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鉄腕ラリアット 第二部・咆哮篇  作者: 鳩野高嗣
第五十七章 乱打戦・前篇
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乱打戦・前篇【Aパート】

この作品は『エンターブレインえんため大賞(ファミ通文庫部門)』の最終選考まで残ったものを20余年の時を経てリライトしたものの続編となります。

「私、今日行けないけど、みんな頑張ってよ!」


 大会五日目。

 紅葉(もみじ)()旅館のロビーで直実(なをみ)が大会初戦に向かう野球部員に向かってエールを送った。


「うん、もちろんだよ。」


 羽野(はの)が硬い笑顔で答えた。


「てめぇなんかいなくたって勝てるっての。」


 太刀川が直実を挑発する。


「何をーっ!

 あんた、ジャーマンとラリアット、どっちがいい!?」


 すぐさま挑発に乗る直実。


「まあまあ、落ち着いて。

 相手は打撃のチームだけど、打線は水物って言うし。

 ――なっ、松浦。」


 岡田がなだめる。


「必ずお前をマウンドに立たせてやるからな。」


 今日の先発のマウンドを託された松浦が力強く告げた。


「よろしくお願いします!」


 直実が腰を直角に曲げてお辞儀をする。


鷹ノ目(たかのめ)、謹慎が解けたら思いっきり暴れさせてやる。

 だから残りの今日一日、おとなしくしていろ、いいな?」


 三浦が警告を促す。


「はいっ! おとなしくしてます!」


 直実が背筋を伸ばし、凛と答える。


「直実先輩、長谷川さんにも挨拶した方が良くないですか?」


 希望(のぞみ)が今日、決勝戦を迎える長谷川に気を遣う。


「そうだね。

 おんなじ部屋で数日生活したんだし、決勝戦のエールを送ってくるよ。」


 直実はそう言うと、女子卓球部グループへと向かって()った。



「長谷川さん、決勝、頑張ってください!」


 直実が人込みをかき分けて長谷川に声を掛けた。


「当然です。

 どんな試合でもベストを尽くす、それが私のモットーですから。」


 普段から変わらないお堅い口調だが、端々に緊張を感じられた。


「どんな試合でもって事は、私との試合も真剣だったんですか?」


「えっ‥‥?」


 長谷川は思い掛けない直実の質問に虚を突かれた思いだった。

 黒縁眼鏡のブリッジを右手人差し指で一回上下に調節した長谷川は、


「例外なんてありませんよ。

 あの試合、私は鷹ノ目直実さん、あなたを完膚なきまで叩き潰すつもりで臨みました。」


 そう冷たく言い放った後、ふっと微笑を浮かべた。


 ● ● ●


「あの百六十キロピッチャーな、今日ベンチ入りしとらんで。」


 鵬徳寺(ほうとくじ)学園の監督である木内(きうち)が、受け取ったメンバー表を見てベンチにいる部員に伝えた。


「やりぃ! ツキがウチらに回って来よったでぇ!」


 トップバッターを務める阿波野(あわの)全成(ぜんせい)が喜ぶ。


「どアホ! あっちのチームの背番号1を知っとるんか?

 元リトル・ナンバー(ワン)ピッチャーの松浦健太やで!」


 キャプテンの臼杵(うすき)が阿波野を怒鳴りつけた。


「どんな理由があるにしろ、鷹ノ目みたいなバケモンがおらんのは喜ばしいこっちゃ。

 松浦は優れたピッチャーやが、バケモンちゃう。

 とっとと引きずり下ろしたったらよろし。」


 副キャプテンの尾形(おがた)が冷静に言い放つ。


「そない簡単に言いよるけどな――」


 臼杵の言葉を遮るように阿波野が口を挟む。


「打って打って打ちまくりまっせ、カバオが!」


「え、俺でっか?」


 突然の振りにきょとんとする蒲生(がもう)範頼(のりより)



 一方、宮町中の陣取る一塁側ベンチでは三浦による相手校の攻略法のおさらいが行われていた。


「鵬徳寺学園の怖さは何と言っても主軸の蒲生を中心とした強力打線だ。

 そしてそのキーマンが一番の阿波野だ。

 一回戦を見た限り、彼のずば抜けた足は星野や八幡(やはた)の佐々木、梶原(かじわら)に勝るとも劣らない。

 また、他のバッターも長打力のある者をスタメンに並べてきている。

 油断はするな。」


「はいっ!」


「敵さんの弱点はないんですか?」


 この日、久々のスターティングメンバ―となった藤本が(たず)ねた。


「このチームはエラーが多い。

 守備力を犠牲にしても打力を磨いてきた学校だからな。

 乱打戦に巻き込まれる事なく、ウチの一点を守り抜く野球に徹しろ。」


「はいっ!」



 この試合のスターティングメンバーは以下の通り。


 【先攻】鵬徳寺学園中等部(大阪府)


 一番センター:阿波野(あわの)全成(ぜんせい)(二年)右投左打

 二番ショート:尾形(おがた)(さかえ)(三年)右投右打

 三番サード:臼杵(うすき)惟正(これただ)(三年)右投右打

 四番ファースト:蒲生(がもう)範頼(のりより)(二年)右投左打

 五番ピッチャー:宇佐那木(うさなぎ)(れん)(三年)右投右打

 六番ライト:渋谷(しぶや)和邦(かずくに)(三年)左投左打

 七番レフト:下河辺(しもこうべ)三平(さんぺい)(三年)右投右打

 八番キャッチャー:品河(しながわ)清志(きよし)(三年)右投右打

 九番セカンド:当麻(とうま)(あきら)(三年)右投右打



 【後攻】宮町中学(埼玉県)


 一番ショート:星野(ほしの)勝広(かつひろ)(一年)右投両打

 二番セカンド:岡田(おかだ)獅子丸(ししまる)(三年)右投右打

 三番ピッチャー:松浦(まつうら)健太(けんた)(三年)右投右打

 四番サード:太刀川(たちかわ)教経(のりつね)(三年)右投右打

 五番ファースト:金森(かなもり)(とおる)(三年)左投左打

 六番キャッチャー:土肥(どい)大輔(だいすけ)(三年)右投右打

 七番センター:和田(わだ)純平(じゅんぺい)(二年)右投右打

 八番レフト:竹之内(たけのうち)省吾(しょうご)(三年)右投左打

 九番ライト:藤本(ふじもと)(まこと)(三年)右投右打


 控えとして選ばれた者は、

 羽野(はの)敦盛(あつもり)(二年)捕・内・外野手/右投右打

 加藤(かとう)浩之(ひろゆき)(三年)投・捕・内・外野手/右投右打

 新井(あらい)(しゅん)(二年)内・外野手/右投右打

 伊藤(いとう)和也(かずや)(一年)投手/左投左打

 長田(おさだ)(ひろし)(三年)内野手/右投右打

 多々良(たたら)信也(しんや)(二年)外野手/左投右打



「さあ、時間だ、行ってこい!」


 三浦の号令で勢いよくベンチを跳び出す選手たち。

 そして整列しての挨拶の後、運命のプレイボールの声が響いた。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

1990年という時代なので、ストライクとボールのコールの順番は現代(2022年)とは違っています。

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