それぞれの役割【Cパート】
バシッ!
「たった一晩で人が変わったようだな、羽野。」
加藤がマスク越しに羽野に語り掛けた。
「‥‥‥‥あ、今、何か言いましたか?」
「いいや、別に。」
羽野の問いに加藤はとぼけた。
(すごい集中力だ。
昨日は一球も取れなかった男が、一晩で半分近く捕れるようになるなんて。)
加藤は羽野の集中力と急成長に驚愕した。
だが、
(成長してんのはお前もだろ、松浦。)
加藤はここで初めて別のサインを出した。
頷く松浦。
フォン!
「えっ、今のって‥‥。」
空振りした羽野が目を丸くした。
捕れたと思った瞬間、ボールが沈んだからだ。
「お前、シンカーはオーバースローの方が投げやすいって知ってたか?
これが松浦がここんとこ取り組んでた『見せ球』ってヤツだ。
カーブをより決め球にする為のな。」
加藤が羽野に説明した。
「すごい!
これ、八幡戦の切り札になりますよ!」
羽野が興奮しながら言った。
一方、その頃、直実は、左腕の伊藤を相手に打撃練習を行っていた。
カキ――ン!
「あれ、そのフォーム、割りかしマトモじゃないスか!
あのデタラメな裏拳打法とは雲泥の違いっスね。
誰っから習ったんスか?」
打撃練習を終えたばかりの星野が尋ねた。
「ヒ・ミ・ツ・だよー。」
直実が茶目っ気たっぷりに答えた。
「ところでさ、金属バットと木のバットの違いって何?」
「どうしたんスか、急に?」
「ちょっと気になってね。」
「簡単に言うと、真芯の広さっスよ。
真芯ってのは当たると最もよく飛ばせる点の事っスけど、金属は広くて木製は狭いんス。」
星野は人差し指を立てて自慢げに答えた。
「じゃあ、金属バットの方がお得じゃん。
なんであんたも太刀川も、あと伊藤くんも木のバットを使ってる訳?」
「金属を使って真芯で捉える技術を忘れるのが怖いってのが本音っスね。
これでも一応、プロ目指してるんで。」
「プロ野球の選手って金属バット、使えないの!?」
「ええ~っ、そこからっスか!?
テレビでプロ野球観てくださいよ、もう。」
呆れたような物言いで星野がダメ出しをした。
「集合!」
グラウンドに三浦の声が響き渡ると、それに呼応する部員たち。
「少し早いが八幡戦のメンバーを発表する。
これにより、新たな練習メニューを追加する者もいるので最後まで聞くように。」
一番ショート:星野勝広(一年)右投両打
二番レフト:鷹ノ目直実(二年)右投左打
三番ピッチャー:松浦健太(三年)右投右打
四番キャッチャー:羽野敦盛(二年)右投右打
五番ファースト:金森徹(三年)左投左打
六番センター:和田純平(二年)右投右打
七番セカンド:岡田獅子丸(三年)右投右打
八番ライト:竹之内省吾(三年)右投左打
九番サード:加藤浩之(三年)右投右打
控えとして選ばれた者は、
藤本真(三年)外野手/右投右打
伊藤和也(一年)投手/左投左打
長田弘(三年)内野手/右投右打
多々良信也(二年)外野手/左投右打
新井隼(二年)内・外野手/右投右打
土肥大輔(三年)捕手/右投右打
「えっ、土肥さん!?」
驚嘆の声を上げたのは直実だった。
「土肥は試合勘が戻るまでは当面控えだが、八幡戦から合流する予定だ。」
三浦が状況を説明した。
「続いて特別練習メニューを発表する。
まず、鷹ノ目はレフトからの遠投だ。
捕ってから素早く投げる方法を竹之内から教えてもらえ。
それから、二度と素手で捕球するな。
――わかったな?」
「はいっ!」
「次に金森と長田。
お前らはファーストでのポロリが多過ぎる。
サード、ショート、セカンド、ピッチャーからの送球をひたすら受けろ。」
「うひゃあ、お手柔らかに~。」
金森のとぼけた受け答えに部員たちは笑いの渦に包まれた。
「続いて和田。
石田がつけた八幡の地区大会全試合のスコアブックから戦力を分析しろ。」
石田貴久は控えから漏れた一年の外野手で、スコアブックが付けられる事から八幡中の偵察に行っていた。
直実が球場を間違えた時、もし八幡中がシードではなく朝から試合があったなら出会えていた可能性もあるが、それは『たられば』の話だ。
「了解です。」
和田が三浦からスコアブックを受け取った。
「最後は羽野。
松浦の実践投球をノーサインで受けろ。」
「ノーサインで、ですか!?」
「昨日からの手打ち練習はバッティングに限った特訓ではない。
キャッチャーの特訓も兼ねていたんだ。」
「わ、わかりました。」
緊張気味に羽野が答えた。
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