表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第七十二章 夢の入り口
253/264

夢の入り口【Dパート】

「松浦、悔いはねぇか?」


 太刀川(たちかわ)がハラミを焼きながら松浦に(たず)ねた。


「ああ、準決勝を投げ切って完全燃焼したつもりだ。

 悔いはないよ。

 ‥‥ただ、まだ野球に対しての未練は正直言ってある。

 でも、こればかりは運命だからな、追々受け入れていくさ。」


 松浦はそう答えるとアップルポークをひっくり返す。


「太刀川は悔いがありそうだな。」


 今度は土肥(どい)(たず)ねた。


「ああ、決勝戦で白鳳(はくほう)のマジカルサブマリンに完璧に抑えられたからな。

 おまけに大会MVPがホームラン一本差で景清(かげきよ)だと?

 『ざけんな、中体連』ってヤツだよ。」


 太刀川はそう言い終わるや否や、親の(かたき)のようにハラミを食べ始めた。


「高校野球でやり返しゃあいいじゃねぇか。」


 金森が火が通ったタンを箸で摘まみながらアドバイスする。


()えー学校からスカウトが()りゃあいいんだけどな。

 俺、勉強出来ねぇからよ。」


「ああ、知ってる。」


 金森と松浦がユニゾンした。


「自分で言うのは大丈夫だけど、人に言われると腹立つな、ったく!」


 そう言うと太刀川は金網で焼けた肉を片っ端から奪い取っていった。


「あっ、俺の育てたアップルポークを!」


「この野郎、俺のタンを返せ!」


「やなこったい。」


 そう言うと太刀川は肉を頬張った。

 その直後だった。


「食べている者はそのまま聞いてくれ。

 この場で連絡事項がある。」


 立ち上がった三浦が声を張る。


「松浦健太、太刀川(たちかわ)教経(のりつね)、星野勝広、鷹ノ目(たかのめ)直実(なをみ)、この四名にジュニア選抜強化選手のオファーが正式に来ている。

 これに優勝監督推薦枠として羽野(はの)を入れるつもりだ。

 名前を呼ばれた五人、起立!」


 立ち上がった五人に盛大な拍手が送られた。


「更に松浦、お前にニジサキスポーツから就職の話が来ている。

 そこに就職となれば、来春からスタートする東日本ベースボールアカデミーの職員として十五時まで働き、以降は野球の練習に参加という形になるらしい。

 言葉で言うほど甘いものではないだろうが、どんな夢の入り口も荒海のようなものだ。

 ――今すぐに答える必要はない、じっくり考えて結論を出せ。」


「は、はいっ!」


「では、代表して松浦、コメントを頼む。」


 三浦はそう言うと静かに着席した。

 しかし、松浦は不意打ちに近い出来事に頭が真っ白になり言葉が出てこなかった。


「(ほら、なんか言えよ。)」


 太刀川が左肘で軽く松浦を小突く。


「‥‥まだ‥‥まだ野球が出来るんだ‥‥。」


 松浦の両目からとめどなく涙がこぼれ落ちた。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 絶望の中から救われる可能性を持つ光が見えた松浦くんの涙に胸がキュンとなりました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ