オメガアーク 第一話 「冒険の書」
ここからオメガアーク本編です。
※一人称にチャレンジしましたが、僕にはまだ早かったみたいです。ここからはいつもと同じく三人称となります。ご了承ください、失礼します。
作者:零噛魅より
時は聖歴5000千年、場所は魔王城の魔王の間、決戦直後。
「おい!魔王。来てやったぞぉ…」
そう言って勢いいよくドアを開ける一人の青ずくめの男。
「おぉ〜来たか…勇者アストラよ…」
そこに佇むは、大きな角を生やし、不気味な顔をした黒ずくめの魔王。
「アストラ、気をつけて。魔王の放つ魔法は厄介よ。」
背後から駆けつけ、警告するシーフ。
「魔法攻撃ならお任せください。私目が対処いたしますゆえ」
さらに遅れてやってくる背の高くガッチリとした体格のイケメン魔法使い。
「皆さんの怪我は、わたしが治します。」
全員の最後尾で、光魔法陣を構える僧侶の姿。
彼らは四人で旅する勇者パーティーで、今目の前の魔王"アルテマ"の討伐にその身を投じる真っ最中。
「フハハハァァーーー!!!ならば決戦だ。こい!!!痴れどもぉーーー!!!」
最初に動いたのはアストラ、握りしめた勇者の剣で目の前の魔王を…
「タイヤァァァ!!!」
空中から凄まじい勢いで切り付ける。
「遅いわぁ!!!」
「スピードスターがお望みかい?」
速度を読み切り黒炎の炎の柱を地面から発生させる魔王に、勇者を目にも止まらない速さで回収し、魔王の頑丈な皮膚に切り傷を与えるシーフ。
「ホッホッホ、よそ見はいけませんなぁ〜」
シーフの方に視線いったのをみて、背後から強力な水と風の合わせ技"暴風魔法"を繰り出す魔法使い。
「くっ!小賢しい。こんなもの、造作もないわぁ…」
それすらかき消す圧倒的な黒炎の力に、なすすべなく退避する魔法使い。
「癒します。」
魔法使いのおったやけどの状態異常と減った体力を回復する僧侶。
「これでは拉致があかんなぁ〜まずは…そなたから消し炭にしてくれる。」
一瞬で癒しの光を与える僧侶の真横に立ち。その黒炎を纏った手で僧侶に触れようとする魔王に。
「星霊召喚・グラビティス」
魔王が僧侶に向けたその腕をピンポイントに高重力を纏わせ地面にその腕を叩きつけさせる。
「腕がとんじまったな…魔王?」
「この程度、かすり傷ですらないわ。」
即時再生する魔王は、再び勇者を標的として選び目の前の彼の顔を鷲掴みにして…
「うぁぁぁ!!!」
勇者の体を壁に叩きつけ続けて、その先の先の先の先にある魔王城の外に勇者を連れ出す。
「表てぇーでろってか?」
「さよう…」
外に出たことを確認すると勇者はその身に青き闘気を纏い魔王と距離を取り、魔王はそれに対抗するかの如く赤き闘気を纏う。
どう言う仕組みか、二人は闘気を纏うとともに宙に浮いてその場をまるで大地を踏みしめるかの如く加速してお互いの肉体をぶつけ合わせる。
小細工なしの大勝負。
「負けないよ。」
「望むところだ…」
両者の戦いは三日三晩千夜一夜続いたと言う…
(そう、そしてこの俺こそがこの物語の勇者…)
《移動劇団テント》
「役の役者だ…」
目の目の舞台の赤い幕が閉じ、男は勇者の着ぐるみを脱ぐ。
(はぁ~移動型ヒーローショーの役者、現22歳、レベル1。それが俺のステータス、こうなっのも全てはこの呪われてるとしか思えない経験値無効体質(自称)のせいだ…)
“(この世界にはレベルと呼ばれるそれがあって、それは世界の全て。レベルが高ければ運動も勉強も就職も有利と来てやがる。もちろん得意、不得意はあるがそれを決めるのは初期ステータスとその後の変動値だ。だがそれもレベルが上がると言う前提があって初めて成り立つ。俺はその…)”
時は《17年前》
「勇者!勇者!!勇者!!!」
そこはとある幼稚園。
「いつも元気だね、ユウキくんは」
「おうよ!大きくなってレベルが上がったら俺は勇者になるんだ。」
そう威勢良く宣言する少年に…
「ハッハッハ!!!お前がなれるわけないだろ!1+1もできねぇーのによぉ~」
高らかに指をさして笑うクラスメイト。
「おいわらうなぁ!」
“(そんな対等なやり取りも、レベル差の無い幼い頃だけ…)”
《10年前 15歳の夏》
(ミーンミンミンミーン)
鳴くセミの声の中で、少年はトイレでクラスの男子全員のまっ黄色のしょんべんをぶっかけられて組み伏せる。
「きったねぇ~」
「臭っさぁ~」
これは紛れもないいじめだった。
“(この世界じゃ~レベルの上がり方はいくつかあるがその代表的な方法は主に二つ。修行によるレベルの底上げか…年齢と共に自動で上がる基礎変動。つまり、年齢が上がれば上がるほど自動的にレベル差が広がりそれによっていじめが起きる。この世界の評価基準はレベルが8、人格が1、その他が1の雑過ぎる三点で決まる。)”
《時は現在》
「そしていまの俺の年齢は22、未だにそのレベルは…たったの1だ…」
「おいおい、そんな自分を秘儀すんなよ。いつまで気にしてんだ」
落ち込み、舞台裏の椅子で脚本を顔に貼り付け姿勢を崩すユウキに声をかける茶髪ピアスの男。
「キール、お前はいいよなぁ~初期ステ高くてよぉ~」
「嫌味はやめてくれ、オレだって好きでこんね風になったわけじゃねぇ~んだからよ。それに、お前の因子氷だろ。シンプルで好きだぜ…オレは…」
「氷じゃなくって凍結な、それにお前の因子《法則崩祇》の方が強いだろ。」
「でも、オレの能力は私生活での使い道がないからなぁ~げんに舞台演出でも君の氷の結晶。舞台長からも褒められてるだろ。」
「でもなぁ~」
そんなどうすることもできない、“タラレバ”を語るユウキを勇気付けようとしているキール。
そんな下らないいつも通りの世間話をして、家に帰ろうと職場を出るユウキ。
「はぁ~あ…」
いつもの如くため息をつきながら…
「「いらっしゃ~い」」
行きつけの“カジノ”によるユウキだった。
「飲み過ぎだ!出ていけ貧乏人」
有り金全部持っていかれるユウキ。
「はぁ~あ、運も俺の敵か…」
そういって、この真冬にパンイチでベンチに座りしけったヤニに火をつける。
「ふぅ~」
なんやかんやで、ベンチのように黄昏るユウキの背後の、街中心の大きな橋が…
“獄炎の業火で灰になった”
「は?」
《その頃ユウキの暮らす街 東方地区》
「カーカッカ!カーカッカ!本官を誰と心得る、本官はアルテマ。艱難辛苦七転八起その化身にして最大天地の“大魔王”なりぃ~」
そこに現れたのは、額にクリスタルの埋め込まれた赤い髪の女。
その女は髪留めとなっていた焔のそれを、街中に放ったのだ。
「貪欲奈屡炎」
それは顔のついた意志を持つ炎、それが街中を燃やし尽くしながら進み続ける。
すでに街は半壊、街の近衛隊もあまりにも唐突の出来事に対処しきれていない。
それだけでなく…
「な…なんだこの炎、消えねぇーし止まらねぇーーー!!!」
近衛隊の水因子、消防隊のホースによる集中鎮火ですら消える気配も静まる気配もない、防御に優れた土や鉄の因子、その他の軍隊兵器ですらそれには全く意味をなさずそれどころか攻撃を加える事に威力が増しているようにすら見える。
「こんなもの…どうしたら…」
「お力を、お貸しします。」
「あなたは?」
その頃ベンチに座っていたユウキは、目の目の惨状を…
ただ忽然と、眺めていた。
「どうなってんだ、こりゃ…」
目の目のそれに動くことすらできないユウキがのそばで、いやぁーーー!!!と言う叫び声が聞こえた。
「ヤバいヤバい」
その声にいてもたってもいられず、燃えさかる橋の炎を自身の凍結の因子で無理やりそこを突き進む。
「大丈夫ですか!!!」
そこは業火の燃ゆる橋の上、あまりの出来事に腰を抜かす学生と思われる少女。
「落ち着て!ただの炎だ。必ず助かるだから…」
その続きを話そうとした瞬間、背後からなる不振なドスン!ドスン!と言う音。
「嘘…だろ」
そこに現れたのは、上級の魔物。
【焔之怪】
目の前の焔の悪魔を目の前に、目が点になり震えちびってしまうユウキ。
『ゴア、ゴエ、ゴデス』
何を言ってるかわからない、どこの言葉か見当もつかない。しかしその声は地獄の深淵の底から響く恐ろしく低い声と言うことしかわからない。
「助けて…」
少女は目の前のユウキの立ち姿を見て絶望し、他の“頼れる”誰かに叫ぶように“助けて”と口にした。
(なっっっさけねぇ~、目の前の火だるまに怯えて、大丈夫って言うことばすら嘘にして…本当…)
その時ユウキは、覚悟した。
「俺はいつも、口だけのなりきりやろぉーだな。」
ここで動く、目の前のそれにどう見ても億千万度を超える炎の怪物。
勝てるわけはない、勝てる道理もない、でもいい…
(俺の能力は、凍結。氷風のちゃちな能力、でも相性はいいがレベルが違う。)
「だからなんだ!諦めろって?ざけんなぁーーー!!!」
(俺は…)
それは忘れかけていた、幼き頃の夢…
「勇者になるんだぁーーー!!!」
その一撃はひ弱で、無謀で、無力な一撃。
「くっくそぉ~」
氷は弱弱しく、とどかない。決して、億千万度なんて受けた瞬間氷なんて一瞬で溶けてなくなる。でも…
「凍結だぁ…意味は分かるな?そこから動くな炎やろぉーーー!!!」
凍結、進凍てつく壁、覆う、覆う。それは目の目の焔を覆って無力かし、その場の炎も、絶望も、細胞も氷つかせる。
「おぉぉぉーーー!!!」
(とどけ!ひれ伏せ!!テメェの時まで氷付け!!!)
その瞬間、彼の中で何かがはじけた。
「完全凍結」
目の前の焔の悪魔は氷付き、一寸の炎も動きやしない。そして、その悪魔が本体だったのかそれが静止すると同時に周囲の炎も完全に消え去りあたりにまた夜の静けさが戻った。
「はぁ~はぁ~疲れたぁ。」
そういって尻もちを付くユウキに…
「あ、あの!」
背後から聞こえる、少女の声。
「ありがとうございます!!!」
その少女の方を向いた瞬間、彼女は深く頭を下げてお礼をしてきた。
「いいってことよ、お嬢ちゃんが元気ならそれで。ケガとかしてない?」
「はっはい!」
その女の子の恰好、先ほどまでは女学生かと思ったがよく見てみると少し大人っぽい。だが恰好は子供らしくピンクのパーカーにそれにあったスカートをはいてその手には…
「本?」
彼女の胴体ほどの大きな本を持っていた。
「こっこれは、えっとぉ~」
ユウキの前でもじもじとする少女。
「まぁ~言えないならいいよ。それじゃ…」
そういってその場を去ろうとするユウキを…
「まっ待ってください!!!」
少女はそのパンツの後ろを引っ張りうっかり転んでしまった。
「きゃん!」
そう、ユウキは今の今までパンイチだったのだ。
「いっいっいっ…」
少女は突然目の前に現れた一物をみて…
「いやぁぁぁ!!!」
と叫んだ。
《その頃魔王出現中の東地区では》
「流星之項垂礪」
隕石の如く放たれる無数の流星と…
「灰欲之焔」
地獄の業火すら灰に変える、滅神の業火。
「ちっ!これでは拉致が飽きませんね。」
「ハーハァー!!!この最強無慈悲の大魔王アルテマ様に勝てるとでも?」
二人の打ち合いは熾烈を極め既に周囲の兵士達は近寄るどころか見ることすらままならない状況。
(やはり強い、しかしあの顔つきの炎。間違いない、あの貪欲奈屡炎の機能停止には本体であるこの魔王を倒す他ない。どうする!?)
青き閃光と、赤き閃光。性質の違う両者のぶつかり合いが熾烈を極める中忽然とこの街から進み続ける焔が消えた。
「なっやっとか…」
何とか炎を止めようと、流星の少女が付与した絶炎耐性の盾で炎を東地区外に続く扉の前で押し合い続けた近衛隊も腰を落ち着ける。
「ほほぉ~いいきゃつを倒すほどのものが目の前の小娘を除いて、この国にまだいるとはな。」
(どう言うこと…)
その場で他の近衛兵達が勇者の話を聞いて勇者が本体を倒した、もしくは勇者の実力が高すぎて気を他に避けなくなり炎が止まったと思い声を上げて喜び勇む中。その場で二人だけ…
「興味深い小僧だ」
「一体何者?」
その真実に気づいていた。
「それでは、本官もこの辺で御いとましようかぞぉ」
「待て!魔王!」
「嫌だぞぉ、絶対。お前より面白い者を見つけたあれが成長し本官の前に現れるよう魔王之道を新に敷かねばならんのでな。」
そういって魔王は、次元の狭間から暗黒の彼方へと姿を消した。
(おそらく推察するに、あの炎。さっきの魔王が出していたものではなく、どこかに潜んでいたその配下である魔族の誰かもしくは付き従うモンスターの誰かが発動させたもの。しかし、仮にもこの国の中央都市を襲わせるほどのそれだ。魔王軍の中でも上澄み、精鋭と見て間違いないだろう。でも一体誰がそれを…)
流星の少女が見つめるのは、その感知能力が察知したあの大きな橋の先…
「おっお兄さん!」
「ん?」
そこに立ち、出会う二人の男女。夜明けの明星が二人を眩しく照らし…
「ふ…」
彼らの出会いを…その運命を…讃えていた。
「服着てください!!!」
「あっそうだった」
そして、脱がされたパンツを上げて帰路に着こうとする男を引き留めた少女はそう言った。