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ゼノの追想譚 かつて不死蝶の魔導師は最強だった  作者: 遠野イナバ
第ニ章/後『海霧の怪人編』

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61 ラパン商会の長

「ここです」


(すごいハーブの量……!)


 ティアに案内されて入った店は、驚くほどにハーブの種類が充実していた。


 店内はそう広くはないが、四列に並んだ棚には様々な薬瓶が並んでいる。


 薬草に果実。花やら根っこやら。乾燥したキノコまで。


 この手の店を覗くのが好きなゼノでも、ここまで品揃えのいい店は初めて見た。


「お話できるか、ちょっと聞いてきますので、ここでお待ちください」


 ティアが軽く一礼して、店の奥へ入っていった。

 その間、暇なゼノは近くの棚を眺めた。


「メドウ草に、雪精花。それにルナの葉まである……」


 凄い。

 とくにルナの葉(こいつ)は空気が澄んだ山でしか採れないから入手が難しく、王都でもほとんど見かけない。


 少し前につぶれた自宅下の雑貨店なら、取り寄せを頼めば仕入れてくれたが、まさかこんな所でお目にかかれるとは。


 流石は商業国家というべきか。

 ゼノがひとり感動に震えていると、ティアが店の奥から顔を出した。


「お待たせしました! こちらへどうぞ」


 彼女に案内されるまま階段をのぼり二階へ上がると、簡素な扉があった。


「お客様をお連れしました。アルスタン会長」


「入れ」


 短い言葉ともにティアが扉を引くと、二十代前半くらいだろうか。

 若い男が大量の書類の山に埋もれていた。

 涼しげな黒髪と銀杏色の瞳。


 イナキアでよくみかける商人風の恰好をした彼は、椅子に座って、机に高く積まれた書類相手に判子を押していた。


「あれ? あんたら、さっきの」


「グレンさん!」


 応接用らしきソファーに寝転ぶ赤毛の男は、つい先ほど港で会ったグレンだった。


「知り合いか?」


 黒髪の男がすっと瞳を細め、ゼノたちを一瞥したあと、グレンに訊ねた。


「港で釣りしてたら会った。そこの嬢ちゃんが具合悪いってんで、ちょっと介抱してやったんだよ。な?」


「ええ、さっきはどうも。えーっと……グレン、だったかしら?」


「そーそー、グレンな。お嬢ちゃん」


 グレンがニカっと笑い、ミツバが気まずそうに目をそらす。

 彼女は意外にも、こういうタイプが苦手なのだ。

 昔から。


「それで、俺に話があると聞いたが、なんの用だ?」


「おーい、アルス。ここはまず自己紹介からだろ。あと、書類それ


 グレンに指摘され、アルスは書類から手を離し、口を開いた。


「……失礼した。俺はアルスタン・ラパンリー。ラパン商会を預かる商人だ。そして隣の男はグレンという。すでに面識があるようだが、彼は俺の商会の雑務担当だ」


「そこはせめて、秘書って言ってくれよー」


「貴殿らの隣にいる女性が秘書のティアだ。例の通り魔から彼女を助けてくれたと聞いた。礼を言おう」


 グレンの言葉を無視して、アルスは淡々と自己紹介をした。

 グレンがなんともいえない顔でソファーから立ち上がり、窓際へ移動した。


「それで、何の用だ? 見ての通り俺は忙しい。手短に頼みたい」


 煩わしそうに言って、アルスは書類に目を落とした。

 すぐにペンを走らせていることから、訪ねる時間が悪かったのかもしれない。


(一度、出直したほうがいいかなぁ、これ)


 そう思い、ゼノは王子に目で合図を送った。


 しかし、こちらを見ていなかった。

 そればかりか、


「余はライという。ここへはとある男を探しにきた。ゆえに情報がほしい。言い値で買ってやるから、知っていることを全て教えろ」


(ちょっ……王子!)


 なんという偉そうな態度。

 さきほどから書類にばかり目を向けているアルスも大概だが、我が王子ながら負けてはいない。


 グレンとティアが目を見開く中で、顔を伏せたままアルスが会話を繋いだ。


「……言い値か。では、一億ラビーといってもか?」


「ふむ……それはちと無理だの。一千万ラビーまでなら出そう」


(どっちも高いよ!)


 どんなに出せてもユーハルド金貨十枚。

 ラビー換算で六万だ。

 内心で冷や汗をかきながら、ふたりの会話を聞いていると、急にアルスがふっと笑って、机から顔をあげた。


「なかなかに面白い子供だ。グレン、茶を出してやれ」


「へーい」


「あ、お茶ならわたしがお出しますので……」


「いいよいいよ、座ってな。ティア、今日は非番だろ? 茶なら俺がやっとくから」


 笑って言って、そのままグレンは部屋を出て行く。

 ゼノたちはアルスに促され、ソファーに腰かけた。


「王子っ! 流石に一千万ラビーとか出せませんよ」


 隣に座った王子にそっと耳打ちすると、「は?」という顔をされた。


「──冗談だ」


 アルスがゼノを見て言った。


「そう顔を青くされては、逆にこちらが驚く」


「え? あ、冗談……?」


 間抜け面を晒してしまったゼノから視線を外し、アルスは王子に顔を向けた。


「話を聞こう。ライといったか、探している人物というのは?」


「パトリック・ウイエ・ビスホープ。つい最近イナキアに入ったと聞いておる」


「ビスホープ……。妖精国の侯爵家のひとりか」


「流石に知っておるか」


「当然だ。うちの客ではないが、大層金払いの良い御仁だと聞いている。宝石商の間ではもっぱら有名な話だ。その侯爵がどうした?」


「エオス商会、という商会と繋がっているらしい」


「なるほど。それでうちに来たというわけか」


(何が?)


 いまの会話のどこに納得する要素があったのか。

 アルスは頷くと、ちらりとこちらを一瞥した。


「そこの少年。貴殿は魔導師か?」


「え? オレですか?」


「腕輪。それは古い遺跡から発掘される魔導品だろう?」


「ああ、これ。そうですけど」


 アルスに指摘され、ゼノは左腕に視線を落とした。

 風の腕輪。

 むかしアウルから貰った魔導品だ。

 ローブで隠れていたと思うが、流石は商人。

 意外と目聡い。


「取引だ。こちらの依頼を引き受けるというのならば、情報をくれてやろう」


「取引ぃ? 何か面倒な頼みごとじゃないでしょうね」


 ミツバが嫌そうな顔をしたところに、グレンが茶を持って入ってきた。


「嬢ちゃん。そんな顔すんなって。それよりアルスいいのか? こいつらにそんな話、頼んじまって」


「構わない。ちょうど魔導師を探していたところだ。適任だろう」


 それに、と付け足してアルスは部屋の隅に立つティアを一瞥した。


「うちの秘書も襲われた。どのみちこのまま自警団の連中に任せていたところでは後手に回るだけだ。俺としては事件の解決を急ぎたい」


「……まあ、アルスがそう言うならいーけどさ」


 グレンはあまり乗り気ではないようすで、持って来た茶を配った。


(コーヒーか)


 豊かな焼き豆の香りがする黒い茶。

 ユーハルドでは珍しい飲み物だが、ロイドが愛飲しているので、アウルが存命だったころに飲ませてもらったことがある。

 紅茶とは違うほろ苦い味。

 ショコラと食べるとより旨さが増すとロイドが話していたが、ゼノはどうも好きにはなれなかった。


「髪切り事件については知っているか?」


 アルスが出されたコーヒーに、ざっと砂糖を入れる。

 スプーンで五杯もだ。


「知っているわ。ここに来る前にティアからも聞いたし、うちのリーナイツでも噂になっているもの」


 ミツバが答える。

 茶をひとくち飲んで、べっと舌を出していることから、彼女の口には合わなかったようだ。

 すぐに横に置かれたクッキーをかじった。


「あれよね? 霧がどうとかでか、犯人が捕まれないってやつでしょ?」


「そうだ。ふたつき前から続く通り魔事件だが、いまだ犯人が捕まらず、足取りも掴めていない。最近になり、やっと町の自警団の連中も重い腰をあげたようだが正直にいって手詰まりの状態でな。お前達にはその犯人を捕まえてほしい」


「え! 犯人をですか?」


「ああ」


 驚いてゼノが聞けば、グレンが書類の束を渡してきた。


「それな。うちの常連さんのリストなんだけど、事件の被害者のほとんどが、そいつに載ってる娘さんたちばかりでな。うちも迷惑してんだよ」


「それはまた……」


「な、ひどいだろ? まるでうちに恨みでもあるのかって思うけど、なにせあまりにも心あたりがありすぎて、どうしたものかと困ってんだ」


(あるのか、心当たり……)


 そういうことなら自業自得ではと思いつつ、リストをぺらぺらとめくっていると、アルスが積まれた書類の山から、一枚紙を引き抜いた。


「巷では姿なき『海霧の怪人』などと呼ばれてはいるが、犯人の正体はおそらく魔導師だ」


「……魔導師? 犯人は魔法を使うんですか?」


「ああ。霧が出る、というのは知っているだろう? あれはおそらく水の魔法によるものだ。いくらこのアルニカが海沿いの街だからといって、そう頻繁に霧は出ない。つまり犯人は魔導師、もしくは魔導品を使ったいずれかの者である、というのが俺の見解だ。ゆえにちょうど魔導に秀でた者を探していたのだ」


「なるほどそれで……」


 アルスの話は一理ある。

 毎回、霧が出ているときに現れる。

 犯人にとって都合が良すぎる展開だ。

 意図的に作っているものならばともかく、自然に頼ればまず無理だろう。


「──言っておくが、これに魔導師としての働きは期待するな」


 いままで静観していた王子が口を開けた。


「城の魔導師団にも入れぬ実力ゆえ、手練れを探しているのならばコレは薦めない」


(コレって……)


 ひどい言われようだった。


「でも、坊主は青髪少年の用心棒だろう?」


「なぜ、そう思う」


「そりゃあ魔導品は高いからなぁ。持ってるやつは限られるし、それなりの金持ちか、そいつらに雇われてる用心棒くらいなもんだ。そっちの国なら、軍属っていう線もあるだろうが、今の口ぶりだと違うんだろ?」


「護衛か……」


 グレンの推理に珍しく王子が唸る。

 別にイナキア(ここ)へは金持ちの道楽という設定で来ているのだから、そこまで悩まなくとも。

 自分は信用されていないなぁとゼノは複雑な気持ちになった。


「それで、どうだ? 引き受ける気はあるか?」


 いまだに渋面を作る王子にアルスが切り出した。


「まあ、賊の数人程度、捕らえられんことも無かろう。取引とやらに応じてやる」


「そうか。では交渉成立だな」


「任せておけ」


 アルスが右手を差し出し、王子が握り返す。

 もちろんゼノの意見など一切聞かずに。

 ひとまず話が終わったところで、グレンが「そういえば」とゼノに訊ねてきた。

金貨十枚=6万ラビー=60万円

(1ラビー=10円)


目安

10ラビー(100円)ユーハルド銅貨1枚(リンゴ約1個分)

300ラビー(3千円)=ユーハルド銀貨1枚(リンゴ30個分くらい)

6000ラビー(6万円)=ユーハルド金貨1枚(リンゴ飽きるほど)

※金銀銅、リンゴの時価により変動

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