ミニ合宿・最終日【Aパート】
この作品は『エンターブレインえんため大賞(ファミ通文庫部門)』の最終選考まで残ったものを20余年の時を経てリライトしたものの続編となります。
「そうじゃない!
中継しないからランナーの進塁を許す事になったんだ!」
左翼手の守備に就いていた直実にノッカーを担当していた三浦の指示が飛ぶ。
「すいませーん!」
合宿最終日の早朝練習のメインは、様々な状況を想定しての中継プレイの練習だった。
頭の中で複数の走者の動きが把握出来ていない直実は、ホームインさえ阻止すれば万事OKと考えていた。
故に余計な進塁まで許す結果となった訳だ。
「先生、アイツの単純な脳みそじゃ中継プレイは難し過ぎるんじゃないですか?」
太刀川が三浦に進言した。
「何をーっ!?」
怒る直実。
「それほど難しい事は要求していないのだがな‥‥。
よし、太刀川、鷹ノ目が慣れるまでお前が指示を出してやってくれ。」
「――だとよ。
お前は俺の指示通りに動け。」
太刀川はわざと直実がムカつくように言う。
「誰があんたなんかのいう事、聞くもんか!」
「鷹ノ目!
今度、チームの和を乱す言動をしたらグラウンド二十周だ!」
三浦の警告が飛ぶ。
「うう‥‥わかりました!」
「行くぞ!」
カキ――――ン!
三浦の打球はレフトオーバーとなった。
転がる軟球を追う直実と中堅手の和田。
二塁走者役の長田と打者走者役の新井が走る。
右翼手の藤本は二塁手の岡田のバックアップに走る。
投手の松浦は捕手の土肥のバックアップに走る。
「鷹ノ目、星野へ!」
太刀川が、直実から塁間距離まで詰めてきている遊撃手の星野に中継する指示を出す。
(私ならホームインを防げるってのに!)
直実は太刀川の指示を無視し、クイックモーションからの鉄腕ラリアットでバックホームしようとする。
が、捕手は羽野ではなく土肥。
一度ならず二度まで負傷させてしまった相手だから、どうしても手を緩めてしまう。
結果、矢のような送球が出来ず、長田のホームインを許した上で俊足の新井には三塁まで行かれてしまう。
「何度お前は同じミスをするんだ!?
キャッチャーが常に羽野だとは限らないんだぞ!
ちゃんと太刀川の指示に従え!
グラウンド二十周だ!」
直実は渋々三浦の指示に従った。
● ● ●
「あーあ‥‥中継プレイって難しいね。」
直実は練習から上がる際、羽野にボヤいた。
「うん、まあね。
ライトもガチでやると結構走るんだなって思うよ。」
「全然上手くいかなかったなぁ‥‥。
どうやったら全員の動きをつかめるんだろ?」
「鷹ノ目さんは、多くの人と闘う時のシミュレーションってした事ある?」
「うん、それならあるよ。
バトルロイヤルの選手が全員向かってきたらとか、イメトレはよくやってるし。
五十人ちょっとまでなら誰が次にどんな動きをするかまで読めるようになったよ。」
直実は得意げに語った。
「それはすごいね。
そのやり方を野球に当てはめればいいんじゃないかな。」
「でも、何年も掛かったよ?
今からじゃ、とても間に合わないよ。」
「じゃあさ、野球ゲームはどう?
外野や内野の動きとか中継プレイが何で必要なのかも何となくわかると思う。」
「弟が前に遊んでたファミコンなら、まだウチにあるかも。」
「『ファミスタ』持ってる?」
「わかんないけど、あったんじゃいかなぁ。」
「借りてやってみるといいよ。」
「そうだね。
このミニ合宿が終わったらやってみるよ。」
そんな話をしながら合宿所の部屋まで戻っていった。
● ● ●
「ナココ、昨日はちゃんと宿題した?」
教室に入るや否や明美が話し掛けてきた。
「まあ、なんとかね。」
「あんたはやれば出来る子なんだから。」
「やっても出来ない事だらけだよ、私なんて。」
「なんかあったの?」
「今朝の練習じゃあミスばっかだし、昨日の晩ごはんは散々だったし。」
直実は席に就くなり突っ伏せると、ため息をひとつ。
「何事も積み重ねが大事だと思うけどな。
――で、どんなひどい晩ごはん作っちゃったのかなぁ?」
「真っ黒に塗り潰したページなんだから開かないでよ、もう。」
直実は明らかに楽しんでいる明美にむくれる。
「ふ~ん、それが現国と古文の宿題をやった恩人に向けて言うコトバですかい?
じゃあ、この取引はなかったって事で‥‥。」
明美は直実から預かっていた二冊のノートをピラピラさせる。
「あーっ、あーっ、わかった、わかりました、明美大明神様!
教えますから、是非とも宿題を私めにぃ。」
直実がすがりつくと明美はおもむろに目を閉じ、
「うむ、それでは教えてたもれ。」
麻呂言葉で命じた。
「あははは! 闇鍋って、ナココ、あははは!」
丸い笑い声が教室に広がると視線が二人に集中した。
「ちょっとアケ、笑い過ぎ。」
「これが笑わずにいられましょうか。
ああ、私、一週間分笑ったわ。」
明美は笑い過ぎて出た涙を人差し指で拭い去る。
「アケだって、料理、そんな得意じゃないくせに!」
「私は眠れる獅子なのです。
いつか素敵な彼氏が出来た時、才能が一気に目覚めるのです。」
明美は宝塚風の大袈裟なポーズで言ってのけた。
「へいへい、そりゃあ、よござんしたねぇ。」
直実は辟易した顔でつぶやいた。
「アケぇ、ナココぉ、そろそろ音楽室に移動した方がいいよぉ。」
史香が癒しヴォイスで話に熱中していた二人に語り掛けた。
勉強会の時にすっかり打ち解けた史香は、二人の事を愛称で呼ぶようになっていた。
「あ、今日、アルトのテストだっけ!
すっかり忘れててた!」
直実と明美は机の中に入れっぱなしのアルトリコーダーのケースを取り出すと、バタバタと音楽室へ向かって行った。
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