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爆裂【焔】のドラゴン討伐3

 異変は突然にやってくる。


 幼体のレッドドラゴンが雄叫びを挙げた姿勢のまま沈黙する。


 パーティーメンバーが戦闘の終了を認識し、その緊張を解いたその時、辺りの景色が瞬時に暗転する。


 急な暗転に目はついて行かず、一瞬の暗闇を彼等にもたらす。


 蛍光石の仄かな光が淡く灯りだし、薄暗く辺りの視界を取り戻すには少しの間を要した。


 「っ?暗明時間?まだその時間じゃ無いでしょ。」


 状況確認を日々行うレンジャーのシャーシャが逸早く異変に反応を示す。


 「おぉ、王道の異変勃発、ワクワクするよな。」


 「それはあんただけ、命掛かってんの、分かる?ゲーム感覚脳は寝ぼけてる時だけにして欲しいんだけど。」


 突発的な状況に置いて、冒険者をやっていればまずパーティーの集結、それなりの経験を積んでいるパーティーならば、反射的に行う行動を彼等も当たり前のように行う。


 「流石に今の状況で喚くのは止めてくれ、辺りの異変を探れ、奇襲が来たら俺1人で守るのは無理だぞ。」


 ロトンの注意喚起に、他のメンバーも些細な変化を見逃さないよう、緊張感を増して辺りを警戒する。


 「ね、ねぇ?何の音かな?」


 耳を澄ませば聞こえる音、一定の感覚で大気を震わせるその音の発生源に皆の視線が向いていく。


 音の発生源、それは今倒したと思っていたはずの敵、レッドドラゴンの心音が、大気を震わせる迄に高鳴っていた。


 「マジかよ、流石にこれは俺もワクワク出来ねぇわ、嫌な汗かいてきたぜ。」


 これから起こるであろう、想像するのも億劫になる未来。


 起きて欲しくない事程、その通りに起こるのがダンジ ョンの恐ろしい所でもあった。


 「パルレ、今のうちに凍らせて、私は一応デカいの用意しとく。」


 レリラが叫ぶ、それに応じパルレが契約する精霊の力を引き出す。


 本を掲げ、辺りに冷気の霧が立ち込め、レッドドラゴンを覆い尽くし、そのまま相手の体を凍てつかせる。


 「これは、笑えないわね…逃げた方が良くない?」


 白く塗り固められ凍りついた目の前の巨躯、その体に入る無数のヒビが広がる。


 その中から肉が盛り上がり、凍った表皮をパラパラと地面へ降り注がせ、新たに見えて来るのは赤く光る立派な鱗。


 シャーシャの視線が、変貌していく敵の姿に釘漬けになってしまう。


 「それについて悪い知らせがあるんだよなぁ。どうやら転晶石が使用不可らしい。」


 オーレンが手に持つ転晶石を皆に見せ、絶望的な状況を伝える。


 響く心音を察知した際、彼が最初に行ったのが転晶石の使用、リーダーとして決断する時は即座に行動を起こす。


 何処か抜けている彼が、パーティーのリーダーとしてやっていけているのは、その思い切りの良さである長所があるからだった。


 「転晶石が使えないって事は、あれが最低でも、階層主レベル迄格上げされたって事だな。」


 「いや、ドラゴンだぜ、良くてダンジョンボス、悪けりゃ隠しボス並だろ。」


 全員の首に死神の鎌が幻視される。


 死を身近にする経験は、冒険者をやっていればそれなりに遭遇する、Aランク迄上がれば1年に1度はある程。


 ただ、ここまで濃密に感じる事は、安全マージンを取る上で、滅多な事でもなければ存在しない。


 彼等が自分達の未来に、()()の文字を思い浮かべている間に、それは産声をあげる、産声とは掛け離れた低く身の毛のよだつ鳴き声で。


 「グォォォ、グルルゥゥ。」


 熱気を纏わせる吐息、先程よりふたまわりは巨大化した体躯、更に強固に生え揃った鱗、輪郭はハッキリと整い丸みが無くなっている。


 その場に存在するだけで場を支配する威圧感、成体のドラゴンの迫力は。彼等が思っていた以上のものだった。


 ただ、先程の幼体である事は受けた傷が、そのまま残っている事から間違いはなかった。


 「仕方ない、俺が出来るだけ時を稼ぐ、その間に逃げるんだ。」


 「何かっこつけてるんだよ、あれか?俺の事は良いから先にいけとか夢見てたタチかよ。」


 覚悟を決め、大盾を握る拳を更に強く力を込めるロトン、そんな彼の言葉を馬鹿にする様に茶化しながら、隣へと並び立ち大剣を構えるオーレン。


 「逃げろと言われても、ここの特性上逃げられる分けないでしょ、空飛ぶ相手に鬼ごっこで勝てる筈無いんだし。」


 「私達何時も冒険してるのですよ。良くある主人公属性って言うものなのかな?」


 シャーシャとパルレも、呑まれかけた意志を取り戻し、覚悟を決めた顔付きで、前方で悠然と彼等を見下ろすレッドドラゴンを見返す。


 レリラだけは未だに長い長い呪文を唱える事に集中していた。


 「実際さ、俺らは誰か見捨てて生き延びる選択、出来ないだろ。性根がそういう風に出来てねぇよ。」

    

 「私達。なんて言っても東組ですからねぇ。」


 曲者揃いの東支部所属、問題児は東にありと言われる程にトロイヤでは常識だ、彼等もまたその同じ穴の(むじな)なのであった。


 そしてレッドドラゴンの再びの咆哮が、開戦の合図となり、彼等の予期せぬ冒険が幕を開ける。

次回は激戦、そして決着迄を予定、サブタイトルの爆裂についての理由も明らかになる予定。

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