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爆裂【焔】のドラゴン討伐5

お待たせしました、決着回です

 今の今迄存在感が消えていたレリラの声が背後から響く。


 長い長い魔術構築と詠唱を終えた彼女が掲げた杖の先にはビー玉程の圧縮された水弾、発動と共に狙いを定めたその玉は、凄まじいスピードで逆鱗が剥がれ鎧を失った肉へ食い込む。


 今にも、地上へ向けて、広域プレスを吐こうとしていた所への不意打ちに、反応出来なかったレッドドラゴン。


 相手に取っては蚊にでも刺された些細な事だっただろう。


 だがしかし、それは受けてはいけない一撃だった。


 急激に全身を駆け巡る激痛、血が沸き立つ様な感覚にブレスが中断される。


 レッドドラゴンの体がみるみるうちに熱膨張を始め、加速する血流の動きに所々から流血が見られ、異常な体温の上昇に巨躯全体から蒸気が立ち上がる。


 今相手の血管内ではレリラが放った水弾が高速で駆け巡り、その運動エネルギーで莫大な熱量を生み出していた。


 そしてレッドドラゴンはその体を急激に膨張させ、宙で爆散する。


 爆音と共に発生するキノコ雲、地上へ迫る衝撃が辺りの木をもなぎ倒す盛大な爆発。


 状況を一変させるその景色に誰もが唖然とするしかなかった。


 ただ1人、レリラだけはやりきったと晴れた表情で爆発を見上げる。


 爆発が収まれば赤い雨が降る、当たり前だ、生き物が爆散したのだから。


 あれだけの巨体に巡る血液が辺りに広がり、血の雨を降らせ大地を赤く染めていく、まさに地獄絵図と呼べる。


 「だぁ、木っ端微塵じゃねぇか。」


 「ふぇぇ、服が真っ赤っかですぅ。新調したばっかりなのにあんまりだよぉ。」


 「い、良いじゃない、死んでたかもしれないんだし、今回は仕方ないでしょ。」


 唖然とした情景から意識を脱したオーレンが口を開く。


 それに続いて、血の雨に降り注がれ、赤く染める法衣に気がつくパルレが嘆きの声を挙げた。


 「はぁ…まぁたやったのレリラ。」


 「そのおかげで助かったようなものだがな、またしても素材は塵と消えたな。」


 血の雨の中を、皆と同じように真っ赤に体を濡らすシャーシャが近づいてきながらロトンの近くで問いかけ、それにロトンが頷きながら何も残らず赤く染まった空を見上げる。


 何時の間にか太陽石の光は戻り、明るくなった上空には青い空が広がっていた。


 「別に爆発起こす必要はなかっただろ、この爆発マニア。」


 「何よ、真っ赤な花火は綺麗じゃないの。」


 「これが綺麗?お前の頭のイカレ具合はどうなってんだよ。」


 「何時もの事ながら、この2人の口論はしょうもなく続く、どちらかが非難する形での口論、故に【焔】名物夫婦漫才。」


 「夫婦漫才じゃねぇ。」

 「夫婦漫才じゃないわ。」


 綺麗にハモる2人が傍らで、ナレーション風に呟くパルレを睨む。


 「2人共そういう所だよぉ、息ぴったり何だからぁ。」


 緊張感から開放されたパルレは満面の笑みで2人を茶化し、場の空気を柔らかくする。


 遠目から見れば赤く染まる大地、赤濡れの集団、その中で笑顔を浮かべる彼女の姿は、狂気睨に染まっているようにも見えるのだが。


 「さて、帰るぞ。もう転晶石も使えるようになっただろ。」


 「早く帰ってお風呂入らしてよ、血ってドロっとしてて気持ち悪いのよ毎回。」


 「くそっ、残ったのは逆鱗だけかよ、今回は出費の方が高くついたな。」


 ちゃっかり拾っていた逆鱗を片手に抱え、反対の手に握る転晶石を使用するオーレン。


 パーティーメンバーがここに光の柱に包まれ足元から徐々に浮かび上がる魔法陣によって消えていく。

 

 彼等が去った後には赤い血に染まった大地と、綺麗な水場だった筈の湖の無惨な姿だけが残された。


 因みにレッドドラゴンが爆発した要因は水蒸気爆発である。


 体内を数百度迄熱せられた所へ、凝縮された水弾の水を開放、一気に蒸発する大量の水蒸気が、膨大な圧力を生み出し臨界を超えて爆発したのだった。



 転晶石によりギルドへ転移する【焔】一同。


 ギルドカウンター横に設けられた転移ポータル、そこへ突如現れる真っ赤に染まる少女達の出現、併設する酒場の者たちが、驚きによって手に持つ小ダルのカップを落とす。


 「…。何だ、爆裂【焔】かよ、真っ赤じゃねぇか、またアレやったのかよ。」


 ギルド内の冒険者の1人が彼等を認知すれば、周りの者もまたかと通常を取り戻す。


 「おいおい、今回は何を爆発させたんだ血爆(けつばく)。」


 その名の通り血を爆発させる為についたレリラの2つ名、【焔】の中でレリラの認知度だけはインパクトが強すぎて特出している。


 それ程彼女がモンスターを爆破してきた事を物語っているのだが。


 「成体のレッドドラゴン、8メートルはあった。なかなか豪快な爆発は見物だったわ。」


 「だから、見物だったじゃねぇ、いつもいつも真っ赤になりながら帰ってくるこっちの身にもなれよ、大体お前のせいで素材依頼は殆ど失敗するんだ、自重しろよ。」


 「はぁ?あんただっていつもトラブルの起こる依頼ばっかり受けてきてピンチ招いてるじゃない。どんだけ運がないのよ。ラック上げてから出直しなさいよ。」


 東支部名物【焔】の痴話喧嘩、誰も2人を止めようとはせず、酒のあてや話題の種に見守る。


 そんなふたりを他所にシャーシャとパルレは宿へ急ぎギルドを後に、ロトンは受付嬢に謝罪を入れながら依頼報告を行う。


 これが彼等の冒険者としての日常であり、いつも通りの冒険の終わりであった。

次はストレラにどんな不幸をお届けしようか、素材依頼者の時点で不幸は確定してるんですがね

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