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異世界人のポーター4

 「今日も難なく終わりましたね。」


 「当たり前だ、私達が採取クエスト等で手間取っては居られないからな。」


 ギルドへの報告を終え、仕事の疲れを併設の酒場で癒す。


 「アキラ、オムライス食べたい。」


 「リリアナ様、流石に酒場にオムライスは置いてないと思うんですけど…。」


 「オムライス。」


 ぷくっと頬を膨らませ彰へ要望を押し通すリリアナ。


 彰も強くは言えず、酒場の主人に頼み込み調理場を借りに行く。


 「リリ、余り。アキラを困らせちゃ…ダメ。」


 「えぇ、だってアキラのご飯が1番美味しいもん。」


 「違いない、だが、アキラは従者ではなくパーティーメンバーだ、その辺をしっかりせねば嫌われてしまうぞ。」


 「うぇ、それはヤダ。リリ気をつける。」


 何時ものリリアナの我儘に振り回される彰、それを諌めるタチアナとエリアナ。


 1度は頷くのだが日をまたげばすぐに屋敷の調子に戻ってしまうリリアナの会話は何時もこんな感じではある。


 彼女達は所属は東支部であるが、他支部の仕事を受けに来る事も多く、今回は南の森林地帯のクエストを受けていた。


 報告も南支部になる為、今は南支部の酒場にいる。


 こういう時には決まって問題が起きる。


 何しろ貴族のお嬢様方、見た目はそこら辺の女性とは一線を画す美しさを持っている。


 荒くれ者も多い冒険者には、通りを弁えない者もそれなりにおり、そんな輩がたまに見る彼女らに目をつけるのは必然でもある。


 「よぉ、姉ちゃん達、前から良い女だと思ってたんだ、どうだ俺達と飲まないか?」


 「いらん、お前達のような無作法な誘いを受ける気はない。」


 声をかけたのは護衛依頼を受け、こちらに来ていたB級冒険者、彼らは知らない、彼女達に手を出す事がどんな不幸を招くのかを…。


 「中々威勢の良い姉ちゃんだ、俺らは黒豹、うちの国じゃ、ちっとは有名なパーティーなんだぜ。」


 「そう、でも、私達には関係ない…」


 「まぁまぁ、リーダーもそんながっついても駄目ですって、お嬢様方、俺らが奢るからさ、少し付き合って下さいよ。」


 「だから、断ると言っているだろう。」


 酒を煽りながらエリアナがばっさり彼らの申し出を切り伏せる。


 「お高くとまるのも大概にしろよ、リーダー、もう良いだろ、他に声を掛けようぜ。」


 痩せこけた小柄な男が悪態をついてからリーダー格の男へと声をかける。


 「だがな、こんなぺっぴんなかなかいねえだろ。」


 「取り付く暇もないなら諦めろ、男が女々しいぞ。」


 「お嬢さん、お高く止まってると痛い目見ますよ。」


 エリアナの蔑む態度に雲行きが怪しくなっていく。


 そこへ、オムライスを3つと新しい飲み物をトレイにのせ現れる彰。


 「お待たせしました、オムライス持ってきましたよ。」


 敢えて彼らを無視し、いつも通りに振る舞う彼、機嫌の悪さを感じ取った彰なりの彼女達への気遣いであった。


 「オムライスだ。ありがとうアキラ。」


 「ふわとろにしときましたよ。リリアナ様。」


 「アキラ好き、いただきまぁす。」


 他の2人も彰の食事に毒気を抜かれ、揉めていた事を忘れ食事に手をつける。


 そこで黙っていられないのは、放置された黒豹のメンバー、横からしゃしゃり出てきた平凡な青年に場の流れを持っていかれれば腹も立つ。


 「おいおい、兄ちゃん、お前はなんなんだ。」


 「はい?お嬢様達の従者です、僕は青蓮華のポーターをやっています。」


 ずっと突っ立っていた彼らから声がかかり、質問に対し答えを返す彼。


 「冒険者に侍従とは、どっかのお偉いさんのお嬢様が冒険者の真似事か。」


 「そんな頼りなさそうな男より、俺達が世話してやるよ。世間を知りたいならそっちの方が色々教えてやれるぜ。」


 「そうですね。俺達が守ってあげますし、大人になるのもお手伝いしてあげられますね。」


 「おいおい、あんたらそれ以上は辞めときな、ろくな事にならないぞ。」


 彰への蔑みが言葉に混ざり始めれば、見かねた近場の席から諌める声がかかる。


 「余計なお世話だ、俺らはB級だぞ、そこの平凡な侍従より100倍役に立つだろうさ。」


 「女に媚び売ってペコペコしてるような奴、俺達の相手にもならねぇっての。」


 「ゲスが、アキラは役立たず等では無い、お前達のようなクズが私達のアキラを蔑むな。」


 「あはは、怒ってしまいましたか?でも事実じゃないですか、身の回りの世話役、ただの荷物持ち、そんなのより俺達の方が戦闘でも役に立ちますよ。」


 紳士的な対応を心掛けていた男も、エリアナの言葉に気分を害したのか、外面が剥がれ始め、言葉に悪意が混じり始める。


 知っている者は知っている青蓮華へのタブー。


 周りの冒険者達がテーブルを彼女達から離し、被害区域になりそうな場所から遠ざかる。


 そして、やせ細った小柄な男が叫びもあげられずに宙を舞う。


 男の飛んできた場所にはエリアナが吹いあげた拳を掲げる姿がある。


 「てめぇ、何しやがる。」


 飛んで行った仲間をみやり、我に帰ったリーダー格のスキンヘッドが、エリアナに掴みかかろうとするが急な冷気に体の動きを止められる。


 「煩い、アキラへの悪口、許さない。」


 体が硬直してしまった男に向けタチアナが掌を広げ、掌の前に作られた氷塊を相手の腹部目掛け容赦なく打ち出す、男は氷塊に体をくの字に曲げ、先程飛んだ小柄な男の上へと吹き飛ばされる。


 「君達、ちょっとおいたが過ぎるね。」


 エリアナとタチアナの暴挙に剣を抜き、彼女らのテーブルを真っ二つに切り、怒りを顕にする最後の1人。


 しかし、彼の行動は逆に1人の少女の暴走を引き起こす事となる。


 「私のオムライス。」


 真っ二つになったテーブルに原型を留めないオムライス。


 その無惨な姿を見て涙を浮かべるリリアナ、彼女の啜り泣く姿にその場の一同に悪寒が走る。


 「いけない、リリアナ様落ち着いて、新しいの作りますから、泣かないでください。」


 「うっぐずっ、私のオムライス…」


 ショックに彰の声は届かない、目に溜まった涙が地面へ流れ落ちる。


 そして、涙が地面で弾けた時、ギルドの扉が外から衝撃に吹き飛び、大きな黒い影が原因を引き起こした男の背後から追突する。


 「ぐげっ…」


 人の叫びとは思えぬ声をあげ、カウンター内の壁へ頭からめり込む男。


 彼を吹き飛ばした巨大な影はリリアナを慰めるようと彼女の頬を舌で舐める。


 「ホーレン、またギルドを壊して、これどうするんだい。」


 リリアナの使役獸であるホーレン、2メートルはある巨体を持つ北方に生息するスノータイガーという魔獣であり、彼女の感情が乱れると場所を問わず現れ、その者を排除する。


 宿の獣舍からリリアナの感情を受け取りここまで飛んできたのだろう。


 リリアナが無事だと分れば大人しくするのだが、その時には時既に遅し、ギルドの酒場は無惨な惨状になっている。


 「はぁ、ホーレン、今日は食事抜きだからね、また僕が怒られるじゃないか。」


 「クゥゥゥン。」


 「仕方ない、悪いのはこいつらだ、店の修理費は私が出す、ホーレンを叱ってやるな。」


 食事を与えてくれる彰にホーレンも頭が上がらない、叱られれば縮こまり弱々しい声をあげ、耳と尻尾をペたりと下ろし項垂れる。


 エリアナはそんなホーレンを撫でながら、良くやったと褒めるのだが、この惨状を見て笑える者は彼女しかこの場にはいなかった。


 青蓮華の前で行ってはいけない2つのタブー、1、アキラへの暴言、2、リリアナの機嫌を損ねない。


 トロイヤに身を置く冒険者達にとっては当たり前な常識、しかし、流通の中心ともなっているトロイヤには度々外の国の冒険者も来る為、たまにこういう事が起こるのだ。


 三姉妹が彰に抱く感情が、侍従以上のものであるという事はトロイヤでは周知の事実


 ただ、当の本人だけは、鈍感過ぎるのか、その事実に気づくことも無く、彼女達の侍従として、今日も側で仕えるのだった。

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