表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SAND LAGOON  作者: ユニ
2/5

エバーデットタウン



「アメリカ西部劇の中にでも入ったみたいだ」


きっとこの街を私たちがみたらそんな言葉を漏らすのだろう。


周りの大地を見渡しても要所要所に前文明の忘れ形見はあるものの、乾ききった大地と僅かに根付く植物。

後は断崖絶壁が連ねる渓谷位しかないその光景もさることながらその街の様子は全体を囲んだ木製の防壁以外、正に西部開拓時代のそれそのものだった。

しかしこの街に住む人間は誰一人とてそんな事を知るはずもない。だから彼らや、旅人はこの街の門をくぐり抜けるとき、


「アメリカ西部劇の中にでも入ったみたいだ」とは言わない。

こう言うのだ。


「あぁ、ここが悪徳の街エバーデットタウンか…」と、






あの災厄の中生き残った人間達の子孫である彼ら、

かつての先人達の知恵は失われたが段々と技術を取り戻し、今へと行き着いた。多少の違いはあれど世の真理が不変であるとすれば一からやり直そうと百まで辿り着けるのは道理。

彼らが前文明の所に戻るまではまだ時間がかかるものの常に変動し、進化し、そして世は正に、暴力と金が支配する時代へと移り変わっていた。


弱肉強食

そんな言葉が再び生まれたこの時代に置いて最先端を行く街がある。それがエバーデットタウン。


悪徳の街、神のゴミ捨場と言われる街だ。悪党に溢れ、殺しだ抗争だと年中騒がしいこの街であれば事件の火種なんてどこに転がっているかもわからず、不用意に踏んづけたが最後死が待っている、なんて事もザラにあるわけだが、今、街に幾つもある酒場の一つ、レッドハットに現れた一人の男は特にゴキゲンな火種を持っていた。



その男は入ってきた時から既に青ざめていた。

彼の名前はエルゴ・ディガー。所謂運び屋である。

彼はレッドハットに入りいつものように昼間から酒を喰らう仲間達の下には行かず、一人覚束ない足取りでカウンターに付くと


「ラムをくれ……」


と、ラム酒を注文し、震える手でグラスを空にした。

まるで化物が人を喰っている所でも見てきた後のように青ざめたエルゴを心配して店主が事情を聞いてみるとエルゴは口を開いた。

どうやら運搬中の荷物をモンスターに奪われてしまい、ハンターに奪還を依頼してきた帰りらしい。


それくらいなら偶にある。

ハンターに依頼したなら問題も無いはずなのにエルゴはひたすらに

「終わりだ、全部終わった…」


と繰り返すばかりだった。


「大丈夫さエルゴ。カイトの所に依頼したなら問題無いだろ。ヤツらの腕は確かだ。じきに荷物も帰って来るさ。それにモンスターに襲われて生きてるだけめっけもんだろ?命と酒があれば世は事も無し、さぁ飲みねぇ!」


そう言って代わりを注ぐ店主の手を掴んだエルゴは、見開いた目を一度も閉じないまま過呼吸気味に息を吸い、小さな声で言った。


「荷物は、あれは……、アンダーステイツ(地下合衆国)のヤツらの物なんだ………!!」


聞いたと同時に陽気な顔の店主の顔も青ざめた。


「エルゴ、お前正気か!?そんな事したらトライグルの奴らに殺されるぞ!!」


「仕方なかったんだ……あれを運ばなきゃオレはどの道死んでいた……!!やるしかなかったんだ!!」


次第に上がる声色に回りが気づき始めた頃、更に一人レッドハットに入ってきた男がいた。黒髪にサングラス。中肉中背の体から見た目に反した血と硝煙の臭いを引っさげて現れたのはトライグルメンバー、ジョン・ギリアロッド。

ジョンは腰に下げた前文明の遺品であるデザートイーグルの撃鉄を起こすと、真っ直ぐエルゴのもとに歩み寄る。自分に死神が近づいてきているのにも気づかず必死に釈明を続けるエルゴ。


意味の無いことだった。

過程など問題ではないのだ。結果にこそ意味がある。時代が代わってもその真理こそが絶対。彼はこの街唯一のルールを破った。

だから死ぬ。

当たり前だ。

それにパニックに陥ってるとはいえ、何故飲み屋の店主に釈明を続けるのか?

ここは神のゴミ捨て場。ここにいる時点でエルゴもまた神に捨てられたゴミなのだ。

例え神に救いを求めても助からないこの街で店主相手では助かるはずもない。


故にエルゴは死以外の全てを剥奪されるはめになった。


「だからオレは…!!しょうがなかったんだ!!」


「そうだな確かにしょうがなかった…だがやっちまった以上お前はどの道DEATH or DEATH、同情するぜ、この世界にゃ神も仏もいやしない…」


後頭部の違和感を感じて間もなくエルゴの脳漿を貫いたそれは置かれたグラスを破壊してカウンターに突き刺さった。


「マスター、迷惑かけたね。掃除はこっちで受け持つ。そのままにしといてくれや」




「ジョンさん!!どうせやるなら外でやってくれよカウンターが血で汚れちまった」


ヒラヒラと手を振りその場を後にしたジョン。

後にはエルゴの死体が残ったものの誰一人気にかける奴などいない。死体に浴びせられるのは罵倒ばかり。

さっきまで一緒にいた店主ですらもう見向きもしない。

ここではこんな出来事日常茶飯事。


ここは悪徳の街エバーデットタウン。


一日の死者の数は多いがそれを数える者もいない街。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ