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ゼノの追想譚 かつて不死蝶の魔導師は最強だった  作者: 遠野イナバ
第一章/後『宝剣探しと青騎士編』

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38.5 小物ですから

長いので分割しました

「さきほどは助かった。礼を言う」


「いえ……それよりもいいんですか? あれで」


「なにがだ」


「あの場でサフィールを押さえないと、このあと逃げ出すんじゃ……」


「心配はいらん。ロイドが指揮しておる。こうして余たちが外へ出られんようにサフィー兄上にも監視がついておるのだ。調査が終わるまでは何も出来まいよ。おかげでリーアを迎えに行くこともできんがな」


 苛立つ様子でソファに腰かける王子。

 その隣で眠るフィー。

 その寝顔をリィグがのぞきこんでいる。

 ミツバはいない。

 彼女は今回の騒動には関係ないからとロイドが別の部屋へと送った。


「姫、まだ戻ってこないんですね」


 ゼノたちが不在中、サフィールはフローラ離宮を制圧した。

 姫はそこから逃がれ、いまだに行方がわかっていないそうだ。

 ロイドたちが今探しているが見つからない。

 王子は短いため息をつくと、夕飯代わりの軽食をつまんだ。


「……まぁ、そのうち戻ってくるだろう。軟禁が解かれるまでお前も休むといい」


「はい。──で、リィグ。お前はいつまでついてくるつもりだ?」


 寝てるんだから邪魔すんな、とゼノが注意するとリィグはフィーから離れて執務机の椅子に座った。


「僕はマスターと契約したからねー。いわゆる一心同体ってやつ? だから君の側を離れるわけにはいかないんだ」


 くるりと椅子を回しての回答だった。


「契約って……べつにオレ、お前となにか取引した覚えはないけど」


「えー、なんか感じない? こう、運命共同体的なつながりを」


「感じません」


 即答すると、リィグは残念そうに肩をすくめた。


「まあ、簡単にいうと、星霊と契約した君は僕の力を借りて魔法が行使できるってこと。それだけ覚えておけばいいんじゃないかな」


 あとのことは徐々にわかっていくよーとゆるく返して、リィグはふわりとあくびした。


(ダメだ、わからん)


 本人が星霊だと自称するように、猫に変身するさまを見ればコイツが人でないことはわかる。

 だが、いるのか? そんな存在なんて。

 答えの出ない思考迷路にひとまずゼノは頭を振ってソファにもたれかかった。


「暇だの、チェスでも打つか?」


 王子がソファから立ち上がる。

 サフィールの一件はおそらく朝までかかるだろう。

 それまで時間をつぶすべく、王子はチェス盤を見せてきた。

 しかし、ゼノはチェスが苦手だ。


 まず決められたマスにしか動けないという制限が厳しいし、その中で勝たなければならないとかどんな縛りプレイだ。

 戦略が自由に練られないゲームなど、もう負けるしかないだろう。


 ゼノがうーんと唸っていると、王子が棚から四角い板を引っ張り出した。


「ではゴモクはどうだ? シオン兄上とは打っていただろう?」


 ゴモクか。升目ますめ状の碁盤を大地に見立てて、より多くの自陣を確保したほうが勝ちとなる。

 ようは領土の奪い合いだ。

 石(兵士)の配置は自由だから好きに指揮を出せる。

 これならば、チェスよりは多少ましな勝負になるだろう。

 ゼノは了承し、赤い石を掴んだ。


 赤と白の陣取りゲーム。

 互いに黙々と石を置いていく。

 静かにパチパチと音が鳴り響いて開始から三十分が経過した頃だった。

 急に王子が口を開いた。


「お前は薬に詳しいのか?」


「──え? ああ、まあ……ちょっとだけ? よくご存じですね」


「ロイドから聞いた。お前は薬づくりが趣味らしいな」


 赤石の両脇に白石が置かれた。


「ぐ……趣味ってわけじゃないですけど、本見ながらたまに調合する程度ですよ」


「充分だ」


 今度は下。このままでは囲まれてしまいそう。


「おまえも知っての通りリーアは身体が弱い。普段はあれの身体に負担がかからぬようエレノアには命じておるが、彼女も薬師の知識があるわけでは無いからの。急な高熱には対処が難しい」


「エレノア? ……ああ、あのみつあみの人」


 確か姫からエリィと呼ばれていた侍女だったような気がする。

 上に赤石を置いて枝を伸ばしたが、追尾されて囲まれた。


「そこでだ、たまにでよい。お前にあれを診てやってほしいのだ」


「え! オレがですか?」


 ゼノが驚くと、王子は頷きパチンと白石を置いた。

 次で防御しようと思っていたところだった。


「城の医務官は腕が悪いとは言わんが信用に欠ける。そのうえ呼んでも忙しいとやらで来るのが遅くての。あまり役に立たんのだ」


「ああ……」


 城には何人かの医務官がいて、彼らは軍医も兼ねている。

 だから王子の言うように忙しいというのはあながち間違ってはいない。

 腕のほうはまあ、個人の感覚だから何も言わないが、王子が心配するのもわかる。


 先日も、姫が高熱を出したのだがそのさい医務官はごくありふれた風邪薬を処方した。

 熱が出た時は発汗を促す薬を飲ませて休ませるしかないから一般的な対応といえる。


 しかし、高熱を出している相手にそれは酷な話だ。

 そこは解熱薬を出すのが最適解だけれど、ちょうど薬草を切らしていたらしく出せないという。


 それで仕方がないからフィーと一緒に城の薬草園から熱さましの薬草を採ってきて、姫に飲ませたことがあったのだ。


「どうだ」


「まあ、それくらいでしたら。対応ができるものに限られますけど」


「それで構わぬ。──では、これで終わりだな」


 ぱちりと最後の一手。決着がついた。六拾四目差で負けた。


(王子、つっよ!)


 強すぎる。

 自身が弱いのもあるだろうが、この差は酷かった。

 きっと王子は将来優れた軍師になることだろう。


「来たか」


 ちょうど勝敗が決したところで、部屋の外からバタバタと騒がしい音が近づいてきた。

 扉が勢いよく放たれる。


「──大変です! サフィール殿下が逃亡なされましたっ!」


 ほらやっぱり。

 ゼノが非難めいた視線を向けると、王子はごほんと咳を払って部屋を出た。

絶対やらかすと思ってました。byゼノ

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