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クラン【冒走族】の新人教育5

 トロイヤの東西南北には、元魔窟と呼ばれていた数千年前より不思議な区画が存在する、半径約3キロ、危険度の高いモンスターが、近寄り難くなっている。


 近寄り難くなっているだけで、入ってこない訳では無いのだが、それでも新人冒険者にとってはありがたい安全地帯が確保されている。


 諸説あるが、幻の国フリージアによる保護結界が張られているというのが、最も有力である。


 その結界そのものを見た事がある者がおらず、原理自体は解明されていない。


 そんな中、彼らが向かう東と南を繋ぐ森林地帯、サートの森、安全地帯となる区間を超えてしまえば、魔の森とも言われる危険地帯へと変貌する危なげない場所である。


 ただ、浅い地域には、日頃から街の人間でも気軽に入れる程度には、安全が確保されている場所でもあった。


 東門を出て小一時間の道のり、外壁を横目に進めば目的の地点へは差程問題もなく着く。


 「ここから俺が警戒しながら先頭、その後にフットとフルーネ、フォートは背後警戒を頼むな。」


 「後ろは任せとけ、フットはフルーネの事しっかり頼むぞ。」


 森に入る直前にもう一度隊列の確認、安全を考慮した彼らの行動は、1週間前とは見違える冒険者の姿である。


 「地図の把握は任せて、ルートが変わっても大丈夫なようにマッピングしておくから。」


 「僕は何かあった時にすぐ動くよぉ。」


 手の相手いるフルーネが、現在地と目的地の経路を再確認、フットはまったりした口調を変えずに話す所が本当に動けるのか不安を仰ぐが、3人は疑ってはいない。


 小太りなフットであるが、これで瞬発力には優れたものを持っている事を他の3人も知っているからの信頼感があるのだろう。


 「よし、完璧に終わらせて総長達を驚かせようぜ。」


 意気揚々としながらも、警戒を怠らず森へと侵入していく4人、彼らの先に悪夢が待ちわびているともこの時の彼らに知る由もない。


 森に入り、いくつもの気配を避け、フットラビットとの接敵を回避し続け、数百メートルの距離を進むのに数十分をかけ、目標の地点へと辿り着く4人。


 「おぉ、すげぇな、取り放題だぜこりゃ、さっさと全部取りまくって帰ろうぜ。」


 広がる薬草畑、選び分ける時間さえ必要も無い、見渡す限りの薬草の群生地、そんな光景を目にしたフォートの言葉にフルーネからのキツい一撃が落とされる。


 「馬鹿は休み休み言おうね、薬草は丁寧に根っこから、必要以上に取らない事、冒険者の常識でしょ。」


 フォートの独断専行、タオラネパーティーが危機に陥った問題点。


 しかし、真面目なフルーネが彼の舵を握れるようになった事でその危うさも無くなったと言える。


 「僕達は取り敢えず20束、初めてだし丁寧に採取しようよぉ。」


 「俺は辺りを見回るから、終わったら合図くれよ。一応手信号が見える所には居るからさ。」


 「カルト君頼むね、気を張ることばかり任せちゃって。」


 狩人として育てられたカルトに取って斥候や気配を消して行動する事も差程の苦労もない。


 レンジャーとしての能力も幼い頃から育まれた彼にとって、パーティーで行動する事こそ、真価を発揮出来る場面であった。


 数分、3人が初めての採取に悪戦苦闘している間、辺りの草木の影で目視出来ない範囲、その場所を動きながら警戒巡回しているカイトの背中に悪寒が走る。


 体に突き刺さる視線、自分の中で警戒信号が鳴り響き、嫌な汗が滲み出ていく、足元がすくみ動きを阻害し唇が冷たくなる感覚。


 視線にははっきりと殺意が込められ、気づかれている事を如実に物語る。


 (ヤバイ、皆に知らせないと、相手はなんだ、落ち着け落ち着け、冷静な判断が冒険者には大事、まずは危険度の把握だ)


 道具袋から取り出す赤く塗られた石、それを振り返りざまに他の3人がいる開けた薬草の群生地へ、下投げで投げ入れる。


 何かあった場合危険度毎に割り振られた石を投げ入れることになっていたが、今回投げた赤に関しては使う事が無いだろうと考えていた。


 赤い石の合図、それは犠牲を出してでも逃げよ。


 振り返るカルトの目に映る黒い巨体、彼を遥かに高くから見据える赤く染まった瞳を見た瞬間、彼に選べる選択は1つしか存在しない、そう、囮としての役割に徹する事。


 思い経てば動こうとしない足を拳で奮い立たせ、パーティーに気づかせないで標的を誘導できる最善ルートへ駆け出し、一心不乱に走り出す、相手が自身を追っていることを気配で確認しながら。そして…。


 (皆、無事に逃げてくれよ)


 数日だけでも仲間と呼べる存在になった彼らの安否を願いながら。

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