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鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第七十章 決着
241/264

決着【Cパート】

「やったっスよ!

 これもまたホームランっス!」


 ベンチで、もみくしゃにされながら喜ぶ星野。


「高さはイマイチだったけど、いいトペ・スイシーダだったじゃん!」


 直実(なをみ)がヘルメットを脱がした星野にサイドヘッドロックを掛けながら言った。


「あいででで‥‥ギブアップっス!」


 技を解いた直実はニマッと笑い、


「なになに?

 太刀川だけじゃなくて、もしかして私にも憧れとか持っちゃってたりするワケ?」


 年下をからかった。


「ンなワケねーっス!

 だって、あんな走路妨害みたいなブロックをされたんじゃホームイン出来ないじゃないスか。

 かといってスライディングで回り込んだら、相手の読み通りになるに決まってるっス。

 ――で、咄嗟(とっさ)に思い浮かんだだけっスよ、体育祭のあんたのアレが。」


 星野は顔を紅潮させて否定した。



(もう点はやらねぇ!)


 静が守り通した一点をわずか三球で同点にされた堀はいきり立った。

 そして迎える打者(バッター)はこの試合(ツー)安打(ヒット)の岡田。


 初球、肩に力が入り過ぎたのか、ストレートが高めに浮いて(ワン)ボール。

 立ち上がり両肩を上下させてリラックスを(うなが)有綱(ありつな)


 二球目、百四十キロのストレートで1―1(ワンエンドワン)に持ち込むが、三球目のカーブがワンバウンドとなり1―2(ワンエンドツー)

 そして四球目、決め球のチェンジアップでストライクを取りに来たところを、


 カキ――ン!


 狙いすましたかのように岡田がレフト前に打ち返した。


「今日は当たり日だな。」


 岡田が一塁(ファースト)ベース上でつぶやくと、


「いいぞーっ、獅子丸(ししまる)!」


 応援席から岡田の両親がユニゾンで声を張り上げた。


(その応援はちょっと勘弁‥‥。)


 下の名前にコンプレックスを持っていた岡田は赤面した。



 無死(ノーアウト)一塁で打者(バッター)は三番の新井。

 三浦からのサインもあり、ここは手堅く送りバントで一死(ワンアウト)二塁。


「ナイスバント。」


 三浦に褒められた新井は思わずヘルメットの上から頭を掻いた。


 そして右打席には主砲、太刀川(たちかわ)が入る。


(ここはファーストが()いている。

 無理しないで歩かせよう。)


 有綱は敬遠のサインを出した。

 しかし首を素早く横に振る堀。

 すかさずタイムを要求する有綱は、マウンドに小走りで向かう。


「俺じゃアイツを抑えられねぇって言うのか?」


 堀はグローブで口元を隠し有綱に(たず)ねた。


「そうは言っていない。

 だけど打たれないっていう保証はどこにもない。」


「吉野ン時のようにリードしてくれりゃ必ず抑えてみせる。」


「お前が背番号(いち)を背負ってたんならな。」


「‥‥‥‥。」


「ここは手堅くいこう。

 宮町中(あちら)の五番以降はへっぽこ揃いだ。

 アウトはそこで取ればいい。」


「‥‥わかった。」


 しぶしぶ堀は(うなず)いた。

 そして持ち場に戻った有綱は立ち上がったまま投球を受けた。



「ボール、フォア!」


「ちっ。」


 太刀川は軽く舌打ちをすると、一塁に向かってゆっくりと走り出した。


 続く打者(バッター)長田(おさだ)だが、ここで三浦が立ち上がる。

 そして主審に代打を告げる。


「代打、土肥(どい)。」


 ベンチに残った最後の選手を三浦は使った。

 さすがの土肥も身震いが走った。

 この大会、打者(バッター)としてこれといった成績を残していない自分に与えられた、またとないチャンス。緊張しない訳がない。


(俺で‥‥いいのか?)


 自問自答する土肥。


「お前が決めるんだ、土肥!」


 応援席からの声に振り向くと、そこには病院から退院してきた宮町(みやまち)中の制服姿の松浦が立っていた。


「松浦‥‥!」


 そして土肥に対し、右の拳を突き出す松浦。


(ああ、わかったよ。

 ――一年の頃から、いっつもお前は無茶ばかり言ってくれる。)


 土肥は心の中でぼやきながら打席へ向かった。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

1990年という時代なので、ストライクとボールのコールの順番は現代(2023年)とは違っています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 土肥のような脇役が決める展開というのは個人的に大好きです!
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