表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第十五章 脱却
8/264

脱却【Aパート】

この作品は『エンターブレインえんため大賞(ファミ通文庫部門)』の最終選考まで残ったものを20余年の時を経てリライトしたものの続編となります。

「ダーツ‥‥ですか?」


 昼休み、三浦に体育教官室まで呼び出された羽野は聞き返した。


「ただのダーツではない。

 俺の教え子が務める工場に無理言って作ってもらった物だ。」


 そう言うと三浦は特注品と思われる鉄製のダーツを一本手渡した。


「重いですね。」


「今日から三日間、お前は柔軟と手押し車が終わった後、弓道場へ行け。」


(‥‥手押し車は確定なんだ。)


「そしてキャッチングポーズのままダーツを的に当てろ。」


 羽野に対し三ダースの特注品のダーツの箱が渡された。


 ● ● ●


「――という訳なんだよ。」


 雨の日の野球部は中廊下で柔軟運動と呼ばれる筋力トレーニングメニューをこなす事になっていた。

 グラウンドが走れない為、通常なら羽野は手押し車を免除されるのだが、今日は三浦の指示で体育館の中で直実と行っていた。


「一体、何の練習なんだろうね?

 先生の事だから、きっと何か理論があるんだと思うけどさぁ。」


 直実が小首を(かし)げながら羽野に(たず)ねた。


「うん、俺もそう思うよ。

 ――はい、終わり。」


 羽野はノルマをこなして立ち上がるや否や、


「あれ?」


 些細(ささい)な点に気付く。


「どうしたの?」


「鷹ノ目さん、背ぇ伸びた?」


「そうかな?

 三浦先生からもらった食事メニューをお母さんに作ってもらってるけどね、そぉんなに急には伸びないと思うよ?」


 笑いながら直実が答える。


「俺の気のせいかなぁ。

 ――あ、じゃあ、弓道部んとこに行ってくるよ。」


 羽野はダーツを入れた箱を持って体育館を後にした。


 ● ● ●


「やあ、君が羽野(はの)敦盛(あつもり)くんか。

 話は三浦先生から聞いているよ。」


 羽野が弓道場に着くと、初老の男性教師で顧問の五十嵐(いがらし)裕一(ゆういち)が声を掛けた。


「お世話になります。」


 羽野はぺこりと頭を下げた。


「一番左端の的を使って構わないよ。

 どうせ廃棄処分する物だったからね。」


「ありがとうございます。」


 弓道場に野球部の練習用ユニフォーム姿がいるだけでも違和感があるのに、それがダーツを投げるとなったら気にするなと言う方が無理な話だ。


「先生! なんで許可されたんですか!?

 気が散ります!」


 弓道部部長の吉岡(よしおか)が五十嵐に部員の代表として意見した。


「なるほど、気が散る、か。

 たしかに弓道には集中力が必要なスポーツだ。

 だからこそ、如何(いか)なる時にも心を乱さない鍛錬も必要だと思うがね、私は。」


「しかし‥‥。」


「弓は元は(いくさ)や狩りで使われていたものなんだよ?

 心を乱さない静かな場所で使われていた訳ではないんだ。

 ――それに、この程度の事で乱れる程、精神の鍛練を(おろそ)かにしてきたつもりはないんだけど。」


 五十嵐の理路整然な説得に、吉岡は反論が出来なかった。


「‥‥わかりました。」



 羽野の練習が始まった。

 (あらかじ)め三浦から軽く投げ方のレクチャーはされていたが、的に当たるどころか届かなかった。

 二百三十七センチがダーツの的(ダーツボード)までの距離である。

 それに対して弓道の的までの距離は二十八メートル。

 ある程度の重さがある特注品のダーツとはいえ、そうそう届くものではなかった。


「羽野くん、手首のスナップだけでなく、テイクバック‥‥肘から先を効率よく使ったらどうかね?」


 愚直(ぐちょく)に同じ動きを繰り返す羽野を見かねてか、五十嵐のアドバイスが飛んだ。


「見たところ、君の腕は尋常(じんじょう)でないまでに鍛えられている。

 肘から先だけの運動でも充分、的には届くと思うがね。」


「はい、やってみます。」


「素直で結構。

 それにしても、見事な筋肉だねぇ。」


「まあ、毎日のように手押し車をしてますから。」


「ああ、なるほど。

 練習は嘘をつかないという典型(てんけい)だね。」


 五十嵐は羽野の腕をしばし見つめてから切り出した。


「私はこれでも若い頃、ダーツにハマっていた時期があってね。

 どれ、少しコーチをしてあげよう。」


「ありがとうございます、お願いします。」

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、誠にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] キャッチャーの羽野にスポットが当たってうれしいです。
[良い点] 直実と羽野が会話をするとなんだか気持ちがほっこりしますね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ