繰り返されるプロローグ
のんびり更新中。よろしくお願いします。
「■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■」
それが、君との約束だった。
「──っ──はぁっ……っ」
これはまずい。
近くの木に身体を預け、ずるずると座り込む。
ひどく背中が熱い。
うしろに手を回すと、ぬるりとした感触とともに、手のひらにべったりと鮮血がついた。
「……っ」
灼熱の痛み。二度ほど深く息を吸って堪えると、木の根元に赤い花を見つけた。
小さくて可憐な緋色の花。
あれは確か高地にのみ生息する植物だったはず。
つまりここはどこかの山あいか。
それも走ってきた方角からして、グランポーン地方の山岳地帯といったところだろう。
まったく随分と走らされたものだ。
浅く息をつき、目深に被ったフード越しから、うっすらと空に浮かぶ星々を仰いだ。
じきに陽も暮れる。急がなければと思うのに、身体がうまく動かない。
「…………」
廃屋への帰り道。いきなり連中に襲われ、なんとかここまで逃れてきた。
このまま東に行って、帝都にさえ辿り着ければ、一時的に匿うくらいはしてくれるはず。そんな情けない考えをするほどに追い詰められた状況とはいえ、この傷だ。
そう長くは持たないだろうなと思う。
大量に血を流しすぎて視界が霞んでいるし、鉛のように身体が重い。今更ながら止血するべきかどうかと悩んで、ぐっと手に力をこめる。
どうせ追われる身では意味がない。いま出来ることはせいぜい、可能な限りあいつらから距離を取ることだけ。
いま捕まるわけにはいかないのだから。
木を支えに立ち上がり、なるべく木の葉を揺らさないようにと早足で歩く。しかし、そんな行動は無意味だったようで、
「──ここにいたか」
ぼっと灯る炎と熱。
後方、それも頭上から落ちてきた声に、もう見つかったかと悟る。
「さっきはよくもやってくれたな。今度は容赦しねぇ……!」
恨みのこもった言葉と同時に、うしろから炎の矢が飛んできた。
一射、二射。相変わらず馬鹿のひとつ覚えのような攻撃だ。
振り返るまでもなく、見慣れた魔法をなんなく避けて、その場を離れた。
「あっ! 逃げるな、オ────」
なにか叫ぶ声が聞こえてくるが、知ったことじゃない。
そんなことよりも早く。
なるべく遠くへ。
せめて連中に見つからないところまで。
「──っ、──っ!」
風の力をかりて走り続けて、どのくらい経っただろう。
もう目も見えなくなったところで、急に地面から足が離れた。
ふわりと重みが消え、身体が軽い。
そしてこの風を切る音。
──ああ、落ちたのか。
そう理解して、だけどどうすることもできずに、そのまま闇の中に身を預けた。