表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第五十九章 大人の野球とガキの野球
191/264

大人の野球とガキの野球【Bパート】

「うおおおおおっ!」


「ストライーク! バッターアウト!

 チェンジ!」


 一方の直実(なをみ)も鉄腕ラリアットで三者連続で見逃しの三球三振に斬って落とした。


「おっしゃあーっ!

 私はマウンドに帰ってきたんだ!」


 よほど謹慎でストレスが溜まっていたのだろう、直実はマウンドで咆哮(ほうこう)した。


「てめぇ、うるせーんだよ。」


 太刀川(たちかわ)が直実に茶々を入れる。


「あんたには私の飢えがわかんないの?

 三日間だよ、三日間。」


「たったの三日じゃねぇか。

 ――ったく、俺がどれくらいバットを振れない日があったと思ってんだ?」


 誰よりも野球への飢えを知っている男はボソッとつぶやきながらベンチへ走って()った。



 そして二回表はその太刀川が先頭打者(バッター)だった。


「来いっ!」


 珍しく気合が声として出る太刀川。


「んじゃ、行っくよーっ!」


 大きく振りかぶる巴。

 初球、外角高めに外れる自己最速タイの百五十二キロのストレート。

 続く二球目、六十キロ台のチェンジアップがインコース高めいっぱいに入り1―1(ワンエンドワン)


 『六十キロ台』という大雑把な数値には理由がある。

 スピードガンが一定より遅い球は計測不能なのだ。


(さて、お次は、と。)


 巴はいつもノーサインで投げる。

 小五で野球を始めた時からずっとそうだったという事もあり、自由奔放に投げるのが彼女のスタイルとして定着していた。


 ダイナミックなオーバースローから投げ込まれる百四十八キロのストレート。

 外角低めの厳しいコース。

 だが、太刀川はそれを真芯で(とら)えると、差し込まれる事なく振り抜いた。


 スカ――――――ン!


 打球は左翼(レフト)スタンドに一直線に突き進む。

 しかし――


 パシッ!


 左翼手(レフト)(たて)がフェンスをよじ登り、そこからジャンプして大飛球をキャッチした。


「バカな‥‥。」


 一塁ベースを回った所で愕然(がくぜん)と立ち尽くす太刀川。


「ナイス、楯っち!」


 巴がグローブをはめた手を振って礼を言う。


「にゃはは、今回は捕れたけど、あんま飛ばされんでほしいでござるよ、ニンニン。」


 真偽の程は定かでないが、楯は真田忍者の子孫らしい。

 少なくとも彼の家に現存する家系図ではそういう事になっている。

 実際、彼の運動神経は卓越していた。



 巴は続く金森をファーストゴロに、羽野を空振り三振に仕留める。



 二回裏、木曾(きそ)(きた)中の先頭打者(バッター)は巴だった。

 投手側に大きく身体(からだ)を倒した豪快な構えで左打席に立つ巴。


(鷹ノ目さん、初球はここで。)


 羽野はインコース低めにミットを構えた。


(OK!)


 直実は(うなず)くと、鉄腕ラリアットのモーションに入った。


(リリース寸前でバットを振るしかないんだよな、このピッチャーには。)


 巴はヤマ勘でバットを振り始める。


 フォン!

 バス――――ン!


「ストライーク!」


 タイミングは合っていた。

 ただ、コースを読み違えた。

 その結果が主審の判定となって現れた。


(やれやれ、キャッチャーくんとの読み合いかぁ。

 タイミングまでは特訓で掴んだだけどなぁ。)


 ● ● ●


 木曾北中グラウンド。


「こんな近くて本当にいいんスか?」


 控え投手の二年の松木(まつき)が巴に念を押した。

 ホームベースまでの距離は普段の三分の二ほどだ。


「ああ、いいよ。

 なんてったって相手はバケモンだからね。」


「んじゃ、行きますよ、五島(ごとう)さん!」


 松木はキャッチャー不在の壁を目掛けて全力投球した。


 スターン!


 手が出ない巴。


「もう少し下がりましょうか?」


「いや、今の位置でいいよ。

 続けて!」


「はいっ!」



 巴は三十三球目にしてようやく快音を響かせた。


「やりましたね、五島さん。」


「ありがとう。

 ――でも、結局、ヤマ勘で打ってる。

 マッツンはど真ん中辺りに投げてくれたから打てたけど、コースを散らされたら‥‥。」


「ヤマ勘でも当たればこっちのもんです。

 五島さんのパワーなら一点取ったも同じですよ。」


 松木はそう言うと、ニカッと笑った。


 ● ● ●


 続く二球目、外角高めの百六十キロを空振りする巴。


(五島さん、タイミング、ドンピシャじゃないか。

 スウィングのタイミング的にヤマ勘ぽいけど、偶然にって事もあるよな。

 一球、外してみるか。)


 羽野は外角に大きく外すようにサインを出す。

 しかし、直実は首を横に振る。


(‥‥しゃあない。

 今、最もヤマの張りにくいコースを。)


 羽野は二球目と同じコースにミットを構えた。

 ランダムというものは二回連続という選択肢が最も選択しにくいものだ。


「うおおおおおっ!」


 吠える直実、唸る鉄腕ラリアット。


 フォン!

 バス――――ン!


「ストライーク! バッターアウト!」


 自己最速タイ百六十七キロが巴のバットに空を切らせた。


(二球連続‥‥。

 こいつはキャッチャーくんのクセを攻略しないとダメだな。)


 巴はフッと笑い、一塁側ベンチへ軽く走って()った。



 直実は続く今井、根井も連続三球三振に斬って落とし、この回を()めた。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

1990年という時代なので、ストライクとボールのコールの順番は現代(2022年)とは違っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ