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ゼノの追想譚 かつて不死蝶の魔導師は最強だった  作者: 遠野イナバ
第0.5章『名もなき魔導師の約束』
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繰り返されるプロローグ

のんびり更新中。よろしくお願いします。


「■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■」

 

 それが、君との約束だった。





「──っ──はぁっ……っ」


 これはまずい。

 近くの木に身体を預け、ずるずると座り込む。

 ひどく背中が熱い。

 うしろに手を回すと、ぬるりとした感触とともに、手のひらにべったりと鮮血がついた。


「……っ」


 灼熱の痛み。二度ほど深く息を吸ってこらえると、木の根元に赤い花を見つけた。

 小さくて可憐な緋色(ひいろ)の花。


 あれは確か高地にのみ生息する植物だったはず。

 つまりここはどこかの山あいか。


 それも走ってきた方角からして、グランポーン地方の山岳地帯といったところだろう。

 まったく随分と走らされたものだ。


 浅く息をつき、目深まぶかに被ったフード越しから、うっすらと空に浮かぶ星々を仰いだ。

 じきに陽も暮れる。急がなければと思うのに、身体がうまく動かない。


「…………」


 廃屋への帰り道。いきなり連中に襲われ、なんとかここまで逃れてきた。


 このまま東に行って、帝都にさえ辿り着ければ、一時的にかくまうくらいはしてくれるはず。そんな情けない考えをするほどに追い詰められた状況とはいえ、この傷だ。

 そう長くは持たないだろうなと思う。


 大量に血を流しすぎて視界がかすんでいるし、鉛のように身体が重い。今更ながら止血するべきかどうかと悩んで、ぐっと手に力をこめる。


 どうせ追われる身では意味がない。いま出来ることはせいぜい、可能な限りあいつらから距離を取ることだけ。

 いま捕まるわけにはいかないのだから。


 木を支えに立ち上がり、なるべく木の葉を揺らさないようにと早足で歩く。しかし、そんな行動は無意味だったようで、


「──ここにいたか」


 ぼっと灯る炎と熱。

 後方、それも頭上から落ちてきた声に、もう見つかったかと悟る。


「さっきはよくもやってくれたな。今度は容赦しねぇ……!」


 恨みのこもった言葉と同時に、うしろから炎の矢が飛んできた。

 一射、二射。相変わらず馬鹿のひとつ覚えのような攻撃だ。

 振り返るまでもなく、見慣れた魔法をなんなく避けて、その場を離れた。


「あっ! 逃げるな、オ────」


 なにか叫ぶ声が聞こえてくるが、知ったことじゃない。

 そんなことよりも早く。

 なるべく遠くへ。

 せめて連中に見つからないところまで。


「──っ、──っ!」


 風の力をかりて走り続けて、どのくらい経っただろう。

 もう目も見えなくなったところで、急に地面から足が離れた。

 ふわりと重みが消え、身体が軽い。

 そしてこの風を切る音。


 ──ああ、落ちたのか。


 そう理解して、だけどどうすることもできずに、そのまま闇の中に身を預けた。

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