表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第十四章 剛と柔
4/264

剛と柔【Dパート】

 そして迎える五回表。


「えっ、バントですか?」


 景清(かげきよ)滝口(たきぐち)の指示に耳を疑った。


「残念ながらあの球に当てられるのはお前だけだ。

 八幡の監督からは、鷹ノ目は野球を始めてから日が浅いという話だ。

 バント処理が完璧に出来ない可能性がある。」


「でも、俺、セーフティバントなんてやった事‥‥。」


「ただのバントでいい。

 転がすだけでいいんだ、三塁寄りにピッチャーが取るくらいの位置にな。」


 セーフティバントは虚をついて一塁線に転がすのがセオリーだ。

 しかし、滝口はそれを大きく(くつがえ)す奇策を命じた。


「‥‥わかりました。」


 景清は監督の指示に従うしかなかった。


「それからお前ら、いつまで野球観戦しているつもりだ!?

 もっと声を出せ!」


 控えの選手は元より、ベンチに入れなかった部員に対して滝口の(げき)が飛ぶ。


「は、はいっ!」



 打席に入った景清が初球からバントの構えを取ると、羽野の警戒心は高まった。


(バスターか!?)


 バスターとはバントの体勢から投手が投球モーションに入ってからヒッティングに切り替える打法である。


(動揺を誘ってるだけか?)


 景清のスウィングスピードを目にしていた太刀川は前進守備を躊躇(ちゅうちょ)した。


(ランナーなしでバントって、こないだ教わったセーフティバントってヤツだよね。

 だけど、おあいにく様。

 ちゃーんと対処法、練習積んだもんね!)


 直実は鉄腕ラリアットを羽野の構えたミットをめがけて投げ込んだ。


 カン!


 ボールを殺し切れていなかった。

 軟球はボテボテと三塁手(サード)投手(ピッチャー)の間に不格好に転がって行く。

 セーフティバントどころか、バントとしても明らかな失敗であった。

 だが――


「鷹ノ目、どけっ!」


 三塁手(サード)の太刀川が猛ダッシュしてくる。


「やーだべぇーだっ、私が捕るんだから!」


 初のバント処理に燃える直実も常識外の瞬発力で猛ダッシュしてくる。

 その結果、二人は――


 ドガッ!!


 激突し転倒する。

 ボールはカバーに入っていた遊撃手(ショート)の星野が処理し、何とか二進は防いだ。


「いててて‥‥今のは俺に任せろってんだ、このド素人が!」


「はあっ!?

 あんたこそ、私に(ゆず)んなさいよ、このイノシシ野郎!」


「俺がイノシシだと!?

 なら、てめぇはブレーキとハンドルの壊れたダンプカーだな!」


「あっ、それ、スタン・ハンセンみたいでカッコいいかも!」


「‥‥誰だよ、それ?」


 直実の一台詞で喧嘩の腰を砕かれた太刀川の怒りのボルテージは一気に下がり切った。



「あのピッチャーの送球をファーストが捕れないと踏んでいたのだが‥‥まさか、こんな展開になろうとはな。」


 滝口は口端(くちは)を持ち上げて語った。


「‥‥‥‥。」


 静は(しのぎ)(けず)った投手戦がこのような形で終焉(しゅうえん)を迎えた事に失望した。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、誠にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 弱点もまた直実らしいですね。思わず吹いてしまいました。
[良い点] 素人っぽさが残る直実が面白いですね。
[良い点] 直実の未完成さにがっかりする静の気持ちがよく伝わった。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ