表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第六十一章 運の絡む要素
201/264

運の絡む要素【Aパート】

この作品は『エンターブレインえんため大賞(ファミ通文庫部門)』の最終選考まで残ったものを20余年の時を経てリライトしたものの続編となります。

「プレイボール!」


 準決勝、第一試合が開始された。

 先攻は関東大会を二位で通過した春日部(かすかべ)輝松(きしょう)、後攻は東北大会を一位で通過した白鳳(はくほう)学院。


 白鳳の先発は三年の(ほり)(ひかる)

 吉野(よしの)(しずか)に続く二番手投手だ。


「吉野さん、投げないんですかね、今日。」


 右翼(ライト)スタンドで観戦していた直実(なをみ)が、隣りの松浦に(たず)ねた。


「おそらく決勝に向けて温存しているんだろうな。」


 松浦が腕を組み直して答えた。


「白鳳には今投げている堀さんの他にも、二年の鷲尾(わしお)、一年の鎌田(かまた)といういいピッチャーがいます。

 層の厚さがやはり違いますね。」


 スコアブックを片手に持った和田が補足した。


「だけど不気味なんだよなぁ、あの春日部(かすかべ)のチーム。

 嫌な事が立て続けに起こんだからよ。

 相手を不幸にする(なん)かが()いてるとしか思えねぇ。」


 金森が(あご)を左手の親指と人差し指でぽりぽりと()きながらつぶやいた。


「ちなみに一番打者の鈴木(すずき)隆義(たかよし)は『黒闇天(こくあんてん)に愛された男』という異名だそうですよ。」


「和田くん、『こくあんてん』って?」


 直実が小首を傾げて(たず)ねた。


「不運を司る女神ですね。」


「不運の女神に愛されたなら、そいつが不運になるんじゃない?」


「誰かさんのジャーマンくらって病院送りになったんだから、充分不運だろ。

 ――まあもっとも、その誰かさんには記憶はねぇか。」


 太刀川が直実にツッコミを入れた。


「うぐぅ‥‥。」


 ぐぅの()をなんとか絞り出した直実。

 と、その直後、


 スカ―――ン!


 木製バットの乾いた音が球場を(つんざ)いた。

 センター前へと駆け抜ける痛烈な打球。

 が、しかし、


「抜かせねぇよっ!」


 遊撃手(ショート)小野寺(おのでら)忠信(ただのぶ)が何の変哲もないゴロだったかのように(さば)き、間髪入れずに一塁手(ファースト)へ矢のような送球。


「アウト!」


「やるっスね。」


 星野の口から思わず感嘆の声が漏れた。


(反応速度が俺とは比べ物にならないくらい速いっスね‥‥。

 俺なら飛び付かなけりゃキャッチ出来ない打球だったっス。)


 同じ遊撃手(ショート)として、星野は言いようのない敗北感に襲われた。


「この一戦、運に振り回されるほど甘い試合にはならない。

 ただ単に強い方が勝つ、それだけの話だ。

 最後までよく観ておけ。」


「はいっ!」


 三浦の指示に、宮町中野球部員たちは元気よく返事をした。



 続く二番の高橋はセカンドゴロ、三番の三善(みよし)は見逃しの三振と、先発の堀は上々の立ち上がりを見せた。


「白鳳って攻撃のチームというイメージがあったけど、守備もかなりいいな。

 二番バッターのゴロも決して容易(たやす)く捕れるコースじゃなかった。」


 岡田がため息混じりに語った。

 難しい打球をイージープレイに見せるのは超一流プレイヤーの()せる技だ。


「‥‥俺の守備なんか、まだまだなんだなって実感させられるよ。」


「岡田、カッコよく(さば)こうが、泥臭く(さば)こうが、(ワン)アウトは(ワン)アウトだ、それ以上の価値はねぇ。

 俺はお前の守備、結構好きだぜ。」


 隣りに座っていた金森がニカッと笑ってそう言うと、強烈な張り手を背中にかました。


「痛いよ、親分。」


「がはは、悪い悪い。」


 金森は豪快に笑った。


「岡田、それに星野。

 小野寺兄弟(ツインズ)は中学ナンバー(ワン)の二遊間だ、今後の参考になるだろう。

 ――だが、今の自分のプレイスタイルを見失うな。

 宮町中(うち)の背骨は関東一だという事に自信を持て。」


 三浦のアドバイスに、はっとする岡田と星野。


「は、はいっ!」


 二人の顔に生気が戻った。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ