クラン【冒走族】の新人教育4
「カルトよぉ、ズバッと言うがお前に魔法の才能はねぇ、魔法を発動する為の最低量がねぇんだわ、諦めろ。」
残酷であろうが慰めは、これから冒険者をやっていく新米には必要ない、ヤーさんの教育論ではそうなのだ。
「そうか…だけどよ、魔力がからっきしって事はないんだろ?なら、その魔力、使わない手はないよな。」
子供というものは夢に溢れ、明日を見る生き物である。
割り切る事が上手くなれば大人びるが、それは人生の楽しみを、多大に損する行為であるとも言える。
夢や未来を信じられなくなれば、その先にはただ生きているだけで虚無感に晒されるものである。
諦めが悪い者を無駄だと蔑むか、それとも不屈の精神を持つものと称えるか、それは、人の感性やその物事の内容によって異なるだろう。
ただ、教育者がそれをしては行けない、とことん付き合い挫折したなら慰めればいい、ヤーさんのこの立場に着いてからの曲げれない教育方針であった。
「アァ?本気で言ってんだろうな?無駄な努力になる覚悟はあんだろうな、コラァ。」
「試してみないで諦めるより、試して納得したいんだよ俺は、なぁ、駄目かヤーさん。」
声を出さなければ目つきの悪いチンピラでしかない強面顔のヤーさんがカルトへ顔を近づけメンチを切る。
そんな彼に臆することも無く、年相応の期待と懇願を瞳に宿しカルトがヤーさんを見返す。
「一丁前な事言いやがって、フルーネ、お前は魔力操作は中々だったな、カルトの魔力を自分の魔力で循環させてみろ、カルトは魔力を体感する所からだ、分かったか、コラァ。」
舌打ちを軽く鳴らし、カルトの頭を乱雑に撫でれば、基礎魔力訓練中の魔法職の中から、選んだ優秀生のフルーネへ課題を与えると共に、カルトにも基礎の授業を受けさせる事にする。
トゲトゲしかったカルトの態度の軟化、人との繋がりを持ち始めた彼は周りの者との交流も増えていく。
これまでと同じ毎日を過ごす彼らにも少し変化が訪れ始める。
ただ、訓練を受けるだけだった彼らもカルトに触発されてか、自分達の足りない部分の底上げを図る為に情報交換をするようになったのだ。
「基礎をしっかり作る為にやってんだよぉ。お前らこれじゃ俺の仕事が増えちまうだろうが、いい加減にしてくれぇ。」
各々に割り振った授業内容に、新たに身勝手に付け足す彼らの行動、項垂れながらも適切に指導するあたり、彼の真面目さが伺われた。
今までの訓練に+αが加わりより密度の濃くなる訓練を受ける新人達。
彼らの体力は限界まで費やされる事になるが、その目には新たな目標がしっかり宿り、訓練そのものに打ち込む態度も前にも増して身が入るようになった。
慌ただしくも彼らに取って有意義な時間は2日間という訓練期間は瞬く間に過ぎ、そして、最終日の朝が訪れる。
「さて、これまでにお前達は肉体と知識冒険者としての基礎部分を最低限身につけた、最後は実践やる。」
「今回はパーティー事に採取クエストをやらせるぞ、コラァ。」
今回はカルト以外はパーティーを組んでいる者達であった為、パーティー別に依頼となった、カルトについては最終的に1番打ち解けたフォート、フット、フルーネのタオラネパーティーである。
タオラネとは彼ら3人の故郷である村の名前であり、フォートの突飛なパーティー名を無視し、フルーネが無難な所へ落ち着ける為に申請した名であった。
「今回は東と南の境界に広がる初心者向けの採取だ、傷薬の材料となる薬草を各々別れた場所で採取してもらうぜ。コラァ。」
「各パーティーは指定された場所で採取を行うこと、フットラビットも生息しているけど、戦闘は極力避けるのよ。」
魔法実技の担当であったラズベリーが説明と共に、採取地域を割り振った地図を各パーティーリーダーへと配る。
「これはクランからの依頼だ、達成出来ようと出来まいとペナルティーはない、だが報酬は出る、時間は日が沈む前には戻る事、時間超過にはペナルティーを課すから守るようにしろ。では、開始!」
班長の号令共に皆が各々のパーティーに別れ行動を開始する。
タオラネ、カルトチームはまずパーティーで集まり地図を広げ囲い始める。
「取り敢えず俺達の場所は、南に1番近い場所だな。」
「距離は他より遠いけれど、薬草の豊富な場所の筈だよ。」
「その変わりモンスターの数も多いらしいから気をつけないと戦闘になるねぇ。」
「索敵は俺がする、警戒される位置やこっちから攻撃しなきゃ戦闘にはならないだろうから、その辺は俺が受け持つぜ。」
目的地への経路、情報の精査、パーティーでの役割分担等、事前の話し合い、これは叩き込まれただけあり、他の班も行っていた。
カルト達も意見を出し合いこれをまとめていく。
「こんなもんだろ、今回はカルトの狩猟スキルがある分安全にこなせそうだな。」
「またぁ、フォートはすぐ調子にのる、油断は禁物なんだからね。」
フォートの緊張感のない言葉にフルーネがしっかり釘を刺す。
「まぁまぁ、任せとけって、気配がしたらすぐ知らせるからさ、万が一戦闘になったら練習した連携で撃破、無理そうならすぐに撤退な。」
「カルトの方がリーダーらしくなっちゃったよねぇ。」
そんな2人のやり取りをカルトが宥めながら、もしもの対策も考慮に入れて意見する。
フォートを茶化すようにフットが、そんな事を言いながら場を和ませるのが、この2日で彼らがどれだけ親密度をあげたか見て取れるものだ。
「よぉし、それじゃ、俺達の冒険者としての初依頼だ、しっかり達成して認めてもらおうぜ。」
これだけは譲れないと締めくくりはフォートが先陣を切って声をあげる。
冒険者になったつもりで受けた依頼ではなく、冒険者になった事を自覚しての初めての依頼はこうして始まった。
後1ページ2ページで締めくくれる予定です
カルト達の初任務お楽しみに