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ゼノの追想譚 かつて不死蝶の魔導師は最強だった  作者: 遠野イナバ
第一章/後『宝剣探しと青騎士編』

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20 貧民街の雑貨店

2/23 錬幻術士れんげんじゅつし→錬金術士に改めました。

「どうも。金色の羽ペン探してるんだけど、ある?」


 盗品屋──もとい〈ロシェの雑貨店〉についたゼノたちは扉をくぐって中に入った。


「ゼノか。いらっしゃい」


 落ち着いた声で答えたのは、店主のロシェだ。

 長い金髪をひとつにまとめあげ、眼鏡をかけた知的な彼女は、ちょうど商品の鑑定中らしく、小型のルーペを片手に丸いブローチを見ていた。


「こんにちは、ロシェ」


「久しぶりだな、会うのは三年ぶりくらいか?」


 ロシェが手をとめてこちらを見た。

 相変わらず大胆に開いたブラウス。

 そこから覗くきめ細かな白い肌と豊満なそれには、目のやり場に困ってしまう。

 ゼノは少しだけ目をそらして言った。


「そうだね。城にあがってからは来てないから」


「城? なんだ、兵士にでもなったのか?」


「いや。政務官。いまライアス王子のとこで補佐官やってる」 


「ほう、それはずいぶんと立派になったものだな。……どれ」


 そう言ってロシェがゼノの頭に手をおいた。


「ふむ、前言撤回だ。全然変わらないなお前は。好き嫌いでもしているのか?」


「……それはどういう意味かな」


 安易に背が低いと言いたいのだろう。

 ロシェはすらっと背が高い女性だ。

 対する自分は低くはないが高くもない。

 そう、微妙なのだ。きっと。


「なに。わたしの弟子と同じくらいだと思ってな」


「弟子? ああ、魔導品(まどうひん)の……」


 作業台の上に剣が置いてある。

 そこには何かの図形と文字が書かれた魔法陣が刻まれていた。

 なんだろう。


「──ん? これか。これは流れてきた魔導品だ。うちは盗品も扱うが、本来は修理の仕事(こっち)が専門だからな」


 ロシェは剣の腹をコツコツと指で叩いた。


(たしか錬金術士……とかっていうやつだっけか)


 彼女は古い魔導を()る家系の出らしく、本名はロシェッタ・ステラ・エルブレットとかいう、王族並みに長い名前を持つのだと以前話していた。


 錬金術士についてはよく知らない。

 何度か話を聞いたと思うが、ゼノの記憶には残らなかった。


「でも弟子なんかいたっけ?」


「いるとも。遠縁の子でな。お前たちがこなくなってから取った者だから面識はないだろうが……確か、いまはアウロラ商会にいるとか言っていたな」


「アウロラって、あのイナキアの大きな商会?」


「そうだ。ユーハルドにも時折来る大商会だ。この祭りにも出店しているみたいでな、これなんかもそこで買ったんだよ」


 ロシェがブローチを指でもてあそぶ。

 蜂蜜色の石。

 銀の台座に埋めこまれ、そのまわりには見事な細工が施されている。


「弟子の名はマークスといって、少し人見知りだが腕はいい奴だ。もし向こうに行く機会があったら声をかけてみるといい。何かと頼りになるだろうさ」


「わかった。覚えておくよ」


 ロシェがカウンター裏の棚から何かを取り出す。


「ほら、探し物はこれだろう?」


 彼女が見せたのは金色の羽ペン。

 ゼノの筆記用具……いや武器へと変わる魔導品だ。


「──! それ! それだ!」


 思ったよりもすぐに見つかってよかった。

 ゼノはホッと安堵の息を吐いて胸を撫でおろした。


「これ、もらいものだから、無くしたら怒られるところだったよ」


「もらいもの?」


「うん。ロイド……王佐のロイディール様にもらったやつ」


「あぁ、あの魔導品マニアか」


「まにあ?」


蒐集家(しゅうしゅうか)という意味だ。各地から珍しい魔導品を買い集めるのが趣味らしくてな。たまにこの店にも来る。毎回、大金を積んでくれるカモ……いや良いお得意様さ」


(カモっていったよこの人……)


 そういえば、ロイドは自ら遺跡巡りもするらしい。


 魔導品が発掘されるような遺跡は古いから、落盤することも多く、死にかけるアイツを何度助けてやったことかと、アウルがよく話していた。


「ところで、それいくらで売ってくれる?」


「そうだなぁ」


 元は自分のものではあるが、ここに流れついてしまった以上、買いとるほかはない。

 不満はあれどなるべく安い金額で頼む! と心の中で祈る。


 ロシェが唇に指をあて、こちらを見た。

 色っぽい仕草だが、いまは値段が気になる。

 待つこと数秒。


「仕方ないな。今回はタダにしといてやろう。そら、もっていけ」


 ポンと羽ペンが宙を舞う。


「いいの⁉」


 受け取り、驚く。

 珍しい。ロシェは金に結構うるさかったはずなのに。


「いいも悪いも、どうせその様子じゃ財布も盗られているのだろう?」


「え? あ!」


 そうだった。

 羽ペンと一緒に財布も盗られていたのだと思い出す。


「よく分かったね……」


「そりゃわかるさ。よほど金に困ってない限り、貴重な魔導品を売るわけがないからな。考えられるとすれば、落としたか盗まれたかだ。それからほら──」


 再度ポンとロシェがなにかを放り投げた。


「──オレの財布!」


「それも一緒についてきた。持ってきたのは子供だったが……まさか子供にやられるとはな。買い取ったときは笑いを抑えるのが大変だったぞ」


 くくっとロシェは笑いながら言った。

 革袋を振れば、ぺちぺちと手に当たるだけで、中身が空なのがよくわかる。


「なんというか。お前はシオン様と違って脇が甘かったからな。気をつけろ? 油断していると、ここらの連中は平気で物を盗っていくぞ」


「ぐ……」


 ロシェの言葉に何も言い返せない。

 脇が甘い。

 それはよく、シオンにもアウルにも言われたことだった。

 しかし、それにしても。


「やっぱり、相変わらず治安悪い?」


「悪いな。窃盗に殺し……は流石に少ないが、貧しいものと素性の知れないゴロツキどもの掃き溜めだ。最近も祭りに(じょう)じてか、見慣れぬ輩も増えたことだしな。いつもながらに物騒さ」


「そっか」


 なんでもないように言って、ロシェは作業台へと戻った。


「それで? 用件はなんだ?」


「え?」


「うん? 何か用があってきたのだろう? それとも何か。純粋にソレを探しに来たのか?」


「え、ああ……」


(いつもながらロシェの洞察力は鋭いな)


 こんな場所で、こんな店をやっているからだろうか。

 客の様子を見れば、大抵のことはわかるのだと前に言っていた。


「このあたりで黒い剣を持った男が人斬りしてるって聞いたんだけど、何か知らない?」


「黒い剣を持つ男……。確かに最近聞くな。服だけ斬られて下着姿にされたという話から、獣に引き裂かれたような損傷のひどい遺体が見つかり、異臭を放っていた──まで色々あるが、どの話から聞きたい?」


「なにその幅広いラインナップ……。それと怖いよ、最後の話……」


 肩を落として、どんよりとするゼノにロシェがくすくすと笑う。


「ああ、怖いだろう? だから気をつけたほうがいい。お前の髪はなかなかに目立つしな。それからそっちのお嬢さんも。可愛い娘はそれだけで狙われやすい」


「だいじょうぶ。フィー、強い……から」


 フィーが鎖鎌(くさりがま)をかかげた。

 それを見たロシェが「ふむ」と頷き、ゼノを見る。


「では、ゼノ。お前だけ気をつけておけ」


「なんでオレに振るんだよ!」


 思わず叫ぶゼノに、ロシェが吹き出し、ひとしきり笑ったあとに話を戻した。


「まあ、なんだ。辻斬りもそうだが、最近は魔石の裏取引も多いか」


「魔石? 魔導品についてる石のこと?」


「そうだ。古い魔導品や、魔獣なんかからも採れる鉱物だ。一般ではあまり出回らない貴重な品のはずなんだが、最近よくこのあたりで見かけるな」


「ふーん……、なんでそんなものが?」


「さあな」


 魔石は主に魔導品に使われる鉱石であり、その用途は広くない。

 加工が難しいのと、ロシェのように魔導品を扱える技師が少ないからだ。


 だからそんなものを集めてもと思うが、世の中には物好きもいる。

 おおかた、どこかの好事家が裏に手を回して、買い集めているのだろう。


「──と、これくらいだな。わたしの知る情報は」


「わかった。情報ありがと」


「ああ、お代は金貨百枚な」


「高いよ!」


 ちなみに、ユーハルド銅貨一枚でリンゴがひとつ買える。

 金貨となると、おぞましい数のリンゴが積みあがる。


 ロシェは「冗談だ」と笑ってフィーの頭を撫でた。彼女は子供──とくに可愛い女の子が好きなのだ。


「ま、もっと詳しく知りたければ、酒場にでも行くことだな。ここを左に出て、路地を入ったところにも一軒あるぞ」


「酒場か……」


 フィーがいるので気は進まないが、まあ行ってみるか。

 べつに酒を飲むわけじゃないしな、と思い、ゼノはロシェからフィーを返してもらって店をあとにした。

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