。この場に居ませんが惜しみない拍手をお願いします。」
本人の知らぬ所で賞賛されるストレラ。
彼への賞賛の拍手はより一層盛大に続く、後に彼に伝わりはするのだが、それが彼にとって嬉しい事なのかはまだ分からない。
「さて、それでは皆様お待ちかね。本日の主役達にご登場願いましょう。」
彼女の言葉に会場にリズミカルな音楽が鳴り響く、そして、数本のスポットライトの魔法がステージをカラフルに彩る。
「あどけない顔立ち、小柄な身体は保護欲を掻き立て、明るく天真爛漫な姿はファンに元気を与えてくれます。ラリスタの妹ポジションと言えばこの方、ラーファ。」
ステージに突如吹き上がった煙の中から出てくる人影、ルルセラの相手へ向けて手を伸ばした指先に彼女が現れる。
黄色を基調としたワンピースタイプ、慎ましやかな胸の大きなリボンが印象的な水着に身を包むラーファ、水着の上にフリルが可愛らしい透ける羽織を着ている。
「続きまして、妹がいれば姉がいる、その天然の性格はファンの癒しとなってくれる、おっとりほんわかお姉さん。フェーテル。」
ラーファと同じように立ち込めた煙から現れるフェーテル、彼女は大人っぽい白のビキニ、透ける羽織、スカートは二重に重ねられた透けるフラワースカート、見えそうで見えないスカートの奥が舐めまかしい仕上がりの水着である。
「さぁ、どんどん行きましょう、ラリスタのリーダーと言えばこの方、頼れる姉さんティっテ。」
此方は緑の紐のトップスにショートパンツの水着、腰に着いたリボンの花がワンポイントな逸品、普段と変わりばえしないのだが、水着と言うだけで何時もとは違う印象を受ける。
「最後はこの方、我らが姉御、その逞しさは女性陣の憧れの存在、今日は一味違うぜ、鼻血に注意だ野郎ども。」
一気にテンションが上がるルルセラの言葉、施されて現れるラーダ。
堂々と男勝りな態度が女性の人気が高いラーダだが、今日は少し違う。
男装の衣装が多いラーダが着る水着は赤いモノキニ、普段とは違い露出度が高いセクシーな逸品、健康的な引き締まった身体を所々でチラ見せられ、張りのある豊かな胸が強調されている女性らしい姿。
本人はほぼしない女性の出で立ちに何処か照れた様子を見せる、そのギャップに卒倒する女性ファンが続出、ルルセラも女子がしてはならない表情で鼻血を拭っている。
「失礼致しました、どうにもお姉様の破壊力が強すぎた模様。皆様お気を確かに…」
「やっぱり俺は着替えてくる、こんな格好こっぱずがしくてやってられるか。」
「待ちなさいって、大丈夫、似合ってるから、逃げんじゃないの。」
ラーダが辺りの状況に羞恥心を掻き立てられたのか逃げ出そうとするが、しっかりティッテに行動を先読みされて捕まる。
「似合ってるわよぉ、ラーダちゃんは綺麗なんだからぁ、そっちの方がいいと思うのよぉ。」
空気を読めない天然お姉さんフェーテルが、余計な事を言うものだからラーダの羞恥心が振り切り耳元が赤く染まる。
それによって会場のファンの過半数がギャップ萌にのたうち回る騒動が起こる。
「…えぇ、色々問題が勃発しましたが、やっと落ち着きましたね。それでは始めましょう。ラリスタ温泉ライブ開催です。」
スポットライトの光が一瞬にして暗転する。
本来光を供給する太陽石の光源を遮断している為、会場内が闇に包まれた。
そして、次に明かりがついた瞬間待ちに待った、ラリスタのライブがファンの歓声と共に始まる。