それぞれの役割【Aパート】
この作品は『エンターブレインえんため大賞(ファミ通文庫部門)』の最終選考まで残ったものを20余年の時を経てリライトしたものの続編となります。
「ストライーク! バッターアウッ!
ゲームセット!」
六月六日、松浦-加藤-直実の完封リレーで宮町中は準々決勝を勝ち進んだ。
これで準決勝に進出する四チームが出揃い、対戦カードが決まった。
準決勝第一試合
八幡中学(深谷市)-宮町中学(熊谷市)
準決勝第二試合
彩央大附属中等部(吹上町)-小前田学園中等部(花園町)
「よっし、あと一つ勝てば焼肉だーっ!」
帰りのバスの中で直実が歓喜の声を上げる。
「それと県大会進出だね。」
羽野がすかさずフォローを入れる。
「しかし、相手が八幡とは厄介ですね。」
和田がこぼした。
「リベンジの機会としちゃあ最高だろ?
八幡を倒して焼肉食おーうって!」
金森が和田の肩をポンと叩いて豪快に諭す。
「しっかし、今日のダブルヘッダー、四番が大ブレーキだったっスね。」
星野が羽野を責めた。
「‥‥みんな、ゴメン。
全打席空振り三振じゃ本当に申し訳ないとしか言えないよ。」
羽野は頭を垂れた。
「あーあ、太刀川さんがいてくれたら、もっと楽勝だったんスけどねぇ。」
星野は調子づいて言葉を続けたが、次の瞬間、直実にV1アームロックを極められる。
「カンニングしたヤツなんかと比べるなっての!」
「いてててて‥‥ギブギブ!」
「こらそこ! バスの中で何をやってる!?
帰ったらグラウンド十周だ!」
二人に三浦の雷が落ちた。
● ● ●
宮町中に着いてグラウンドを走らされる直実と星野。
この二人の他に、羽野、松浦、加藤が三浦に居残りを命じられた。
「羽野、お前はプロテクターを着けてミットをはめて打席に立て。」
「えっ? あ、はい。」
羽野は三浦の指示に従った。
「松浦は加藤のリードに合わせて球を投げろ。
羽野はバットを思い切り振り切る感じで投げられた球を補れ。
加藤は羽野に球を捕らせないようにリードしてみろ。」
「はい!」
三人は声を揃えて返事をした。
フォン!
バスッ!
初球、羽野のミットを下を松浦のカーブが通過する。
「羽野、球をしっかり見ろ。」
三浦は指示を与える。
「はい!」
(バットほどのリーチはないから、加藤さんは当然外角に球を要求してくるはず。)
羽野は外角低めにヤマを張った。
だが、来たのは内角低めのストレート。
ビシッ!
羽野の左腕に軟球が当たった。
「何をやっている!?
ヤマを張るのとヤマ勘で動くのとでは意味が違うぞ!」
「はい!」
羽野は考える。
バットで打つ事とミットで捕る事の違いを。
(そもそもキャッチャーは何で変化球を捕れるんだろう?
ミットの大きさとバットの太さとはあんまり関係ないよなぁ‥‥。)
加藤のリードが冴えわたる。
松浦の制球力も球威も以前の八幡中戦の時より格段に増している。
しかし、羽野だけは何の成果も得られない。
そして、ミットにかする事も出来ないまま三十球が過ぎた。
「よし、みんな、今日はもう上がれ。」
「はい!」
「羽野、八幡との試合は次の日曜だ。あと三日しかない。
それまでに今やった練習の成果を出せ。
いいな?」
「‥‥はい。」
羽野は四番の重責に押し潰されそうになった。
感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、誠にありがとうございます。