運の絡む要素【Aパート】
この作品は『エンターブレインえんため大賞(ファミ通文庫部門)』の最終選考まで残ったものを20余年の時を経てリライトしたものの続編となります。
「プレイボール!」
準決勝、第一試合が開始された。
先攻は関東大会を二位で通過した春日部輝松、後攻は東北大会を一位で通過した白鳳学院。
白鳳の先発は三年の堀光。
吉野静に続く二番手投手だ。
「吉野さん、投げないんですかね、今日。」
右翼スタンドで観戦していた直実が、隣りの松浦に尋ねた。
「おそらく決勝に向けて温存しているんだろうな。」
松浦が腕を組み直して答えた。
「白鳳には今投げている堀さんの他にも、二年の鷲尾、一年の鎌田といういいピッチャーがいます。
層の厚さがやはり違いますね。」
スコアブックを片手に持った和田が補足した。
「だけど不気味なんだよなぁ、あの春日部のチーム。
嫌な事が立て続けに起こんだからよ。
相手を不幸にする何かが憑いてるとしか思えねぇ。」
金森が顎を左手の親指と人差し指でぽりぽりと掻きながらつぶやいた。
「ちなみに一番打者の鈴木隆義は『黒闇天に愛された男』という異名だそうですよ。」
「和田くん、『こくあんてん』って?」
直実が小首を傾げて尋ねた。
「不運を司る女神ですね。」
「不運の女神に愛されたなら、そいつが不運になるんじゃない?」
「誰かさんのジャーマンくらって病院送りになったんだから、充分不運だろ。
――まあもっとも、その誰かさんには記憶はねぇか。」
太刀川が直実にツッコミを入れた。
「うぐぅ‥‥。」
ぐぅの音をなんとか絞り出した直実。
と、その直後、
スカ―――ン!
木製バットの乾いた音が球場を劈いた。
センター前へと駆け抜ける痛烈な打球。
が、しかし、
「抜かせねぇよっ!」
遊撃手の小野寺忠信が何の変哲もないゴロだったかのように捌き、間髪入れずに一塁手へ矢のような送球。
「アウト!」
「やるっスね。」
星野の口から思わず感嘆の声が漏れた。
(反応速度が俺とは比べ物にならないくらい速いっスね‥‥。
俺なら飛び付かなけりゃキャッチ出来ない打球だったっス。)
同じ遊撃手として、星野は言いようのない敗北感に襲われた。
「この一戦、運に振り回されるほど甘い試合にはならない。
ただ単に強い方が勝つ、それだけの話だ。
最後までよく観ておけ。」
「はいっ!」
三浦の指示に、宮町中野球部員たちは元気よく返事をした。
続く二番の高橋はセカンドゴロ、三番の三善は見逃しの三振と、先発の堀は上々の立ち上がりを見せた。
「白鳳って攻撃のチームというイメージがあったけど、守備もかなりいいな。
二番バッターのゴロも決して容易く捕れるコースじゃなかった。」
岡田がため息混じりに語った。
難しい打球をイージープレイに見せるのは超一流プレイヤーの為せる技だ。
「‥‥俺の守備なんか、まだまだなんだなって実感させられるよ。」
「岡田、カッコよく捌こうが、泥臭く捌こうが、1アウトは1アウトだ、それ以上の価値はねぇ。
俺はお前の守備、結構好きだぜ。」
隣りに座っていた金森がニカッと笑ってそう言うと、強烈な張り手を背中にかました。
「痛いよ、親分。」
「がはは、悪い悪い。」
金森は豪快に笑った。
「岡田、それに星野。
小野寺兄弟は中学ナンバー1の二遊間だ、今後の参考になるだろう。
――だが、今の自分のプレイスタイルを見失うな。
宮町中の背骨は関東一だという事に自信を持て。」
三浦のアドバイスに、はっとする岡田と星野。
「は、はいっ!」
二人の顔に生気が戻った。
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