運の絡む要素【Bパート】
「おいおい、かなり俺たちを苦しめたチームだぞ、春日部輝松は!」
金森が驚嘆の声を上げた。
最終イニング、二死の時点で8対0のワンサイドゲーム。
「散発三安打、一フォアボール。
しかも、いずれのヒットもどん詰まりのラッキーなヒット‥‥ですか。」
スコアブックを付けていた和田の声も震えていた。
「ストライーク! バッターアウト!
ゲームセット!」
四番の中村重隆に代わって打席に入った竹本義幹が空振り三振に倒れ、ラストバッターとなった。
「以前、俺たちと戦った時よりも‥‥いや、この大会のどの試合よりも強い白鳳だった。」
松浦が目を大きく見開いてつぶやいた。
「おそらく、今日の試合の野手が白鳳のベストオーダーだ。
決勝はこれに吉野を加えてくるだろう。
――だが、その前にお前たちにはやらなければならない事がある。」
三浦がすっくと立ちあがり、部員たちに声を掛けた。
「準決勝をしっかり勝つ事ですね。」
マウンドを託されていた松浦も立ち上がり、三浦の言葉の続きを口にした。
「そうだ。
相手は初戦で上ノ峯学園を、準々決勝では屋島檜扇学園を破ってきた強者だ。
心して掛かれ。いいな。」
「はいっ!」
今まで座っていた全員が立ち上がり、気合の込もった声を上げた。
● ● ●
準決勝第二試合は十三時からとなっていた。
その為、部員たちは各自食事を取る為、一旦、解散となった。
「ここのお店にしようよ、みんな!」
直実が希望、明美、奈留、史香、裕子、徳子に地味な大衆食堂を提案した。
「ちょっと地味じゃない、ナココ。」
明美が抵抗感を示した。
「そう?
でも、こういう昔ながらって感じの店が案外美味しかったりするんだよね。」
直実は三峰の店を思い浮かべながら意見した。
「ああ、なんとなくわかるよ、それ。」
徳子が直実に同調した。
「まあ、広島まで来てファミレスってのもないしね。
いいんじゃない。」
奈留も賛成した。
「私、こういうお店、初めてだよぉ。」
史香も興味津々だ。
「まっ、みんながそう言うんなら私もいいんだけどね。
――ユッコも希望ちゃんもOK?」
遂に明美が折れた。
「うん、OKだよ。」
「私もOKです。」
裕子も希望も了承し、七人は球場近くの大衆食堂に入って行った。
● ● ●
「私、カツ丼大盛り!」
直実はゲン担ぎとして鉄板のメニューを頼んだ。
「じゃあ、私も直実先輩と同じくカツ丼で!
ああ、私は並盛りでお願いします。」
希望もゲンを担いだが、他の五人は思い思いの注文をする。
● ● ●
「トッコは牡蠣フライ定食かぁ。」
直実が少し羨ましそうに徳子の目の前の定食を見つめる。
「やっぱ広島まで来たんだからな、本場モンを食べねぇと。
――ひとつ交換するか?」
「ううん、欲しがらないよ、勝つまでは!」
直実はそう言うとカツ丼を口に掻き込み始めた。
と、そこへ話し掛けてくる男子生徒の声が鼓膜を直撃した。
「宮町中の選手は試合前に満腹にするのか。
大した事はねぇな。」
振り向くと、そこには対戦相手である上沢木中のユニフォームを着た長身の選手が立っていた。
「誰よ、あんた?」
「小栗義仲。
てめぇらと対戦するピッチャーだ。」
感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。




