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鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第三十二章 県大会前日の出来事
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県大会前日の出来事【Dパート】

「ねえ、バファローズだっけ?

 あのピッチャー、私の投げ方と少し似てない?」


 直実(なをみ)羽野(はの)に切り出した。


「うん、身体(からだ)の捻り具合なんかよく似ているね。

 先生も参考にしたんじゃないかな、トルネード投法。」


「なら、本家を参考に、もっと鉄腕ラリアットを磨かなくっちゃ!」


「えーと‥‥まずはキャッチボールから見直そうか。」


「――だね。」


 直実も羽野から苦笑いが伝播(でんぱ)した。


 ● ● ●


 この試合、6-0でバファローズがファイターズを下した。


「どうだった、本物のプロの試合。」


 席から立ち上がった羽野が直実に(たず)ねた。


「迫力があったねぇ。

 やっぱ、ファミスタとは違うよ、うん。

 今日はいろいろ解説、ありがとうね。」


 直実が愛嬌のあるタレ目を細めてお礼を伝えた。


「どういたしまして。」


 羽野もにっこり微笑みを返す。


 ● ● ●


 直実が外を隔てる回転ドアから出た、その時だった。


「あれ、親分に竹之内(たけのうち)さん、藤本さん。」


 直実がドームに来ていた三人に声を掛けた。

 動揺する三人。


「よ、よう。

 こんな所で偶然だなぁ、はっはっはっ。」


 極力、平然を装う金森であったが、明らかに棒読みだった。


「親分、ファイターズファンでしたっけ?

 それともバファローズファン?」


 羽野が金森に(たず)ねた。


「俺はどっちのファンでもないけどよ、野茂(のも)が投げるってんで観に来たんだよ。

 ――なっ?」


 金森は適当な理由をでっち上げ、両脇の二人に目配せした。


「そうそう。

 おかげで初完封勝利を見られたってワケ。」


 藤本が調子を合わせる。


「いやぁ、ラッキーだったなぁ。」


 竹之内も然り。

 その後で金森は咳払いを一つ。


「あー、ところでお前らは、何しに来たのかな?

 羽野、お前はタイガースファンだったよな?

 なんで、わざわざパ・リーグの試合を?」


 金森はジト目で二人を交互に見つめる。


「鷹ノ目さんが先生から勉強の為にプロの試合を観に行けってチケットを渡されたそうなんですよ。」


(完璧な理由だ。

 だが、完璧過ぎて逆に怪しい。

 どこかに(ほころ)びが絶対にあるはず‥‥。)


 金森は考える。

 持っている限りの煩悩力(エロパワー)を振り絞って綻びを見つけようと思考を巡らせる。

 そして、蟻の一穴を見つける。


「チケットをもらったのは鷹ノ目だよな?

 なんで羽野と一緒に観に来たんだ?」


(さすが親分!

 俺たちの知りたい事をよくぞ訊いてくれた!)


 竹之内と藤本は心の中でユニゾンし、むせび泣いた。


「そ、それはですね‥‥。」


 直実は焦った。

 消去法で選んだと本当の事を言ったら羽野に対して失礼な気がする。


 その一瞬の動揺を見破った金森は尋問を加速させた。


「野球の勉強の為に野球に詳しい人を誘った。

 そこまでは想像もつくし、納得もいきます。

 ただ、どうして羽野だったのか教えてほしいなぁ、と思ったりするワケで。」


「い、一年の時の連絡網で羽野くんの名前があったから‥‥。

 ほ、ほら、私、野球部員の電話番号、羽野くんのしか知らないし!

 ――で、羽野くんにお願いしたんですよ!」


 直実は目を泳がせながら理由をでっち上げた。


「電話帳って手は考えなかった、と?

 竹之内の苗字は熊谷に一軒しかないはずだけど?」


 金森の追求に(うなず)く竹之内。


「え‥‥ああ、電話帳ね‥‥。

 そこまで知恵が回らなかったなぁ~。

 ほら、私、赤点の常習犯だから頭悪いし‥‥。」


 明らかに嘘である。

 しかし、直実は賭けに出た。

 『赤点常習犯』という単語を金森にぶつけ、シンパシーを感じさせるというものだ。

 そして直実は最後の切り札として、スマイル0円攻撃に売って出た。

 美人とまでは言えないが、愛嬌のある笑顔とは親戚からよく言われていた。

 まあ、多少お世辞もあるかもしれないが。


「赤点常習犯じゃ仕方ねぇよなぁ、うん。」


 直実は賭けに勝った。

 胸を撫で下ろす直実。


「二人揃って出てきた時にゃ、てっきりデートかと思っちまったよ、ははは。」


「デ、デート!?」


 羽野の声が裏返る。

 途端に顔面が真っ赤に変わっていった。

 野球の解説の事で頭が一杯だった羽野の脳に、海馬の映写機から直実との行動一連がプレイバックされる。


 電話、私服で待ち合わせ、電車でお喋り、野球場で隣り合わせに座って解説したり、飲食したり‥‥。

 (はた)から見たら、これは完全にデートである。


「な、何を言ってるんですか、親分。

 そんな訳ないじゃないですか、鷹ノ目さんが俺なんかと。」


 慌てる羽野を見てニマッと笑う先輩三人衆。


「まあ、鷹ノ目は何とも思っちゃいねぇみたいだけどよ、羽野はどう思ってるんだ?」


 金森が半分からかうように羽野をイジる。


「どう思ってって‥‥。」


 バクバクと高鳴る心臓。


「教えてくれてもよかんべ?」


 竹之内も悪ノリする。


「‥‥明るくて、どこまでも真っ直ぐで、いい子だと思います。」


 誤魔化すのが苦手な真面目男は思っている事を伝えた。

 しかし、今度は直実の顔が真っ赤に変わった。


「‥‥そっか。

 まあ、それは同感だ。」


 これ以上、イジるのも可哀想だと思った金森は、


「そろそろ熊谷(くまがや)に戻ろうぜ。」


 そう言うと羽野の背中をポンと叩いた。


「そ、そうですね、だいぶ遅くなっちゃったし。」


 直実が安物の腕時計を見ながら言う。


()ぇんべ、()ぇんべ。」


 竹之内が先陣を切って歩き出す。



 五人はその後、高崎線の中で今日の試合や、明日の県大会の試合について語り合った。

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