モンスターハウスの掃討戦
モンスターハウスの件についての招集依頼が、ギルドに掲示されたのが3日前。
示し合わされたように、次々にパーティーが依頼を受領されたのが昨日の夕方の事だった。
そして、3日目の朝には不可解にも、ギルドの準備も整い、依頼の決行が決定した。
参加者は80人、高ランク冒険者も多く、中々の顔ぶれである。
そんな彼らを他支部から参加したD級冒険者が観察する。
1人は槍使い、もう1人は大剣使いである。
ソロで活動する2人は良く合同依頼で一緒になる事も多く、それなりに付き合いがあった。
そんな2人が今回は東支部の合同依頼を聞きつけ参加したのだが、ある意味有名な冒険者が集う東支部の者達を前に、目立つ冒険者を視線の先で追う。
「おい、トーテムのパーティーがいるぞ。」
「鉄壁のトーテムか。複数レイド戦時だけ、タンクが集まって出来るパーティーだろ。相変わらずごつい奴らばかりだな。」
巨漢を覆う重装備、その巨体の身の丈程ある重圧な盾を背負う集団。
一人一人が他パーティーで有名なタンク職であり、この様な場合にのみ、パーティーを離れ結成される防御専門パーティーである。
元々筋トレ仲間であった彼らの1人が、同じタンク職集まっているなら、盾パーティーを作っても面白いかもと、飲み屋で冗談を言ったのが結成の発端らしい。
「あっちには爆裂焔だ。また血の雨が降るな。」
「閉鎖空間でもあの惨状になるのか?流石にスライムまみれは勘弁願いたいな。」
焔の5人組が、何処かウキウキしながらも他冒険者と楽しげに話している、冒険者達を見ている2人には内容までは聞こえて来ない。
彼らがイベントについて話しているだろうとは2人には知る由もないだろう。
「あっちにはピエロか、C級に上がったらしいな、彼奴ら実力だけならA級クラスなんだけどな。」
「東の問題児の中でも、特に目立つからな。」
「他にめぼしい所だと、おぉ、ラリスタ参加するんだな、こういう目立つ共同戦線には参加しなかったんじゃないか?」
見掛けた有名人を目に槍使いの男の声が変わる。
先日闘技場ライブ以降、彼女達の存在は広く知れ渡り、接触してくる者も多くなった。
その為、彼女達も人の目の多く集まる合同依頼を受ける機会が無くなり、見かける頻度も減っている。
「有名人だしな、見た目も飛び抜けてるし、今回は目の保養には困らないな。ほら、あそこ、青蓮華の美人姉妹だ。」
槍使いの男の肩を叩き、大剣使いの男が、顎で青蓮華のメンバーへ方を示す。
「あぁ、見るだけなら問題ないんだよな。見るだけなら…」
「先週もやらかしたらしぜ。」
「南支部の一件か。未だにちょっかい出すやつが居るとは驚きだよな。」
「まぁ、東支部の人間には触らぬ神に祟りなしだ。俺達も無難に討伐に専念しようぜ。」
他支部の人間からすれば、東支部の冒険者と関わる事イコール問題に巻き込まれるが常識なのだ。
「さて、俺らもそろそろ、支給品受け取りに行って、準備を整えようぜ。」
「…」
「おい!行かないのか?」
反応ない槍使いの男へ向き直る。
彼の方を見てみれば、彼は目を擦って視線の先を2度見している所だった。
「どうしたんだよ、何か珍しいものでも見たのか?」
「あっ、いや、全身黒タイツの仮面マントが居た気がしたんだ。」
「はぁ?全身黒タイツって、そんな紙装甲で冒険者してる馬鹿は居ないだろ。」
槍使いの男は自分の見たものが幻だったのか辺りの冒険者達を見回して見るのだが、その姿をもう一度視認する事はその後なかった。
「確かに居たと思ったんだがな。やっぱりあれは噂に過ぎないのか。」
「なんだ、その噂ってのは?」
槍使いの含みのある言葉に興味をそそられ、大剣持ちの男が問いかける。
「飲み仲間の話なんだが、ダンジョンの亡霊と言われている冒険者が居るらしい。」
「ダンジョンの亡霊、どんな奴なんだ?」
「いや、まさに仮面マントのタイツ姿らしいんだが、急に現れてはモンスターを瞬殺、瞬きしている間に消えてるって話らしい。」
急に現れ一瞬で姿を消す、そんな眉唾物の話をする槍使い。
「ありえないだろ、冒険者の亡霊がモンスターを狩っているなんて話。」
その話を、大剣持ちの男は笑いながらありえない話だと一蹴する。
「だよな、ダンジョンの亡霊なんだからこんな所で見かける事もないな。」
槍使いもおとぎ話の様な話が本当にあるとは思っておらず、酒のつまみに語られた話を本気にはしていなかった。
幻を見たのだろうと、2人は依頼内容の説明をと支給品を配る受付へと向かうのだった。