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鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第十四章 剛と柔
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剛と柔【Bパート】

「プレイボール!」


 主審の声が響き渡る。

 この試合の主審、塁審は共に白鳳(はくほう)のお抱えの審判団が務めていた。


「んじゃ、いっくよーっ!」


 直実(なをみ)の豪快なフォームから『鉄腕ラリアット』と命名されたサイドスローが唸る。


 フォン!

 バス――――ン!!


 腕の唸りとほぼ同時にミットの爆音がダイヤモンドを(つんざ)いた。


「――ス、ストライーク!」


 主審とて人間だ。

 未体験の球速を()の当たりにすれば判定が一拍遅れてしまうのもやむを得ない。


「マジかよ‥‥。」


 投球練習の時よりも数段増したスピードに、白鳳の一番打者を務める金売(かねうり)の口から思わず言葉がこぼれた。

 その金売の言葉は白鳳ベンチ全員の代弁そのものでもあった。

 幾多の強豪校と激闘してきた猛者(もさ)たちも、直実の剛球には驚愕(きょうがく)を隠せなかった。



「ストライク、バッターアウト! チェンジ!」


 一番の金売、二番の足立(あだち)、三番の忠信(ただのぶ)と三者連続三球三振に切って落とした直実は意気揚々と自軍のベンチへ戻っていく。


「いい調子だよ、鷹ノ目(たかのめ)さん。」


 声を掛けたのは女房役の羽野(はの)だった。

 大柄な体格とは似つかず細やかな気遣いが出来る『鋼の壁』は、小柄で無鉄砲な直実とは全ての面に於いて真逆だったが、お互い、足りない部分を補い合える掛け替えのないパートナーだった。


「うん! 相手が強いほど燃えるってもんだよね!」


 屈託(くったく)のない笑顔を見せる直実。


(名は(たい)を表すって言うけど、実に真っ直ぐな性格なんだよなぁ。)


 羽野は強気の投手にありがちな慢心が彼女に微塵(みじん)もない事を悟り胸を撫で下ろす。



 一方、白鳳の先発の静も、宮町中の先頭打者(バッター)星野(ほしの)勝広(かつひろ)を三球三振に仕留める。

 すごすごとベンチへ戻ってくる小柄な先頭打者(バッター)に、直実は容赦なくサイドヘッドロックをガキッとかました。


「あっれぇ~、突破口(とっぱこう)、開くんじゃなかったっけ?」


「あいてて! 何するんスか!?

 あのピッチャー、とんでもねぇヤツっスよ!」


「とんでもないヤツ?」


 星野の台詞(せりふ)に、直実はヘッドロックを外す。


「全く同じモーションからカーブとシュートを投げてきたんスよ。

 しかも、三球目のカーブは初球のとは曲がり具合を変えて(まった)く別モノに見えたっス。

 ――ありゃあ七色の変化球どころか無限大数色の変化球っス。」


 星野が大袈裟(おおげさ)に情報を伝え終えた時には、続く二番で副部長の岡田(おかだ)獅子丸(ししまる)も三球三振に切って取られていた。


「僕には全球シンカーだったよ。

 見逃そうとした時にはストライクに入り、強振しようとした時にはワンバウンドしてくる。

 ‥‥まるで心を読み透かされているかのように感じたよ。」


 岡田が頬をポリポリと掻きながらベンチに感想を伝えた。


「もしかして、超能力者とか!?」


「いやいや、ないない。」


 直実の言葉にベンチの全選手がツッコミを入れた。


「ストライク! バッターアウト! チェンジ!」


 この試合、三番に入っていた和田(わだ)純平(じゅんぺい)もまた三球三振に倒れた。



「吉野、あのピッチャーにつられるな。」


 白鳳のベンチに戻ってきた静に滝口が釘を刺した。


「私流にお返ししたまでです。」


 ポーカーフェイスで何を考えているかわからない静だが、負けん気はチーム随一だった。


「鷹ノ目、と言ったか。たしかにアイツは球が速い。

 だが、速いだけだ。気にするな。」


「その理屈で言えば、私は曲げられるだけのピッチャーです。」


 静の返答に滝口はため息をひとつ。


「この意地っ張りめ。」


「‥‥すみません。」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 意地っ張りな静、最高です!
[良い点] 直実も静も持ち味を活かしたピッチングで燃えます!
[良い点] どこまでも陽気な直実とクールな静、対照的な二人がそれぞれ魅力的に書かれていますね。
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