異世界人のポーター2
怒涛の如く押し寄せる甲冑を身を包む騎士達。
助け出される子供達。
彰がいたのは違法奴隷を扱う一味の隠れ家の1つだったらしい。
「こっちにも階段があるぞ。」
「くそっ、こうなったらこいつだけでも連れてずらかるぞ。」
「おぉ、って…カギ何処やった?」
「はぁ?何言ってんだよ。早くしねぇと奴らが来るぞ。」
聞いた事のない言葉、何を言っているのか彰には理解出来ない。
聞きなれない言葉を話す目の前の男達、ただ、慌てている事だけは彼にも分かる。
(何か追い詰められてるな、もしかしてカギでも探してるのか?)
「くそっ隠し通路は牢の中だぞ、早く見つけろよ。」
「居たぞ。奴らだ。」
階段を駆け下りてくる鎧の擦れる音が下まで響いてくる。
慌てる2人は部屋の隅々までカギを探すが見つからない。
彼らの捜し物がカギである事に確信を持った彰。
彼らに見せびらかすよう、カギの付いたリングを指へかけ、これみよがしにクルクル回す。
「なっ!?いつの間に、渡せこの野郎。」
鉄格子に腕を突っ込み取り返そうとする2人だが、牢の奥へ離れている彰に届くはずもない。
「お困りのようで、僕をこんな所に押し込めた仕返しです。」
囁かな嫌がらせ、突如連れ去られ牢へ連れ込んだであろう者達、彼らに対して出来る嫌がらせだった。
しかし、それは彼等にとって命に関わる事なのだが、それを彼が知る由もない。
「居たぞ、残党だ。取り抑えろ。」
逃げる事の出来なくなった彼等、駆けつけた騎士達によりあえなく捕縛される事になる。
そして、捕まっていた彰。
騎士団達に救出されるが、やはり彼らの言葉は理解不能、何と言われているのかも分からない。
助けた彼等も言葉の通じない彼に頭を悩ませる。
「彼は此処に居るのか。」
「はっ、しかし、言葉が通じず、何故捕まっていたかも不明でして。」
「取り敢えず、会ってみよう。」
牢から出され数分後、対応に困った騎士達に連れられ、地下から上がった一室で待機していた彼の元へ、1人の身なりの整った騎士が現れる。
「君に話を聞きたいのだが?」
「???」
「これを付けて見たまえ。」
彼に手渡される指輪、指輪と騎士を交互に見て少し悩む彰。
流石にこれだけの出来事が続けば、彼も警戒しない訳には行かなかった。
「そうだな、不安であろう。」
指輪と自分を見比べ、警戒心を露わにする彰に対し、彼は指輪を自分の指に嵌めることで安全性を示す。
「着けても大丈夫って事か。」
指輪を渡してくる相手から手渡され、それを指へ嵌める。
「言葉は分かるかな?」
指輪を装着すれば、今まで理解出来ていなかった言葉を理解する事が出来るようになる。
「おぉ、ファンタジーだ。翻訳されてる。」
「うむ、ちゃんと効果はあるようだ。私も使うのは初めてでね。半信半疑ではあったのだよ。」
彼の話によると、大昔異世界の人間がこちらへ来た際、開発した魔法が付与された魔法具らしい。
言語共通化という魔法らしいが、そもそもこの世界の言語は共通化されており、倉庫で埃を被って居たのだが、彼も使い道があるとは思いもしなかった。
「それで君はどうして捕まっていたのかな?」
「僕も良く分かんないんですよね、いつの間にか牢に居たというか…」
彰は自分に起きた出来事を、目の前の身なりの整う騎士に聞いて聞かせる。
「ふむ、彼らが用いて居たものは、召喚の術式を応用した魔術で子供を攫っていたらしいのだが…無理な術式の改変が不具合を起こしたのかも知れないな。」
「それで僕は帰れるんですか?」
「単刀直入に言えば帰れない、異世界から呼ばれた渡り人の話はいくつかあるが、帰った者が居るという記録は残っていない。」
心苦しそうに彰に事実を述べる相手。
「そうか、帰れないのか。」
密度の濃い数時間を過ごした後、安堵できるながらに緊張する場面であった為、ショックをそこまで彼は感じなかった。
「僕はこれから、どうしたら良いんでしょうか?」
冷静に思考できるからこそ湧いてくる不安、他世界で不意に放り出された者、物語の中ではナビがいたり、自身で何だかんだ乗り越えたりしている。
しかし、実際学生である彼が現実に直面してみれば、右も左も分からない。
唯一手にしたのは異空間収納、身体能力等に変化は見られず、学生の彼に知識無双する程の理解力もない。
「君が良ければ私の所へ滞在するかかね。取り敢えずの生活は保証するが。」
そこから話はトントン拍子に進む。
騎士団団長である彼、テラス・フォン・ラクシリオン、子爵位を持つ貴族の庇護下に入り、当面の生活を保証して貰いながら自立を目指す事で彰の異世界生活が始まる事となった。