モンスターハウスの出現報告
「やはりもう少し資金がないと辛い…」
先週の大出費により寂しくなった預金。
何かしらにつけては俺のへそくりを使い潰す、東支部の問題児達。
彼らの事後処理資金はギルドの予算では賄えない事が多い。
中間管理職としては辛い立場であり、上からの却下される予算打診の数々。
いつしか自分の資産を崩す事が当たり前となってしまった現状。
癖になった日常にある程度の余力は持って置かなければ不安になる。
「何か考えて置かないといけないな。」
色々と金策する事は出来る。
出来るが、それは最後の手段としたい。
俺からすれば他の所で臨時収入を得る必要があるわけで、頭の痛い所である。
そもそも、うちが現状回っているのは、実入りの少ないダンジョンで活動する冒険者が、東支部に所属していてくれるのが理由である。
冒走族による勧誘活動、新人教育のおかげであり、彼らに頭が上がらないのはこういった理由もある。
ダンジョンと言えば一攫千金の夢があると思われがちだが、実際はダンジョンブレイクの抑制が主なクエストである。
その為、ギルドからの直接以来であり、等級に寄る一定額が支払われるだけで他よりも美味しいクエストは護衛依頼位のものなのだ。
そんな彼らが離れない為に手厚い支援が必要であり、問題児達の尻拭いをしなければすぐに彼らは他支部へと転属してしまう。
俺の胃が苦しめられる訳である。
今日も今日とて不穏な気配が近づく、胃が締め付けられる感覚、問題が迫ってきている予兆だろう。
「支部長、ちょっとこれ見てくださいよ。」
「どうした、ルルセラが報告しに来るなんて珍しい。」
「これですよ!これ。アクレアのダンジョン4階層にモンスターハウス出現。」
「低級ダンジョンでモンスターハウスが出来たからって何があるんだ。」
アクレアと言えばスライムばかりの初心者ダンジョン。
一般市民も最下層の温泉を利用する為、入場する観光地ダンジョンだ。
「これじゃ、温泉に行けないじゃない。どうにかしてくださいよ。」
「いや、スライムしか出ないし、E級、F級に依頼出したら済む話だろ。」
モンスターハウスと言っても、2パーティーにでも依頼すれば簡単に撃退出来る、それがスライムという個体の貧弱さでである。
「ちゃんと報告書読んでから、結論出してくれます?」
受付嬢スマイルは崩さず、眉間に青筋を浮かべ迫ってくる彼女。
これ以上機嫌を損ねるとセクハラだの、パワハラだので問題にされかねない。
先週もそんな風に迫って来ては受付嬢をさせられることとなったのだ。
「分かった、見るから、落ち着いてくれ。」
彼女を宥めながら報告書へ目をやる。
「アクリア第4層にてモンスターハウス出現、広大なフロアに数百を越えるモンスター。スライム騎士、スライムマジック等Dランクモンスターが尖兵として確認。」
(はっ?こんなのが数百?ダンジョンプレイクしてるだろ普通。何だこの異常事態)
ダンジョンとは、決まったランクのモンスターしか出現しない。
同じ種であろうとも、存在自体が違う高ランクモンスターが大量に発生するなどありえないのだ。
稀に進化したモンスターが現れる事もあるが、それこそダンジョンプレイクが起こる前兆、もしくは起こった場合に限る。
「ドラゴンと言い、最近はダンジョンがきな臭いな。これは下手すればB級、A級のパーティーにも依頼を出さないと行けないな。」
「どうにかしてくださいよぉ。今回は時間が無いんです。」
妙に慌てているルルセラ、確かに大問題ではあるのだが、彼女のは危機感は他の所にありそうな気がする。
それはともかく、ギルドとしては、早急に対応しなければ沽券に関わる問題である。
「そうだな、レイド依頼の申請を上には通しておく。依頼作成と冒険者の選定は任せるぞ。」
「了解です、すぐに見つかりますよ。なんたって、ファン達ですから。」
「んっ?ファン?」
「いえ、此方の話です。あっ、、それと…必要物資は予算おりますか?」
「急だからな、俺が一時的に出すから取り敢えず心配しなくて良いよ。」
少し彼女の言い回しが気にもなるが、そこを渋っては東支部の支部長はやっていられない。
「言質いただきました。それでは早急に対応致します。」
何やら不穏な事を言葉を残し去る彼女。
この時の言葉を後悔するのは、少し先の話になる。
「それにしても、異常なダンジョンが増えてるな。資金稼ぎするには丁度良いんだけど。」
支部長室の壁を2回、右手の甲でノック、歯車が噛み合う音と共に壁がズレ上がっていく。
「久しぶりに一稼ぎしますか。」
奥に備えられた黒い全身タイツ、黒と赤のリバーシブルなマント、一角の角をモチーフに前頭部部分に角をあしらった黒い仮面。
中二病を擽る衣装を前に、意味深にほくそ笑んで見せる俺だった。