モンスターハウスの掃討戦2
ダンジョンの広い洞窟の通路を大勢の冒険者達が行軍する。
前方の索敵担当スキル持ち数人のすぐ後ろには前衛職で固められたグループが出来ており、その中に他支部の2人もいた。
「今回は偉く羽振りがいいな。」
「あぁ、参加の前払いに貢献による達成金はいつもと変わらずだが、潤沢な支給品に討伐数による追加報酬迄出るとはな。」
探索前、ダンジョン前に集められ、ギルドの受付嬢から説明を受けた。
内容は概ね何時もの合同依頼と同じであったが、一つだけ何時もとは違う内容が含まれていた。
討伐モンスターのランクにより、追加報酬が出るというもの。
モンスターの数は見積もって千に届く程多いらしいが、殆どは低ランクのスライムであり、D級のスライム騎士等が出てこようと、彼らであっても苦戦する相手ではない。
稀にみる儲け時の依頼であるのだ。
「しかし、本部が良く資金を出したよな。ダンジョンはギルドへの見返りが少ないし、報酬もしぶるだろうに。」
「別名温泉ダンジョン、ここはギルド運営の観光ダンジョンにもなってる。だからギルド側としても相応の報酬を用意したんだろうさ。」
槍使いの男の疑問に答えたのは、先頭をレンジャーの女性と並び歩いていた赤髪の男、頬の傷が目を引く焔のリーダーのオーレンだった。
「アクリアって何処かで聞いた名だと思ったら、温泉ダンジョンの事だったのか。」
「そういや、観光地としても人気のダンジョンがあるとは聞いていたが、ここの事だったんだな。」
2人も彼の言葉に思い出したかの様に聞いた話を思い出す。
2人が良く知らないのには理由が2つある。
1つはダンジョンが冒険者に取って旨みが少ない事、もう1つは、東支部に関わらない為であり、他支部所属のものが東の管轄のダンジョンに疎いのは常識なのである。
そんな話をしているうちに一同は目的の4階層へとたどり着く。
「何これ、ちょっとびっくりね。」
「シャーシャ、どんな感じたよ。」
「スライム図鑑でも持ってくれば良かったわ。スライムの博物館って感じ。」
階段を降りた細い道の先、本来は小さな小部屋が2つあり、着替えをする脱衣場として使われていた。
しかし、今は違う。
道の先をシャーシャが覗いて見れば、広いはてが見えない空間が広がり、様々なスライムが蠢いている。
その姿は群れた虫の大群のようであり、鳥肌が腕に浮かび上がる。
「あれが黒かったら俺でも叫びたくなるかもな。」
シャーシャの後ろから覗くオーレンが前世の奴を思い出し、その光景と重ねて想像しながら顔を蒼くする。
「広さはあるみたいだし、1度体勢を整えてましょう。」
スライム達が跋扈する場所までは少し距離があり、冒険者達がフロアに集まれるだけのスペースもある。
まだ追いつかない後方部隊を待ち、体勢を整えることとなった。
「ひぇぇ、相手がスライムだとしても、この数は異様だな。」
「油断してると大怪我させられる奴も居るらしいぜ、どんな奴でも油断は出来ねぇぞ。」
広場へ人が集まるのを待っている間、目の前の大量に地面を這い回るスライム達を眺める2人。
モンスターが群れになると、脅威度が跳ね上がるのを知っている2人、目の前の光景に緩んだ気持ちを引き締め直す。
「兄ちゃん達分かってんじゃぁねぇかよ。」
「えっ?誰?」
気さくに肩を叩かれ声をかけられる槍使い。
彼が隣へと視線をやれば、そこにはモヒカンサングラスの冒険者とは思えない出立ち、学生服に身を包む男がいた。
「冒走族のメンバー。」
大剣使いも認識したのか、引きつった顔でその男を見据えている。
トロイヤで冒険者をやっているもので、冒走族の名を知らないものは居ない。
他支部であろうと、勧誘、助言、救援等、様々な所で彼らにお世話にならない者は殆ど居ないのだ。
「その心構えがありゃ、死にはしねぇな。精々怪我しねぇ様にするんやで。」
豪快に笑いながら2人から離れていく男、男の背中に書かれたBの文字を見ながら2人は溜息をつく。
「ヒヤッとしたな、捕まると長いからな。」
「あんな見た目でB級なんて、東支部はやはり変わり者が多いぜ。」
そうこうしている間に体勢が整い、遂に作戦決行の時間になった。
全体の指揮をとるのはオーレン。
オーレンの掛け声と共に冒険者達が動き出す。
初撃は魔法部隊の一斉射撃、低ランクの魔法使い部隊が次々と得意魔法を放つ。
最前線のスライムやスライムの亜種が次々に燃え上がり、風に切り裂かれ、どんどん数を減らす。
スライム達もただやられるだけではない、すぐ様対応する魔術スライム。
とんがり帽子に杖を持っただけのスライムではあるが、飛び交う魔法へ障壁を展開し仲間を守る。
その間をすり抜けて突撃してくるのが、硬質化した表皮で体を多い、小さな盾と剣を持ったスライム騎士。
地面を這いながら突撃してくるスライム騎士、見た目は子供がチャンバラごっこでもしているようにしか見えない。
しかし、彼らを馬鹿にしていると大抵の冒険者は痛い目を見ることとなる。
前衛職の冒険者達が突撃してくるスライム騎士の群れの前へと接敵、スライムだと侮るD級上がりたての剣士が盾に剣筋をずらされ好きを作ってしまう。
あわや突き刺さる寸前の剣を、槍使いが地面に叩きつけ難を逃れる。
「おい、油断するな、こいつらは意外と盾と剣の使い方が上手いんだ。下手をしたらやられるからな。」
あわやの自体に尻餅をついていた冒険者はコクコクと首を縦に振る。
こうして、スライム掃討作戦の火蓋は開かれるのであった。