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鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第三十九章 黒闇天、原爆葬
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黒闇天、原爆葬【Bパート】

「えっ‥‥本当に!?」


 真剣に驚く直実(なをみ)


(私、田上(たうえ)くんの事が好きだったんじゃ‥‥?

 この三ヶ月で何があったんだろ?)


 そうこうしている間に羽野は高く打ち上げたセンターフライに倒れ、宮町中の攻撃が終了した。



鷹ノ目(たかのめ)、とにかくマウンドに上がったら羽野のミットを目掛けてラリアットの要領でボールを投げろ。

 ストレートの握りはこうだ。」


 三浦は軟球で握りを見せる。


「わかりました、こうですね。」


 直実もエアボールを握ってみせた。


「よし。

 試合の中で失ったものは試合の中で取り戻せ。

 ――行ってこい。」


「はいっ!」


 三浦は直実の身体(からだ)に投球モーションが刻み込まれている事にわずかな望みを賭けた。

 それは、松浦を負傷で欠いた現在、直実の鉄腕ラリアットが唯一、春日部(かすかべ)輝松(きしょう)と互角に戦える武器と言えたからだ。



 マウンドに登った直実の心臓は高鳴った。


(私に本当に出来るのかな‥‥?)


 押し寄せる不安。


(ううん、ここまで来たら、出来る出来ないの話じゃない!

 やるっきゃない!

 ええい、どうにでもなれ!)


 主審が投げた真新しい軟球を受け取る直実。

 そして『勇気のグローブ』に入った球を握る。

 すると、不思議な事に、肩に入っていた力みがすうっと消えた。


(出来る!)


 脳裏に湧く確固たる自信。

 直実は大きく振りかぶると、記憶を失くす前と何ら変わらないダイナミックな投球フォームに入る。

 そして鉄の右腕を唸らせる。


 バス――――ン!


 羽野のミットに寸分たがわず収まる球。


「ストライーク!」


 春日部輝松の四番、中村は微動だに出来なかった。


(よかった、鉄腕ラリアットは身体(からだ)が覚えていて。

 でも、バント処理や牽制球みたいな付け焼刃は忘れちゃってるんだろうな。)


 羽野は残りの打者を全員三振に取る気でミットを内角に構え直す。


 ● ● ●


「ストライーク! バッターアウト!

 チェンジ!」


 この回、三者連続三球三振に打ち取った直実。


「ナイスピッチン、鷹ノ目さん!」


 ベンチに戻りながら声を掛ける羽野。


「うん、ありがとう!

 あんな感じでよかったのかな?」


「バッチリだよ。」


 直実の言葉で記憶はまだ戻っていない事を羽野は悟った。

 なので、敢えて記憶については触れないでいたのだが、


「よう、なんか思い出したか?」


 無神経なつながり眉男が話を切り出した。


「太刀川さん‥‥でしたっけ?

 まだ全然思い出せないんです。

 あ、でも、投げ方だけは何とか身体(からだ)が覚えてて!」


「――虫唾(むしず)が走るから『さん』付けはやめてくれ。」


 太刀川はまだ記憶が戻っていない事を察した。


「じゃあ、何て呼んでたんですか?」


「いっつも呼び捨てだ。」


「そうなんですか。

 わかりました、教経(のりつね)。」


 これには太刀川も羽野も噴き出した。


 太刀川も羽野も噴き出した。


「下の名前かよ!?」


「えっ? だって、カレシなんですよね?」


 真に受けている直実をどうしたものかと思う太刀川だったが、


(‥‥ま、面白(おもしれ)ぇからいっか。)


 と、軽く思い、


「ああ、それでいい。」


 と、答えた。


「太刀川さん、収拾はつけたってくださいよ。」


 羽野は憮然とした口調で、一定期間の記憶を失くしている直実を玩具(おもちゃ)にしている太刀川に釘を刺した。


 ● ● ●


 四回裏、宮町中の攻撃。

 岡田、金森を凡打に打ち取り、迎えるは四番の太刀川。

 そしてカウントは2-2(ツーエンドツー)


(追い込んだんじゃない。

 こいつ、勝負を楽しんでやがる。

 油断をするな、安西。)


 中山田は太刀川がわざと(ツー)ストライク目を取った渾身のストレートを見送った事に気付いていた。

 ならばと決め球のえぐスラのサインを出す。


(今度こそ打ち取る!)


 安西はサイン通り、えぐスラを投げる。

 そしてそれは、その名前の通り、えぐい曲がり方でホームベースに入って来る。


(もらいっ!)


 太刀川のバットが球に向けて振られる。

 その時だった。


「いっけー、教経!」


 直実の応援が鼓膜に届くと、調子が狂ってしまう太刀川。


 スカーン!


 当たり損ねの打球は、黒闇天に愛された男への痛烈なライナーとなってしまう。


(くっそ、ショートライナーかよ!)


 身から出た錆とは言え、太刀川はきつく唇を噛んだ。

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