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ゼノの追想譚 かつて不死蝶の魔導師は最強だった  作者: 遠野イナバ
第三章/前『死の商人編』

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91 パーティーメンバー、チェンジでお願いします

「とりあえず、酒場かどこかで聞きこみでもしますか?」


「聞きこみも何も情報は掴んでいる」


「まぁたしかに……」


 たいへん風光明媚な宿(サクラナ式の)に着いたゼノたちは旅の荷物を解き、観光組のミツバとリィグ。それから調査組の王子、フィー、ゼノの二手に分かれて行動を開始することにした。さっそくゼノたち、調査組はヒューゴの工房に向かうべく、ネージュメルン郊外の林の中を歩いていた。


「死の商人か……」


 王子の調査によると、最近イナキアの商人たちのあいだで『死の商人』という、物騒なうわさ話が広まっているそうだ。


 ──強大な力を有する古代兵器を手に入れた。

 その研究と量産を目的とした工房を建てた。

 我らが崇高な目的に賛同する者には古代兵器の復活が叶ったあかつきに、その恩恵を必ずや享受すると約束しよう。


 そう喧伝し、自国や他国の金持ちどもから出資金という名の多額の寄付金を募っているそうだ。

 これから捕らえる予定のビスホープ侯爵もそれにひとくち乗っている。


 ちなみに、古代兵器とはいわゆる『兵器型』の魔動機のことを指す。


 いにしえの大戦時に広く使われていたそうだが、あまりの危険さゆえ、フィーティアが封じて禁忌のからくりとして説いている。

 死の商人とやらは、その古代兵器の復活などという怪しげな計画を目論んでいるわけである。


「王子の推測では死の商人はエオス商会の会長、レイラっていう人物が怪しいと睨んでいるんですよね?」


「ああ。若い娘……だったが、たびたび闇市場を開いては、異郷返(いきょうがえ)りの人身売買などの非合法な商いを行っている。おそらくは資金の調達が目的だろうが──ほれ、偽のクラウスピルの宝剣、あれもエオス商会で売っていただろう?」


「ああ、ポエミ村の……」


 ゼノの養母ケイトの故郷、ポエミ村にも旅商人として来ていたエオス商会。その店先には宝剣クラウスピルのレプリカが並んでいたそうだ。

 よって、死の商人うんぬん以前に色々とうちとも因縁のある商会なのだが、その商会が開く闇市場(ブラックマーケット)を先日王子がひとつ潰した。


「競り会場の倉庫にも宝剣のレプリカが置いてあった。すべて破壊して売り物にならんようにしたが、まあ、あまり意味はないだろうな」


「そうですね。製造自体をとめないとこればかりは……」


「うむ。だからこれからアウロラ商会の工房を潰しに行くのだ」


 イナキアでも屈指の大商会。アウロラ商会は、幅広い品物を取り扱う『雑貨商(ざっかしょう)』だ。

 一般向けの商品はもちろん、同業者から依頼されて作る品もある。

 その中にはエオス商会。

 武器商(ぶきしょう)である彼らから注文を受けて、アウロラ商会では偽の宝剣を製造しているはずだと王子は考えている。


「アルスたちも言っておったろう? アウロラ商会の長が魔動砲を買い取ったと」


「ええ、まあ……」


 イナキア内の遺跡から発掘された古代兵器『魔動砲(まどうほう)』。

 本来ならばフィーティア機関のもとで封品指定(ふうひんしてい)されるはずだが、彼らの手に渡る前に闇市場に流れてしまう。


 そこで競り落としたのがアウロラ商会の会長ヒューゴ・クルニスだ。

 商都アルニカで出会った少女、クレハの父親でもある彼は、購入した魔動砲をいずれかの工房へと運び、量産を目論んでいる。


 そう、アルスたちは言っていた。

 ヒューゴが魔動砲を手に入れたことは、一部の商人たちの間ではもっぱら有名な話らしい。

 ゆえに、死の商人はヒューゴ・クルニス。

 ティアが起こした海霧事件の裏でまことしやかに流れていた噂話である。


(でも、王子はその『レイラ』っていう、エオス商会の会長が死の商人だと考えている)


 理由をたずねると、


「なんとなく」


 とのことだった。

 そういうわけで、そのなんとなくの勘に付き合わされてゼノはいまからこの寒空の下、ベル湖にあるヒューゴの隠し工房の下調べに向かうところだった。


「フィー、ちゃんと前を見ないと転ぶぞ?」


 振り向けば、雪原仕様の分厚い猫(犬?)耳ローブを着込んだフィーがあとをついてきている。

 黄色の長靴にふわもこ手袋。

 いつにもまして愛らしい姿の彼女は地図に夢中のようだ。

 広げている紙の向きが逆さまなことには黙ってあげておくとして、うっかり転倒でもしたら大変だ。


 ゼノは少しだけ歩調を緩めて、左の手のひらをフィーへと差し出した。


「ほら、手繋ぐか?」


「……」


 無視だった。切ない。

 ゼノは虚空をさまよう手をそっと引っ込め、ポケットに突っ込んだ。

 さくさくと無言で先を行くふたりの背中を見つめてゼノは思う。


(やっぱり、リィグ連れてこればよかったかなぁ……)


 今回のこのメンツ、会話が絶望的に弾まない。

 ゼノは遠い目をして雪空を仰いだ。

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