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SAND LAGOON  作者: ユニ
4/5

アンラッキーカード 2







アンダーステイツ、

それは世界各国六ヶ所に設置された地下300mに埋まる直径10kmの巨大なドーム型地下核シェルターのことをさす言葉だ。

何の為にそんな物が造られたのかと聞かれれば人間という種を後世に残すためだとアンダーステイツの住人は答えるが地上に住む人間から言わせればそんなのは戯れ言でしかなかった。


地表に住む人間達の祖先があの災厄を生き残った地獄の生還者達ならアンダーステイツの住人共の祖先は自ら広げた風呂敷の納め時を間違えた挙げ句に自分達だけが助かるためにアンダーステイツを作り上げ、己が身の可愛さのあまりに民衆を生け贄に捧げた人の皮に詰まったクソ共の子孫である。

地上では地下が一体なにをやらかしたのかは数百年たった今にも明確に語り継がれる胸糞悪い昔話の一つとして残っており、地上の人々からしてみれば

「アンダーステイツとは歴史上最大級の便所」

と、酷い嫌われっぷりだった。

それ以外にも、

高圧的要求、選民思想、弾圧、レアメタルやレアアースの強奪、等々いくつか理由があり、もはや油と水どころではないほどの対立をみせた両者。


それ故、大概の街ではアンダーステイツとの交流はタブーであり、見るな聞くな言うな猿どもの号令のもとマフィアによって徹底され、いつの頃からかそれはルールとなり違反者には死が贈られるようになったらしい。



さて、アンダーステイツと関わりを持ち有無を言わさず処刑されたエルゴ・ディガー。


自分達のクライアントがすでに殺されているとは知らず、そんな彼の依頼を受けたばっかりに禁断のアンダーステイツと関わりを持ってしまったカイトとエドはとりあえず金髪の少女をエバーデットタウンから少し離れた岩山の近くにある緊急用の隠れ家に運び入れた。

天然の床や壁に整理整頓されて置かれた弾薬や銃器。

それとは対照的に乱雑に置かれた資料食い物家具諸々の中、天井では送風用のファンがクルクル回り、ソファーの上で素知らぬ顔で寝息を立てる少女に冷徹な視線を向けるカイトはその額にベレッタの銃口を押し当てていた。


撃鉄をゆっくり起こし、引き金に指を置く。


「さぁ、後はこの引き金をちょいと引いてやれば一つの命が呆気なく終わる。なぁ、命ってのはどうしてこうも軽いんだろうな?」


カイトは思い出していた。

かつて己が身に起きたある出来事を。命の尊さと軽さ、金の重みと薄っぺらさを知ったのはその時だった。

自分の手の中で死んでいく唯一の肉親は今目の前にいる少女の仲間に出会ったが故に殺されてしまった。


「止めときな、意味がない」


情報収集からいつの間にか帰っていた小柄な金髪童顔のその男、エドが言った。


視線はそのまま、小さく息を吐くと少女の額から銃口は離れ、ベレッタはホルダーに収まった。


「別に殺らねぇよ。これに出会ったばっかりにこれからド派でなタンゴを踊るかもしれないと思うとせめて銃口くらい突きつけておきたかったんだ」


「そうかい。なら今のうちに好きなだけやっといた方がいいよ。もうあまりそんな機会はなさそうだ。」


工具が乱雑に置かれた作業台まで歩くと椅子に座るカイト。

エドは近くにあった手頃な木箱に腰を降ろすとお手上げのポーズをとってため息をついた。



「オレ達の事務所はどうなってた?」


「丁寧にこれだけ残ってたよ」


そういうとエドは懐から焼け焦げた鉄製のネームプレートを取り出した。



「墓標代わりって感じだな……」


「とにかく状況は最悪さ。エルゴが一体どんな理由でアンダーステイツに関わっていたかわ知らないけどヤツはもう処刑されたらしい。今回の件で金獅子はご立腹だよ。関わった人間は片っ端からトライグルに殺されてる。ここの場所は知られてないけど見つかるのも時間の問題じゃないかな」


「逃げるにしてもどこへ行くかだな……」


それぞれの街にはそれぞれマフィアがいる。意外なことだろうがどんなに対立したマフィアどうしだろうと商売のたしになれば手を組むことはざらにある。


個人のメンツ、組織のメンツ、時にそれは重要だがもしそれが私怨ならそんなものは犬に喰わせるのがマフィアだ。

カイト達はトライグルに追われる身となったわけだが、アンダーステイツ絡みとなれば横の繋がりはより強固になり、実質全てのマフィアを敵に回したような状態だった。


「考えてる時間もないか…」


「あぁ、いつだってそれが問題さ…」


どこの街も迂闊には入れない、住めない。

文明レベルは確かに格段と落ちた時代だが過去の遺物もないわけではない。情報はすぐに電波に乗って風よりも早く荒野を駆け巡るだろう。

一生命を狙われる日々。

逃げ出すのは私達が住む時代より容易い。追っ手も振り切れる。だが、この熾烈な環境下で街に入らずに生きていくことは不可能だ。彼らにとって死は近い存在だ。それを意識する瞬間は過去数え切れないほどあったが、それも一瞬の話。

しかし今現実に突きつけられた永久に続く死の存在はより明確な形をもってその心にめり込んでいた。


「まずは逃げることから考えよう、生きる方法はその後だ。兎に角準備を…」


逃走の準備をするため立ち上がったエドがソファーの横を通り過ぎようとした瞬間、ソファーはガタンと大きく揺れ舞い上がった金髪の少女は容易くエドの背後をとると羽交い締めにしてどこから手に入れたのか右手に備えたナイフを首に突きつけカイトの方へと向き直った。


「簡単に後ろとられんなよ…」


「ボクは実戦経験あまりないからね。その注文は無理さ」

何故か自慢気だった。


「首もとにナイフ突きつけられながらそんな涼しい顔してんじゃねぇよ」



少女は荒々しい呼吸を一旦飲み込み整えると、口を開いた。


「ここは、どこ、ですか……!?」


「まぁまぁ、とりあえずそんな物騒なもん置いて茶でも…「ここはどこですか!?」


「ここはエバーデットタウンから西に2kmほど行った岩山の中だよ。詳しい位置は企業秘密」


「エバーデットタウン……」


呟いた後、少女はそのまま何かを思考するためにカイトに合わせていた視線を逸らした。


隙発見。

手信号を送る。



ゴ・メ・ン・ね




エドの顔が一気に青ざめる。

これから起きるのはきっと自分を助けるための行為だろうと分かっていてもカイトの手がホルダーに向かうのを見ていると気が気でなかった。


超不安。

この一言に尽きる心境。


そんなのお構いなしにベレッタを抜くと見事な早撃ちで少女が手にしていたナイフは後方へと飛んでいった。

何が起きたか意味不明な少女のロックから脱出したエドはすぐさましゃがみ込むと水面蹴りをかまし、バランスを失った少女はもといたソファーの上へ。


ポフンッと鳴った可愛らしい着地音とは裏腹に少女の目の前では硝煙を吐き出す火薬臭い銃口がこんにちはしていた。


「元気な女は好きだが、あんまり跳ね過ぎると穴が増えるぜ。そしたら変態どもはこぞってそこに入れたがるだろけどな」


睨みつける目は若干涙で濡れていた。フルフル震える体で少女が最初に口にした言葉は、


「下ネタはキライです……」


だった。

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