体育祭に勝利の女神は微笑むか【Aパート】
この作品は『エンターブレインえんため大賞(ファミ通文庫部門)』の最終選考まで残ったものを20余年の時を経てリライトしたものの続編となります。
「部活対抗リレーに私が!?」
六月十四日の柔軟後、三日後に控えた体育祭に向けて緊急ミーティングがグラウンドで行われた。
その席で直実が素っ頓狂な声を上げた。
「何か問題でもあるのか?」
ホワイトボードの前に立っていた松浦が尋ねた。
「ありって言うか、モハメッド・アリって言うか‥‥。
私、体育祭で結構走るんですよね。
体力が残ってなかったら足引っ張うちゃうかなぁ、なんて。」
「珍しく弱気じゃないか。
体力なら大丈夫だと思うぞ。
このところ、罰でグラウンド走らされているのはお前が一番だからな。」
「松浦さん、そういう事を真顔で言わないでください。」
直実がむくれたような表情を浮かべた。
「ははは、すまない。
だが、俺と岡田、星野、新井、そして鷹ノ目ならば優勝も狙えると思ったんだ。」
「私が誰よりも速いのは5メートルまでですって。
あんまり期待されても。」
「ンな事言ったら、俺もベース間までしか保証出来ないっスよ?」
星野も直実に便乗してくる。
「おいおい、二人とも。
宮中野球部の新・一二番コンビが何を言ってるんだ。」
岡田が二人を窘めた。
「そう言えば星野が一番に据わるまで、ここの一番は誰だったんだ?」
太刀川がふいに質問をかましてきた。
「ああ、俺だ。
俺が出て岡田が送り親分が返す。
これ以外の得点が全く見込めなかったからな、自然とそうなった。」
松浦が感慨深げに答えた。
「ははは、それじゃ八幡に負け続ける訳だ。」
容赦なく太刀川が笑う。
「そうだ、私の代わりにあんたが走りなよ。
ベースランニング、そこそこ速かったし。」
「そこそこで悪かったな。
ベースランニングにはコツがあんだよ、コツが。
リレーで走るんとは訳が違う。」
「まあまあ。
ここは公平にくじにしたらどうかな?」
「岡田~。
お前、自分が出たくねぇからって汚ねぇぞ!」
太刀川がキレかかる。
「くすっ、バレたか。」
岡田がペロッと舌を出した。
「とにかくだ!
リレーはこのメンツで行くぞ。
やるからには勝つ、これが俺の流儀だ。」
松浦の強権発動でホッと胸を撫で下ろす羽野と金森の鈍足コンビ。
「まあ、やるからには勝つってのは私も賛同しますけど。」
直実も覚悟を決めるしかなかった。
「ちなみに野球部はバトンの代わりにバットを持って走る。
受け取り易いようにグリップを向けて次のランナーに渡してくれ。」
「ええーっ、何でバットなんスか?
グラブの方が走り易いんじゃないスか?」
星野が松浦の説明に不満を漏らした。
「誰が決めたか知らないが、毎年恒例になってるんだ。
でも、野球部はまだマシな方だぞ。
男子体操部は跳び箱の一段目を担いで走るんだからな。」
「決めた人、頭おかしかったんじゃないですか?」
呆れたように希望が左手の人差し指を頭の近くで回した。
「えーと‥‥ちなみに陸上部は何を持って走るんですか?
ハンマー投げのハンマーとか?」
伊藤が至極真っ当な質問をした。
松浦は答えるのを躊躇しながら、
「――リレーのバトンだ。」
そう答えた。
静寂が流れる。
その直後、
「勝てっこないじゃないですか!?」
新入生部員全員がツッコミを入れた。
「だよね。
それには僕も同意見だよ。」
岡田が同調する。
「おっ、いい事、思いついたぜ。」
太刀川が声を上げた。
「で、どんな悪いコト思いついたワケ?」
直実は辛辣だ。
「おい、人の事を悪の権化みたいに言うな!」
「カンニングの前科者だって事、忘れてないかんね。」
「太刀川も鷹ノ目も、それ以上いがみ合うならグラウンド十周させるぞ。」
「まあまあ、松浦。
まずは太刀川のアイディアを聞こうじゃないか。」
岡田が松浦をなだめる。
「要はバットなら何でもいいんだろ?
家にまだガキの頃に使っていた素振り用の竹バットがある。
重さも五百グラムちょっとと軽めだ。
これなら対抗出来んじゃねぇか?」
「グレーゾーンだがハンディキャップを埋めるにはいい手かもしれない。
練習では金属バットを使い、本番ではその竹バットを使おう。」
「ま、あんたにしちゃマトモなアイディアじゃない。
バットの代わりにチョコバットにしようなんて言ったら即ジャーマンだったのに。」
「うっせーよ、プロレスバカ一代が。」
「何をー!?
あんたこそ野球バカ一代じゃない!
人生引く野球イコールゼロのクセに!」
「あンだと、コラ!
ノシ付けて返してやらぁ、そのセリフ!」
「二人ともバットを持ってグラウンド十周だ!」
松浦の雷が落ち、二人はバットを持って走らされた。
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