異色パーティーの昇格試験3
道を塞ぐスケルトンの群、通った道も塞ぐように現れ逃げ場を失わせる。
人だけなら逃げられるが馬車はそうは行かない、道を外れれば砂の深みに嵌って動けなくなるのは目に見えている。
「何よ、こんなのにハマったわけ?被害者の護衛って新人か何か?」
数十は居るであろうスケルトンに囲まれていながら毒を吐くマーティン、他のメンツもそこまでの焦りは感じられない。
「予想通りと言えば予想通りさぁね、小狡い手合いが使いそうな手だったって事だぁね。」
「深刻そうにするから身構えたじゃない、私のシリアス返してよ。」
カタカタと音を鳴らし挑発するスケルトン達だが襲ってくる気配はない、寧ろ早く逃げろと言わんばかりに少しづつ距離を詰めるがそんな事そっちのけで彼女の怒声がロイドを襲う。
「はぁ、イリュージョンプレイク。」
気だるそうに錫杖を地面に打ち鳴らし、呪文を発動するマーティン、彼女の声に一定の空間でガラスが割れる様なエフェクトが発生する。
「一応本物も居たァんだねネクロマンサーかぁな、所詮小物だったわぁけだ。」
無数に居たスケルトンはマーティンの呪文により大半が消滅、残ったのは前方一体と後方一体のみ、蓋を開ければ幻覚によるトリックだったという訳だ。
「くそっ、何だ、情報と違うぞ、D級冒険者の試験じゃねぇのかよ。」
「情報屋のやつ、後で覚えてやがれよ。」
トリックが看破されたからか、文句を零しながら隠れていた人影が次々に姿を現す。
見た所10人程度もう少し隠れていそうではある、身なりからして冒険者の様だが、こんな事をしている時点で冒険者崩れである事が確定する。
「冒険者の名誉を汚すような事しないでくれる?あんた達みたいのが居るから、私達が不適合だとか言われるんじゃない。」
完全なるなすりつけであった、普段の行動に問題がある為に彼らは不適合のレッテルを貼られているのであって、決して冒険者崩れの犯罪者が原因ではない。
「ほざいてろ、バレたからにはお前達には消えてもらう。3人でどうにかなると思うなよ。」
全身鎧で固めたリーダー格だと思われる男が、剣を彼らに向けてテンプレの言葉を吐き捨てる。
周りのものも次々と獲物を構え臨戦態勢を取るが、3人には怯えも戦意さえも微塵も無かった。
「はいはい、私達前衛でもないのよ、というより、1人で充分なのあんた達程度。」
「いきがるなよ、俺様はB級パーティー重装兵団の一員だったんだ、お前ら如き等簡単に。」
明らかにやられ役のセリフを吐き捨てるリーダーらしき男、そんな彼を馬鹿を見るような冷たい視線を送るマーティン。
彼らの威勢の良さがいつまで続くか見ものだと、スティッドが座る御者台に細い足首を見せながら足を組み、観客気分で彼らを眺める。
「ねぇ、流石にそれは舐めすぎじゃなぁいかな?」
その姿を呆れながら見上げるロンド、そんな彼を尻目に彼女は背後へ言葉をかける。
「アイツらが居なきゃ急げば夜には戻れたかもねぇ、そしたらライブも行けたのかも。」
マーティンのライブを強調した言い回し、その言葉が荷馬車の中にいる人物の耳へ入る、その瞬間、彼女を除くその場の人間全ての表情が急変する。
ロンドとスティッドは額に手を当てやらかしやがったとうなだれ、冒険者崩れの盗賊達は、荷馬車から立ち上がる異様な威圧感に背筋を凍らせる、数人は威圧感だけで失神してしまっている。
「な、何だ…お前ら何をしたんだ。」
震えが止まらない手で握る剣を揺らし後退りながら動揺を隠せないリーダー格の男。
背後で上がる爆音と砂煙、阿鼻叫喚の声を上げる後方を抑えていた男達の断末魔が虚空へ消える。
「待てっ何だあれは、ば、バケモンだ、こいつら何を飼ってやがるんだ…」
凄まじい速さで辺りを駆け巡り、仲間を吹き飛ばす影、その姿を捉えた男は尻餅をつきながら震えた声でぼやく。
その間にも盗賊達は叫び声を上げながらその数を減らし、最後に残った尻餅をつく鎧男は握られただけでへしゃげる鎧事掴み上げられ、怪物の姿を直視する事になる。
「お前達のせいで…、初のどぉ、ぎ、じょ…ライブ、だっだのに゛ぃぃぃぃ。」
赤く染まった肌、所々にくっきりと血管が浮かび上がり、闘気の凄まじさに何時もは目元まで隠れる髪は逆立ち、血走る瞳を露わにした少年が男の瞳に映る。
暴走鬼ソーイ、ソロで活動していた頃、当時10歳の少年につけられた似つかわしくない2つ名、彼の戦闘後は建物は崩壊、地形は変貌と、大人しい少年が暴れ回る姿を見かけた者達が何時からかそう呼んでいた。
「なぁ、5年は見てなかったが、ソーイのやつ、暴走鬼どころか鬼神に見えるんだが…」
「あいつもう15よ、そりゃ、グレードアップしてるわよ、戦闘力だけならスティッドさんでも勝てないんじゃない?」
「勝てない所か現役時でも無理だな、ありゃA級でもやり合えるのは戦闘職だけだろ。」
狂戦士が持つスキル、もしくは狂気化の状態異常で引き起こされる理性を代償にしたステータスの向上という能力がある。
ソーイのそれは似ている様で違う、彼は先天的なスキル、【狂鬼化】の持ち主であり、その効果は怒りが高ければ高い程ステータスを大幅に上昇するというレアスキルである。
ただ問題点が1つ、狂戦士や狂気化は数分、長くても数十分経てば自然と収まるのだが、彼の狂鬼化だけは切っ掛けが無ければ沈める事が出来ない難点があった。
「あぁた、あれ止められるの、私彼処までは初めて見たんだけぇど。」
「ちょっと誤算ね、短縮詠唱じゃ術が効かないわ、リーダー時間稼ぎお願い。」
そろそろ頃合かと幻影魔法を行使するマーティンに冷や汗が流れる、耐性能力の向上により普段なら問題ない筈がレジストされてしまった。
泡を吹き気絶する鎧男を放り投げ3人に視線を向けるソーイの瞳に理性の欠片は微塵も残っていない。
「馬鹿なの、早くしてぇよ、何処まで持つか分からないからぁね。」
ソーイと目を合わせた瞬間、目の前に一瞬で肉薄してくる彼の横凪の一閃を身体を瞬時に仰け反らせ交わしながら小言を吐くロンド。
道化師、相手のリズムを崩し、虚を付いてナイフ等で攻撃を行う職業、ロンドはその特性を回避術に特化させた回避タンクスタイルの冒険者である。
ソーイの間合いを歩法スキルで微妙に感覚をずらし、呼吸を読ませない微妙な動きの変化で行動を少しずらしながら回避していく。
余裕そうに避けているが実際は風圧による余波で体勢が何時崩れるかも分からない綱渡りをしていたりする。
見習い神官でありながら魅了魔法の使い手である彼女、この魔法が見習いのままな所以ではあるのだが、この分野において他の追随を許さない才能を持っている。
「水面に映るまどろみよ、光さす霧の深きに幻よ、目に見ざる幻惑の、夢幻の中で踊れ踊れ…ファッシネイション。」
ロンドがソーイの気を引いている間に唱えた呪文を行使するマーティン、彼女の言葉に応えソーイの周りに霧が立ち込める。
「待って、ラリスタ、もっと僕を慰めて…」
霧が晴れれば魅せられた幻惑を腕を伸ばし掴もうとしながらも正気に戻る彼の姿が再び現れる。
「何とかなったわね、1件落着っ!」
悪びれもせずに清々しい笑顔でやりきった感を無理矢理作る彼女に白い目を向けるロンドとスティッド。
「どうするんだこの惨状、馬は使いもんにならんぞ。」
辺りに生々しく残る惨劇の後、ソーイの刃を持たない剣に撲殺瀕死状態の盗賊達、威圧に白目を向いて横たわる馬、目も当てられない光景の中、マーティンの高笑いだけが辺りへ響いた。
反応はないですが、執筆ハイの真っ只中に入れる今のうちに書いていきます