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鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第三十五章 鉄腕ラリアット、破れる
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鉄腕ラリアット、破れる【Cパート】

 『天才』とは何か?

 それは努力に対して結果をどれくらい出したかの割合に比例する。


 数式にするならば、

 努力÷結果が1に近い程、その者は『天才』と言える。

 故に結果の伴わない天才は存在しない。


 少なくとも、栄村(さかえむら)学院の監督、氷村(ひむら)はそう考えていた。

 その氷村にして『天才』と言わしめた男、それが酒巻(さかまき)希義(まれよし)だった。


 酒巻は、難病の妹の治療費の為、一度は野球を断念した男であった。

 だが、野球の神は彼を見捨てなかった。

 ニジサキスポーツの目に留まり、栄村学院の野球部に入る事で治療費を肩代わりしてもらう。


 そして今、二年にして名門、栄村学院の四番に()わる酒巻が二回裏の先頭(トップ)打者(バッター)として右打席に入る。


(監督は打球を殺してから打てと言った。

 ――でも、それじゃあ長打は望めないよな。)


 酒巻はバッターボックスの一番前に立つ。


「何を考えてんだ、あいつは!?

 少しでも後ろで打った方がいいだろうが!」


 福島が怒声を上げた。


「落ち着け。

 ヤツには何か考えがあるんだろう。」


 氷村が福島を制した。


(頼むぞ、天才。)



 初球、ど真ん中の自己最速タイの百六十七キロを見送る酒巻。


(俺が当てられるのは百六十キロまでだ。

 それ以上のボールは捨てる。)


 酒巻はバットの握りを更に甘く持ち直す。


鷹ノ目(たかのめ)さん、このバッター、何を考えてるかわからない。

 一球、外そう。)


 羽野(はの)はストライクゾーンから外れた位置にミットを構えた。

 しかし、直実(なをみ)は羽野のサインに初めて首を横に振った。

 羽野はミットの位置を外角いっぱいまで戻す。

 (うなず)く直実。


「うおおおおおっ!」


 バス――――ン!


 百六十二キロの鉄腕ラリアットが羽野のミットに収まる。


「ストライーク! ツー!」


(まだだ!)


 酒巻はしぶとく待ち続けた、バッティングマシンで見慣れた速さを。

 そして三球目、羽野は内角高めにミットを構える。


「うおおおおっ!」


 狙っていた『その球』が来た事を悟る天才は、見切り発車でバットを振り始める。

 天才は直実の瞳に注目していた。

 直実は磨き抜いたコントロールの良さが災いし、投球前の瞳の位置とほぼ同じコースに球が行く。

 その事をわずか二球で見切られていた。


 ガッ!


 酒巻の木製バットの真芯に鉄腕ラリアットが捉えられる。

 その瞬間、酒巻は後方へ軽くステップする。

 これにより鉄腕ラリアットの勢いを半分殺した。

 そして、着地と同時にバットを思い切り振り切る。

 天才自身にとって必要としていたものは科学的根拠でも経験でもない、閃きと実行力である。


 ――フォン!


 鉄腕ラリアットは酒巻のスウィングスピードに加え、己の持つ『半』反作用で左中間へと弾き返される。

 懸命に追う左翼手(レフト)の松浦と中堅手(センター)の和田。

 しかし、打球は無情にもスタンドに飛び込んだ。

 腕を回す二塁塁審。


(鉄腕ラリアットが‥‥ホームランを‥‥)


 マウンド上で愕然(がくぜん)とする直実。

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