黒闇天に愛された男【Eパート】
「ストライーク!」
鉄腕ラリアットは初球、百六十二キロをマークした。
未体験ゾーンのスピードに打席の高橋は凍り付いて手が出なかった。
そして、不意を突いての牽制球。
先程よりもリードの幅は短いはずなのに、またもやギリギリのセーフ。
(このピッチャー、試合の中で成長している!?)
鈴木の全身に鳥肌が立った。
そして、リードの幅は更に短くなった。
「ストライーク、ツー!」
高橋はまたもや見送った。
鈴木は高橋に盗塁アシスト用のスウィングをするようサインを送る。
三球目、投球モーションに入ったと同時に鈴木がスタートを切った。
そして高橋はモーションの途中から見切り発車的にスウィングをする。
しかし、それでも尚、
バス――――ン!
フォン!
スウィング音よりもわずかに早くミットに軟球が納まり、主審が三振のコールをする。
羽野は座ったまま、迅速に二塁へ送球しようとした。
その時だった。
ペチャッ。
羽野の右手に閑古鳥のフンが落ちてきた。
途端、集中力がその場で切れた羽野は送球出来なくなった。
「ごめん、鷹ノ目さん、投げられなくって。」
タイミング的にはアウトを取れていただけに羽野は申し訳なさそうに直実に謝った。
そしてポケットの中の手ぬぐいでフンを擦り取ると、直実に球を投げた。
「ううん、ちょっと不運だったね、フンだけに。」
直実の親父ギャグに羽野は少しだけ救われた気分になった。
スコアリングポジションに走者を置いた直実。
すかさず三浦は守備の交代を告げる。
「レフトの金森をファースト、ファーストの土肥をセンター、センターの加藤をレフト。」
三浦は徹底的に鈴木のリードを封じに来ていた。
土肥が二塁ベースに張り付きとなり、左翼手に入った加藤は左中間に、右翼手の藤本は右中間にシフトさせていた。
内野五人体制、それは直実の球は外野まで飛ばせられないという信頼感が生み出した奇策だった。
直実はリードを大きく取れない鈴木を無視するかのように打者への投球に集中した。
● ● ●
「ストライーク! バッターアウト!
チェンジ!」
三番の三善を三球三振に取った直実は元気にベンチへ戻っていく。
その時だった、最悪の不運が直実に襲い掛かった。
主審に新しい軟球を届ける青年が地面のぬかるみで足を滑らせ、球をばら撒いてしまった。
勢いよく転々とする軟球。
そして、その中の一つが直実の着地する足の下へ入る。
「うわっ!?」
足を取られ、後頭部から落ちる直実。
条件反射的に受け身を取ったものの――
「鷹ノ目さん、大丈夫!?」
羽野が青天状態のまま、なかなか起きない直実に声を掛ける。
鼓膜に心配そうな声が届くと、おもむろに上体を起こす直実。
が、しかし、
「あれっ、何で私、こんな所にいるんだっけ?」
記憶を喪失していた。
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