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鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第二十二章 それぞれの役割
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それぞれの役割【Dパート】

「これだけ()れりゃ上等だろ?」


 準決勝を翌日を控えた練習も終わりに差し掛かった頃、金森が時折降った小雨のせいで泥まみれになりつつも誇らしげに笑顔で言い放った。


「なに言ってんスか、()れて当たり前なんスよ、親分。

 十球に一回の割合でエラーされたら、まだまだダメダメっス。」


「おい、星野ーっ!

 お前、わざとショーバン投げてただろ!?」


 星野の生意気な物言いに金森がキレた。


「ショーバンだろうが暴投だろうが、どんな送球が来ても()るんがファーストの役目っスよ!」


「だからって、ぬかるみに投げてイレギュラーさせなくったっていいだろう!?」


「グラウンドのコンディションがいつもベストとは限らないっス!

 自分のエラーをグラウンドのせいにするなんて、ホント、ダメダメっスね!」


「テメエ、ちょっと来い。」


 金森のトーンが変わった。


「何なんスか?」


 金森の挑発に乗って一塁へと歩み寄る星野。

 星野の方も完全に目の色が変わっていた。


「まあまあ、二人とも、落ち着いて。」


 間に入って収めようとしたのは岡田だ。

 一方、三塁手(サード)を務めていた加藤は投手の伊藤とキャッチボールを始める始末。


「俺に何の不満があんだよ?」


「ファーストってのは手足が長くて捕球が上手いヤツが就くポジションっス!

 どこも守れないプレイヤーが就くポジションじゃないっス!」


「悪かったな、手足が短くて守備が下手クソで!

 このスラップヒッターが!」


「スラップヒッター‥‥!?

 今は守備の話をしてるんスよ!」


「お前ら、いい加減にしろ!

 明日は八幡との試合なんだぞ!」


 温和な岡田の堪忍袋の緒が遂に切れた。


「そんな大事な時にチームワークを乱してどうするんだ!

 それから、加藤と伊藤!

 何を我関せずって顔をしているんだ!?

 お前ら全員、手押し車でグラウンド三周だ!」


 副部長の強権発動だ。


「お、岡田、落ち着けって‥‥。

 手押し車なんてやったら、それこそ明日の試合に響くってもんだぜ?」


 金森が岡田をなだめる。


「そうっスよ。

 親分の言う通りっス!」


 星野も金森に同調する。


「お前ら、僕をナメてるだろ?

 何でもかんでも丸め込める訳じゃないんだよ!」


 温和な人間を怒らせると怖いというのは本当だ。

 普段、怒り慣れていないので、どこで怒りを納めるべきかがわからない。

 特に誰よりもフォア・ザ・チームを貫いてきた岡田にとって、チームワークは何よりも重いものだった。


「‥‥しょうがねぇ、とっとと行くか。」


「うぃっス。」


 金森と星野は岡田の説得を早々に諦め、手押し車を始めた。

 その後を加藤、伊藤ペアの手押し車が発進する。


「つい、柄にもないことをやっちゃったな。

 ――長田(おさだ)、僕たちも行こうか。」


 そう言うと岡田も手押し車のポーズを取った。



 その頃、羽野は松浦の変化球に何とか対応していた。

 捕り損ねた球は何球あっただろう。

 それでも後逸だけはしない『鋼の壁』の意地がそこにはあった。

 プロテクターを付けているとは言え、身体(からだ)で止めるのだから痛みが走らない訳がない。


(羽野、その痛みや経験は必ずお前の財産になる。)


 練習を見続けていた三浦は両腕を組みながら心の中でそう語り掛けた。


(俺は『愚者は経験に学び、賢者は知識に学ぶ』という言葉が嫌いだ。

 経験のない賢者に何の価値がある?

 あらゆる失敗をし、時に失敗を繰り返した人間にこそ、真の強さが与えられる。

 俺はそう信じている。)



 直実(なをみ)はと言うと、竹之内(たけのうち)からフライの捕球後の素早い送球を教わっていた。

 粗方(あらかた)動きは掴んだものの、やはり取って付けた感は否めない。

 どうしても今まで(つちか)った投球モーションを使わないと狙った所へ球が向かってくれない。


「うーん‥‥どうしたら竹之内さんみたく捕ってすぐ正確な遠投が出来るんですか?」


「俺だって簡単に出来たって訳じゃねぇよ。

 ――取り敢えず、今、変にいじるとせっかくマスターしたクイックモーションが壊れっから、送球は今のまんまで()かんべ。」


「それじゃ、この二日間の練習がムダに!」


「無駄にゃさせねぇよ。

 これからフライの捕り方を工夫すんべ。」


「工夫‥‥ですか?」


「逆シングルってわかるか?

 グラブをはめている手と反対方向の打球を、グラブを反対側‥‥お前の場合は右側だな。

 そっちに伸ばして片手で捕る事を逆シングルって言うんだ。

 ランナーがいる時はフライをなるべく逆シングルで捕れ。

 これでグラブから右手に渡る時間やテイクバックの時間を大幅に短縮できる。」


 竹之内は今まで教えてきた基礎を一気に跳躍する奇策を伝えた。


「まずはやってみんべ。

 ほれ、逆シングルで捕ってみろ。」


 そう言えと竹之内は軟球を天高く放り投げた。

 落下地点に入る直実。


 パシッ。


「‥‥結構難しいですね、これ。」


 身体(からだ)に染みついた真下で捕球する癖がどうしても抜けない。


「捕球地点を少しずらすだけでいいんだ。」


「頭じゃなんとなくわかってるんですけどね。」


 ● ● ●


 どれくらいの時間が経過した事だろう、完全とまではいかないレベルながら、直実は逆シングルキャッチがそれっぽく出来るまでになった。


「今の感じ、よかったぞ、鷹ノ目!」


「ありがとうございます、竹之内さん!」



 突貫工事と言える八幡中対策は日没後まで続けられた。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、誠にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 簡単に物事はうまくいかないということがよく書かれていると思います。
[良い点] 選手たちの特訓が行われますが、三浦の名言が心に響きます。 [一言] 険悪ムードを抑える為にあえて憎まれ役を買って出る岡田くんもいいですね。
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