選択肢【Cパート】
「そんな事があったのか。」
翌日の昼休み、三浦は松浦から昨日あった事を全て聞いた。
「家族は俺の意見を尊重すると言ってくれたのですが、自分の心が揺らいでいて‥‥。」
「仮にお前がその話に乗ったとしても、部員はお前を裏切り者とは思わないだろう。
そういう連中だ。」
「わかってます‥‥。」
「松浦、何を選んでも正解かどうかなんて最後までわからない。
だから、自分の選んだ答えを正解にする努力を怠るな。
答えはいつもお前の中にある。」
「はい! ありがとうございました!」
● ● ●
「松浦さん、遅いね、今日は。」
グラウンドで柔軟運動のクランチャーをしながら直実が隣りの羽野に話し掛けた。
「そうだね、何かあったのかな?
親分、たしか同じクラスでしたよね。
知ってますか?」
今度は羽野が金森に質問のバトンを渡す。
「それがよ、松浦のヤツ、珍しく午後の授業中、ずっと爆睡しやがっててさぁ。
罰として中央廊下の拭き掃除を一人でさせられてんだよ。」
金森は貫禄のあるお腹を震わせながら答えた。
「でもよ、何か吹っ切れたような安らかな寝顔だったぜ。」
「起こしてあげて下さいよ。」
羽野がすかさずツッコミを入れた。
「ああ、俺、他人が寝てるのを起こさない主義だから。
俺も起こされたくないしな。」
「‥‥‥‥‥‥。」
金森の一本筋の通ったポリシーに、直実も羽野も何も言えなくなった。
● ● ●
「断るって‥‥正気ですか!?」
松浦からの電話に華原は椅子から転げ落ちそうになった。
「自分を買って頂いた事は素直に嬉しいです。
しかし、申し訳ありませんが、今回のお話はなかった事とさせて下さい。」
学校備え付けのピンクの電話に頭を下げる松浦。
「何が不満だったのですか?
後学の為に聞かせては頂けないですかねぇ。」
怒りを押し殺したトーンで華原が問う。
「不満はありません。
これはあくまで自分のわがままです。
今、成し遂げたい事を貫きたい、ただそれだけの事です。」
「考え直すなら、今のうちです。
今の答えは聞かなかった事にしてもいいですよ?」
「いえ、自分の考えは変わりません。」
「ふふっ、ふはははは!
いいでしょう。
せいぜい借金で苦しみ抜きなさい。
そして、後悔するといいでしょう!」
そう告げると、華原は電話を一方的に切った。
「ふう~っ‥‥。」
受話器を元の位置に置くや否や、松浦にどっと疲れが押し寄せた。
(これでいいんだ。
たとえどんな結果が待っていたとしても、俺が選んだ道に悔いはない。
あとは『正解』に持っていく為の努力をするだけだ。)
天を仰ぐと、そこには抜けるような青空が広がっていた。
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