モンスターハウスの掃討戦4
先程のグラトニースライムが小さく思える白い巨体。
洞窟の空洞を埋め尽くすように奥から出てきたその姿に息を飲む冒険者達。
「あれって、なんだったかな?」
「確か、ホワイト・ライン・スライム。別名クイーンスライム。」
「それだ、上位種を産むって言うスライムだよな。でも、あれっておとぎ話とか伝説とかの類のモンスターじゃなかったっけ?」
何が起こっているかさっぱり理解のできない2人。
低ランクがお目に掛かれる状況では無いだけに、余計混乱を招いているようである。
「あんなの倒せるのかな。」
「いや、分からん、まず核の位置が不明な時点で爆殺しか無いだろう。」
「あんなもん爆殺出来る火力出したら、このダンジョン崩落するじゃないか。」
「間違いない、流石に撤退か?」
顔を見合わせる2人、しかし、指示を待たずに逃げ出す事がどれだけ愚策か知る2人はオーレンへと視線を動かす。
他の冒険者達も同じ考えの様で一様にオーレンを見つめている。
視線が集まるオーレンだが、相手を見た瞬間から次の指示は決まっていた。
伝説的モンスターである以上彼らでは対応出来ない。
冒険者とは命あっての物種、即座に撤退の声をあげようとするが、ここに来て問題が生じる。
後方に集まる見学者達、彼らをまず逃がさねば冒険者達が引き返すことも出来ない。
時間稼ぎを行う選択に切り替えたオーレン。
「魔法部隊、牽制攻撃、余り刺激しないようにしてくれ。タンクは魔法部隊の援護に、絶対敵を寄せ付けるなよ。」
状況を理解する他の冒険者達、混乱からの立ち直りは迅速であり、オーレンの指示に従い陣形を整える。
観客を護衛していた低ランクの冒険者達の行動も早かった。
ざわめきは起こったがすぐに冷静さを取り戻していく、速やかに観客を誘導を開始、我先に逃げようとする者達をなだめる者、人に弾かれ倒れた者に手を差し伸べる者、個々の仕事を行う。
緊急時の行動の速さは東支部ならではの事であり、モンスターの掃討を続けながらも焦っていた、2人の冒険者も感嘆しながら落ち着きを取り戻す。
「すげぇな、俺達こんなに早く動けるか?」
「無理だろうぜ、前のイレギュラーの時も混乱で逃げ帰るしかなかったし。」
「だよな。全体の対応力はベテラン並だな。」
歳若い冒険者が後方で避難誘導する様を横目にぼやく2人。
自分達よりも経験の浅い冒険者の動きとは思えない、冷静さと対応力には感心の一言しか出ない。
「取り敢えず、俺達も踏ん張ろうぜ。」
「お、おぉ…そうだな…」
槍使いの男に声を掛けるが反応が上の空である。
「どうした、ボーとしてると怪我するぞ。」
上の空の彼に迫るスライム騎士を一刀両断し、槍使いをに目線をやり注意する大剣持ち。
「いや、俺の気のせいかな、あそこからこっちに向かうのって絶断じゃないのか?」
観客の中から此方へと向かう1人の少女を指差し、注意する大剣持ちに確認する。
「はぁ?何を言ってんだ、こんな所にS級が居るわけないだろが、バケモンだらけの人達だぞ、こんなクエストに来るわけないだろ。」
槍使いの男を笑い飛ばし、彼が指す方へ目をやる。
向かって来るのは小さな少女、見た目だけならそこらの町娘と変わらない風貌であり、防具も何もつけずワンピースを着ている。
しかし、その黒髪という特徴は普通ではない。
彼自身会ったことはない、ただ、その特徴は聞いていたものと一致し、何より、気配が常軌を逸している。
「バケモノとは失礼だな、女の子にそんな事言ってるとモテないんだよ。」
彼らの間を風が吹き抜け、背後に迫っていたスライム達が一直線に真っ二つになる。
「はは、聞こえてたな。」
「す、す、すいません。」
マジマジと見せられる力、何よりあれだけ離れた位置から聞こえていた事にも驚くが、先程まで後方支援の後ろにいた筈の彼女が今は2人の横を悠々と歩いていくことに背筋に悪寒が走った。
「まだまだ敵は居るんだし頑張ってね。」
そう言い残し彼女は最前線のオーレンの元へと歩んで行く。
呆気に取られていた彼等2人も気を取り直し討伐に集中するのであった。
「オーレン君、私も手伝うよ。」
「すみません、お手を煩わせる事になるとわ…」
「良いよ良いよ。緊急時の時の私だったんだし。」
オーレンと並び立った少女、片手にはいつ持ったのか一振の細剣を握っている。
ワンピースを来着た少女が剣を握っている姿はミスマッチではあるが、そこを突っ込む者はここにはいない。
「メルディーさんならあれ、倒せます?」
「無理かな、私とはスライムは相性が悪いんだよ。核が見えれば別だけど、あれ、核の隠蔽が凄い上手いよ。魔力を探っても検討がつかないかな。」
「S級でも無理ですか…」
「そうだね、出来る人は居るけど、洞窟も一緒に破壊するのが前提だろうけど、黒タイツ君が以上なんだよ。動く気が無さそうだし、方法はあるんだとは思うけど。」
「あの投げナイフ使い、やっぱり普通じゃないですね。何か方法、心当たりがないで…いや、だけどあれを使うのは…」
「一撃瞬殺、やるしかないんじゃないかな、逃がす前に皆バテちゃうだろうし。」
メルディーにも心当たりが思い浮かんだらしい、後方の冒険者達の防衛戦としての疲労困憊な様子を指し示しながらオーレンを見る。
彼は彼で頭を悩ます、いつもの事ながら最終手段、出来れば使いたくもなく頼みたくもない。
しかし、そんな事を言っている状況では無い事も事実、彼も心を決めるとレリラへと指示を出しすのだった。