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鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第三十三章 機動力野球の申し子たち
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機動力野球の申し子たち【Dパート】

「ぐちゃぐちゃじゃないですか。

 松浦さん、無茶し過ぎです。」


 松浦の足裏の破れた水泡を見た希望(のぞみ)は呆れ果てた。


「新しいスパイクにして気合入れてたのが裏目に出たな‥‥。」


「とにかく水道水で患部を洗って、破れた皮をハサミで切ります。」


「そんな事してたら試合に‥‥。

 手っ取り早く消毒して絆創膏を貼ってくれ。」


「潰れたマメは消毒しません。

 マメの中のリンパ液は自然治癒力となる成分が入ってるんです。

 水道まで肩を貸しますから。」


粟田(あわた)さん、俺が松浦さんを運ぶよ。」


 そう言うと、羽野は松浦をひょいとお姫様抱っこする。



 スカ――ン!


 その間、この回の先頭打者の太刀川はひたすら特大ファウルで粘っていた。


「何なんだ、コイツ‥‥。」


 蛇の生殺しを味わっているかのように感じた黒鳥(くろとり)の口から言葉が漏れた。


(お前が戻ってくるまで何本でも放り込むぜ。)


 敬遠級のクソボールをもファウルされ、黒鳥はマウンド上で半べそをかいていた。

 もはや黒鳥には全力で立ち向かう気力は失われていた。

 それを悟った指揮官の吉田はおもむろに立ち上がり、主審にタイムを申請した。


「ピッチャー交代をお願いします。

 黒鳥に代えて白澤(しらさわ)を。」


 マウンドには二年生右腕の白澤が上がり、投球練習を始めた頃、応急処置を終えた松浦がベンチに戻ってきた。

 和田が頭上に大きなマルを手で作り、太刀川にサインとして送る。


(やっとかよ。)


 太刀川は口端(くちは)を上げ、打席に立つ。

 そして白澤が投げた初球、外角低めに入るスライダーを、


 スカ――――――ン!


 今までの鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように左翼(レフト)スタンドに叩き込んだ。


 ● ● ●


 松浦は六回2アウトの時点でマウンドを加藤に譲る。


「ストライーク! バッターアウト!

 チェンジ!」


 緩急を使い分けた加藤が九番に入った白澤を三振に仕留めた。



 そして六回裏。

 一死(ワンアウト)で三度、太刀川に打席が回る。

 しかし、太刀川はベンチからの指示で敬遠で歩かされる。


「なになに、俺と勝負って訳?」


 金森がやる気満々で左打席に入る。

 初球、真ん中高め、わずかに外れてボールの判定。

 二球目、外角低めを振らされて1-1(ワンエンドワン)

 そして三球目。


 カキ――――ン!


 走者(ランナー)がいると滅法頼りになる金森の一振りが、ライナーで右翼(ライト)スタンドにボールを突き刺した。

 これで五点、もはや勝負がついたかに思えた。

 しかし、老将・吉田はまだ諦めてはいなかった。



 七回表、この日、二安打の清水に三度、打席が回る。


 コン!


 あくまでも機動力野球に掛ける執念が、清水にこの日、三安打目を記録させた。


「三安打かぁ、やるねぇ。」


 金森が清水に話し掛けるが、さすがに今回は無視された。

 一度ならず二度までも騙されたのだから無理もない。


 続く魚住への初球、すかさず二盗を決める清水。

 この辺り、面目躍如といったところだ。


「タイム!」


 土肥がタイムを取った。


「加藤、あの球は使い物になるか?」


「何の事だ?」


「とぼけんな、お前の決め球だ。

 白鳳(はくほう)戦の後から密かに練習していたあの球だ。」


「なんだ、知ってたのか。

 ――まあ、七十%ってところだな。」


「充分だ。

 次、あのバッターがバントしそうな時にはそれを使うぞ。」


「ん? ああ。」


 その決め球を使うタイミングはすぐに訪れた。

 魚住は送りバントの構えを取る。

 土肥は加藤の新しい球種のサインを出す。

 (うなず)く加藤。

 モーションに入ったと同時にスタートを切る清水。

 清水のアクションからバスターを警戒し、前進守備に徹しきれない内野陣。

 その中でこの男だけは猛然とダッシュしていた。

 金森である。


 加藤の投じたボールは不規則に揺れ、打者の手元で急激に沈んだ。


(この球は、パームボール!?)


 正確には変則パームボールである。

 パームボールは指を全く掛けずに投げるが、加藤の場合、中指だけわずかに掛け、リリースのタイミングでそれを上げる。


 魚住は必死にバットに当てる。

 だが、それは金森への浅いフライになる。


(捕られる!)

(捕れる!)


 誰もがそう確信した。

 清水は慌てて二塁(セカンド)へ引き返す。


 だが、金森は想定以上の鈍足、捕れなかった。

 ギリギリワンバウンドで捕球すると、迷わず遊撃手(ショート)の星野へ送球。

 星野は中途半端に戻っていた清水にタッチすると、間髪入れずに一塁(ファースト)のベースカバーに入っていた加藤に送球。


「アウト!」


 3-6-1の併殺打(ダブルプレイ)が成立した。


「結果オーライ!」


 金森がVサインを出して叫ぶ。



 続く杉浦は変則パームボールにより3バント失敗でアウト。

 浦和元町学園の攻撃が終了した。

 加藤の身に着けた決め球は『バント殺し』とも言えた。

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