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ゼノの追想譚 かつて不死蝶の魔導師は最強だった  作者: 遠野イナバ
第一章/後『宝剣探しと青騎士編』

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16 失われた宝剣

 城内にある第四王子の執務室に着き、ゼノは出された茶を飲んだ。


(甘っ……)


 時刻は十時。朝休憩の時間とやらで、次々と軽食が運ばれてくる。

 甘い菓子に甘い紅茶。

 さらには追加でリンゴの甘煮まで。


 すべてが甘い軽食に、流石にそれでは身体を壊すだろうと眺めていると、「ゼノも」とフィーから皿を薦められた。


 朝食を抜いた手前、手を伸ばしたいところだったが断った。

 甘くて震えるから。


(それにリンゴがなぁ……)


 シャリシャリとするアイツは苦手だ。

 空腹を堪えるゼノの横で、王子とフィーのティータイムがはじまった。

 その間、暇なこちらは美しいショコラ細工を眺めていた。


 おそらくは光蝶(スピル)をイメージしたものなのだろう。

 透けるような羽の再現度が高い。

 しげしげと細工を観察すること三十分間が経過。


 そう、つまるところ今日も暇だった。


(なんか話題を振ろう……)


 この弛緩(しかん)した空間に耐えきれず、ゼノは口を開いた。


「今後の方針、どうします?」


「方針?」


 ゼノの問いかけに、こちらを見ようともせずに応える王子。

 その口元にはショコラがついている。


「王子が王へ選ばれるための作戦といいますか……」


「王? ……ああそうだったの。お前は王佐になりたいと言っていたか」


「ええ」


「まあ、確かにお前が王佐になるには余が国王にならねばならん。歴代の王佐はみな、王太子の補佐官がなると決まっておるからの」


「そうですね」


 むろん例外はあるが、慣習としてそういう決まりになっている。


 よって、各王子たちは優秀な補佐官の選抜に時間をかけていた。

 ゆくゆくは国をともに背負うことになるからだ。


 もっとも、ライアス王子の場合はそのあたりが無頓着のようにも見えた。


「現王には七人の御子がいますが、王太子はまだ決まってません。順当にいけば、第一王子のルベリウス殿下のはずでしたけど、半年前の国王陛下のお言葉で状況が変わった」


『宝剣を見つけた者を次の王とする』


 そうレオニクス王が告げたのは、昨年の秋のことだった。

 それまでは、第一王子ルベリウスが次の国王だろうと城の誰もが思っていた。

 だから多少の派閥争いはあれど、激化することは無かった。

 それが昨年の王の発言を受け、王宮内の派閥事情は大きな変化を迎えることなる。


 第一王子ルベリウス派と、第二王子サフィール派。


 ふたつに分断された派閥内では王を選定する宝剣を探すことに躍起になっていた。


「でも……、なんでなんですかね? 王はご病気だし、代理も兼ねた跡継ぎくらい、さっさと決めればいいものを」


 レオニクス王は二年ほど前から病床について久しい。

 そんな中、跡目を立てていないのもおかしな話だ。

 王座をめぐり、御子たちが争う姿が容易に想像できるだろうに……。


「なんだ。そんなことも知らんのか?」


 王子が茶をすすりながら言った。

 その隣で、フィーがリンゴの甘煮に手を伸ばす。


「いや、宝剣が盗まれたから継承の儀が出来ないってのは知ってますけど」


「そうだの。剣が無いからの。儀式が出来ず、王太子も立てられないと父上が話されていた」


 王子が皿を差し出すとフィーがリンゴの甘煮をひとつ乗せた。

 それを横目で見ながらゼノは考え込む。


「立てられないって……どうせ形式的なものなんだから、別に無くても……」


「いや、無いと困るの」


「そうなんですか?」


「……シオン兄上から聞いておらんのか?」


 そう言われ、なにかあったかと思い出してみるも分からなかった。


「特には……。第一王子のルベリウス殿下はシスコンだから王位を継げない、とは言っていましたけど」


 当然ながらシオンの冗談だろう。


「ふむ……それは理由になっておらんが、まぁそうだの。念のために聞くが、お前はユーハルドの王位継承制度についてどの程度知っておる?」


「男児優先の継承順位で、国王陛下と五大侯(ごだいこう)の総意によって次代の王を決まるということ。一番目の御子が選ばれやすいということ」


「それはまた、教科書通りの答えだの」


「すみませんね……、教科書通りで」


 聞かれたから答えたというのに、手厳しい意見にゼノは落ち込んだ。


「まぁあれだ。いまはそうだが昔はの、剣が次代の王を選ぶと言われておったのだ」


「剣が?」


「宝剣クラウスピル。闇夜のごとき黒剣で、選ばれたものが持つと星の輝きをみせる……まぁこの辺りは本にでも書いてある。あとで調べろ。問題は、その逸話をなぞり、儀式を行うから剣が必要ということだの」


「へぇ」


(そういえば昔、シオンが話していた気がする……)


 シオンは歴史や神話の話が好きだった。

 ゼノは興味が無いから聞き流していたが、黒い剣がどうのという話は聞いた。


 盗難に遭う前は、謁見の間に飾ってあったらしい。

 それが数年前、城の宝物庫が賊に破られ、その際財宝と共に宝剣も奪われたそうだ。


(あの剣か……)


 正直その宝剣とやらにはいいが思い出がない。

 揺り起こされた嫌な記憶に思わずゼノが顔をしかめると、王子はリンゴの甘煮を口にしながら言った。


「そういうことだ。方針も何も剣を探す。それしかあるまい」


「確かに」


 剣を見つけてきた者を次の王にすると言っているのだ。

 そういうことならば、剣を見つけることが最優先になる。

 そもそも誰が継ぐか以前に剣が無ければ儀式が行えないのだ。

 ならば探すしかない。


 とはいえ、賊はすぐに捕えたものの、いくつかの財宝とともに剣の行方もわからなくなってしまったと聞く。

 それを探してこい、というのだから途方もない話ではある。


(うーん……)


 本音を言っていいのなら、面倒だ。

 失せ物探しほど、骨の折れるものはない。

 ましてや盗品だ。

 国をあげて探しても見つからないものを、どうやって探そうかと考えていると、わずらしそうに王子が口を開いた。


「お前には知識が足りないの。剣を探す前に、書庫にでも行って勉強してこい」


 命じたまま、彼は次の菓子へと手を伸ばした。

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