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鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第十五章 脱却
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脱却【Bパート】

 そして瞬く間に三日が経った。


 スターン!


「お見事! 素晴らしい集中力だ。」


「ありがとうございます。

 五十嵐先生のご指導があったからです。

 さすがに百発百中ではありませんが‥‥。」


「届くようになっただけでも及第点だよ。

 ふふっ、三浦先生の事だ、私がダーツのコーチをするだろうと読んで、君をここへよこしたのだろうね。」


「そう‥‥かもしれませんね。」


 あり得ない話ではないと羽野は思った。


「この短期間でここまで上達するなんて驚いたよ。

 『男子、三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ』なんて言葉があるが‥‥さぞ、帰ってからも相当自主練を積んだんだろうね。」


「えっ‥‥?

 ――ええと‥‥はあ、まあ‥‥。」


 五十嵐(いがらし)に自主トレを見透かされていた。

 しかし、口下手で照れ屋な羽野はそれを雄弁に語れる性格ではなかった。


「はっはっは、嘘のつけない不器用な子だ。

 君みたいな子は損する事も多いだろうが、私は好きだよ。」


「ありがとうございます。

 俺、部に戻ります。三日間、お世話になりました。

 ――それから、皆さんもありがとうございました!」


 羽野は五十嵐と弓道部員たちに頭を下げると、ダーツを持って退出した。


 ● ● ●


「あっ、戻ってきたぞ。」


 親分こと金森がドタドタと走ってくる羽野を見つけて部員たちに知らせた。


「先生、これ、お返しします。」


 羽野は三浦にダーツの箱を返した。


「どうだ、成果の程は?」


「なんとか、座ったまま的に当てられるようになりました。」


「上等だ。

 ――さっそくで悪いが、キャッチャーの位置から座ったままセカンドに投げてみろ。」


「えっ?」


 羽野は思わず理由を問いたくなったが、取り敢えず言われた通りに位置に就いた。


「ダーツの要領で投げるんだ。いいな?」


「は、はいっ!」


 羽野は軟球を金森から受け取ると、肘から先で二塁ベースに就いている岡田に投げた。

 あたかも紙飛行機でも投げるかのような柔らかいテイクバックとは真逆に、腕力にモノを言わせたリリースとそこからのフォロースルー。


 バシッ!


 軟球は矢のように岡田のグローブに突き刺さる。


「マジかよ‥‥。」


 金森が羽野を見守っていた部員の代弁者となった。


「羽野、お前の運動神経は鈍い。

 だから教科書通りのキャッチャーのスローイングをやっていたのでは盗塁を刺せない。」


 三浦は言葉を続ける。


「だが、毎日の努力で鍛えた腕は紛れもなく一級品だ。

 無駄な動きを省き、腕だけで投げるんだ。

 そうすれば鷹ノ目の速球と合わせて盗塁を防げる。」


「――なるほど。」


 羽野は三浦の理論に納得した。

 思い返せば特注品のダーツは軟球の重さに限りなく近い物だった。


「腕はバズーカ、身体(からだ)は戦車、走る姿はガンタンクってか。

 どれどれ‥‥。」


 金森がおどけて羽野の太い前腕(ぜんわん)を両手で掴んでみる。


「俺の指でも届かねぇ~。」


 羽野の前腕はそれほどまでに太かった。


「もうこれで『ただの壁』なんて言われないね!」


「ド直球だよ、鷹ノ目さん。

 これでも気にしてたんだからさぁ。」


 羽野の人差し指でこめかみの(うえ)(あた)りをぽりぽりと掻きながらの発言に、部員たちは爆笑した。

 それを断ち切るかのように三浦が咳ばらいを一つ。


「だが、まだまだ課題がある。

 羽野にも鷹ノ目にも――そしてその他の者にもだ。

 鷹ノ目の低めのコントロールとルールの把握。

 羽野のリードと思い切りの欠けたバッティング。

 金森と長田(おさだ)の捕球。

 外野手陣の目切(めき)り。

 岡田のパワー不足。

 竹之内の選球眼。

 加藤の決め球。

 松浦の見せ球。

 太刀川と星野、伊藤の硬式癖(こうしきぐせ)矯正(きょうせい)

 これらを地区大会までに克服する。

 ――いいな!」


「はい!」


 部員たちの元気な返事が夕陽に染まるグラウンドを駆け抜けた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 部員一人ひとりの弱点をわかっている三浦がかっこいいです。
[良い点] 運動神経は鈍いって言い切る三浦のセリフに爆笑しました。ツボです。
[良い点] 努力家で真面目な羽野にスポットを当てた部分。 毎日の鍛練(手押し車)と真摯に向き合うひたむきさを持った羽野が好きになりました。 [気になる点] どこにダーツを発注したのか気になりますね。 …
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