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SAND LAGOON  作者: ユニ
3/5

アンラッキーカード 1



昔ビルと呼ばれた巨大な廃墟群。

大小様々な大きさの物が立ち並ぶがそのどれもが見上げるほどに高くこの一帯には一日通しても僅かしか日が射さない。

今の建築技術ではとても到達できない高さもさることながら長年曝されていたにもかかわらず崩れることなく天に向かって立ち続けるその耐久性はかつてのの技術力の高さを今に示すと同時に、それ自体が巨大な墓標がわりでもあった。


『予定通りホロが追い込んでくれてる。接触まで残り60秒、準備はいいかいカイト?』


廃墟群の一角、丁度袋小路になった袋の部分でインカム越しに聞こえた声に「あぁいいよ」とエドに返事をした黒髪にマントを羽織った格好のカイトだったが一回鼻を啜ると右手に持った愛銃のベレッタM92を見ながら溜まった不満を表すように舌を鳴らした。


「相変わらず重っ苦しいとこだよここは、弾も湿気ちまう」


辺りを覆う重く湿った空気と鼻につく嫌な臭い。どこから漂ってくるのかと聞かれれば廃墟の中からであった。

かつての惨劇の名残である無数の骸に赤い床や天井は時の流れも無視して風化もせずに未だ放置されたまま残り、そこから沸き立つ匂いはいつも人を不快にさせた。


『文句は言いっこ無しだよ。位置、状況、数、総合的に判断してここでの待ち伏せが最適だったんだ。君も納得のうえだろ?廃墟群でも見ながら古代にあった肝試しって奴を楽しむと思ってここはポジティブにエンジョイしようじゃないか』


こんな場所で楽しむ奴はきっと気違いか歴史マニアだけだろう。カイトにとってはエンジョイとは程遠いロケーションの数々。

「ポジティブにエンジョイしたいのは山々だがオレはナメクジじゃないんだ。それに、お前はここにいないからいいかしんないけどこんなゴミの山、エバーデットタウン以上だ。あそこはまだ人がいるから更にマシだ。ここにはいつのかもわかんねえ骸ばかりで余計気が滅入る」


『まぁ気持ちは察するよ。エルゴも早めにと言ってからね。ちゃっちゃと終わらせようか』


「出来るだけそうしたいね」


『さぁ来たよ。残り200m、仕事はクールにスマートに、ガンソードの名は伊達じゃないってとこ見せてくれ』


「オーケーベイビー…」


そう言ってカイトはベレッタをスライドさせて銃身に弾を込めるとマントを翻し腰に携えた片刃のショートソードに手をかけた。

全ての準備は完了。

臨戦態勢に入ったカイトのもとにはここが袋小路だと言うことも、ましてや待ち伏せがいるとも思っていない泥棒モンスター共が必死な面を引き下げて苔蒸した角から現れた。


敵はオークが五体。

全身を茶色の毛で覆われた二足歩行の獣人型なのだがモンスターの中ではなかなか知能のある方で三人揃えば文殊の知恵のことわざのように一体では大したことないものの、複数体になるとコミュニケーション能力を駆使した連携が強力な厄介なモンスターなのだ。


この袋小路に誘い込んだのも回る知恵で無駄に労力がかかるのを防ぐためだったりする。


待ちに待ったショータイム。

引き金に掛かった指は今までの鬱憤を発散するかのように最初の一撃を放った。

轟いた爆発音と同じタイミングで最初に現れたオークの額に風穴を開けると即座に駆けよりすれ違いざまに二体目の首を根刮ぎ刈っきる。

残りは三体。


このまま楽勝ムードもよかったが、突如前にも現れた敵に怯んでいたオークも二体やられれば目が覚めたようで、両手の爪を振り上げた一体が怒濤のラッシュをしかけてきた。それを後ろに引きながらショートソードで冷静に受けきると丁度右手が引いて左手が襲い来る瞬間に左手をかち上げ、瞬間的に懐に潜り込みゼロ距離で腹に弾丸の群をブチ込む。


脊髄反射の痙攣でピクピクと微かに動くものの許容を越えた激痛の嵐にあえなく逝った死体をそのまま肩に乗せ盾がわりにして四体目に突っ込むと接触と同時に腹に開いた風穴からショートソードを突き刺し、上方へと思い切り突き上げ上半身両断。死体越しに更に死体をこさえたカイト。


残るはターゲットの布袋を抱える奴のみ。


「さて、リーチだ」


ショートソードについた血を振り払う。残りコイツをぶっ殺してビンゴにすれば200万ゼニー頂のチョロいうえに割のいい仕事が終わる。


「タスケテ……」

回りの良い頭は今の状況の絶望具合を理解したらしい。オークの口をついて突然聞こえた殊勝な言葉に思わず考え込むカイト。


「お〜お〜いっちょ前に人語で命乞いか、オレも鬼じゃないからまぁ助けてやりたい気持ちも無きにしもあらず……」


嘘だ。

悩む振りをしてわざと隙を見せては敵の隙を探す。この荒野で命乞いをしたければ納得のいく理由かそれなりのブツ。もしくは敵を蹴散らす暴力が必要になるわけだが。何一つ提示が無い命乞いにかける情けなどないのだ。

突然ベレッタの引き金を引くと弾丸はオークの肘を打ち貫き、破壊。神経が雷に撃たれて麻痺したかのような痛みを受けて奪った荷物を落としたオーク。と同時に、「やれ、ホロ」と言うカイトの命令に従って物陰から現れた体長3mはあろうかという巨大な狼の牙がその首を刈り取った。


その狼こそオーク達をここまで追いつめたカイトのパートナー、リクスウルフのホロである。泣き別れた首の断面から吹き出す血が顎へとしたたり白い胸毛が染まり、喉笛を鳴らして唸るホロの口の中なおもオークは助けをこうていた。


「タスケ、テ…」


もはや生より死に近いはずのオークだがそれでも生が恋しいのか生き意地に任せてでた言葉をカイトが聞くはずもなかった。



「噛み砕け…」


飛び散った脳漿、その他諸々。だがこの世界では骸が五つ増えただけ。しかも獣のとくれば悲しむ人間もそれを否定する人間もいない。


インカムに告げる終了の声にオーケーの返事。

荷物を廃墟群から運び出しエドの迎えが来るまで日陰で瓦礫に腰掛けて一服吹かしているとホロが頻りに荷物に鼻を押し当てていた。


「ん?どうしたホロ?」


声をかけても止まらず鼻を押し当てる。荷物の中身を見てしまったが故に死んだ運び屋は多い。死にたくなかったらブツに興味を抱くなとは奴らが口を酸っぱくして繰り返すルールだ。ハンターという半ば何でも屋的職業柄そんな事は百も承知のことだったのだがゆるみ始めた結び目がするりとほどけて荷物の中身が露わになってしまった。


金色の髪をした少女。

それが袋から上半身だけ覗かせた荷物の正体だった。

しかもその少女の服装と言えば見たこともない肌に引っ付くようなデザインでカイトのように砂除け用に首にかけたゴーグルもマントも護身用の武器もまるで持ち合わせていないのだ。

その見たこともないという所が既に少女の身分の証でもあった。

一瞬フリーズしたのち盛大にため息を付いてブルーになったカイト。


「まさかアンダーステイツの住人とは……全く、とんだ貧乏くじ、死んだかもしれないなオレたち……」


そう言うと今度は中身を出してしまったホロに向かってカイトはまた盛大にため息を付いた。

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