全国大会開幕【Fパート】
「ほんとにアスリートって身体だね、ナココって。」
大浴場で身体を洗いながら明美が、隣りで頭髪を洗う体脂肪率一桁の肉体をまじまじと見つめる。
「アケも本気でレギュラー獲り目指すなら、もっと筋トレしないとね。」
直実はそう言うと、プラスチック製の黄色い風呂桶に入れた湯を頭から豪快に掛けた。
「はいはい。
でも、筋トレしても、ついポテチ食べちゃうんだよね。」
「ポテチ?」
「ポテトチップスの略よ。」
「へえー、最近じゃそう言うんだ。」
「でもぉ、ポテチ食べてもアケは太らないからいいよねぇ。
私はすぐお肉になっちゃうから控えてるんだぁ。」
話に割り込んできたのは史香だ。
史香は直実の隣りの席に座ると、シャワーを浴び始めた。
(うわ、生で見ると、おっぱいでかっ!)
直実、明美の貧乳コンビは史香の乳房に目を見開いた。
「ナココ、今日はご苦労さん。
外野スタンドにいたでしょ。
結構、目立ってたよ。」
入口付近から入って来たのは奈留と徳子だ。
「奈留ちゃん、バックネット裏にいたよね。
和田くんの隣りに。」
直実はニマッと笑って冷やかした。
「い、いいじゃん、一応カレシなんだし。」
「一応って、あはは。」
直実が笑うと、釣られて明美たちも笑う。
「後で足相撲やろうぜ、ナココ。
それなら負ける気がしない。」
徳子はリアルバトル、腕相撲と二連敗したのがよほど悔しかったのだろう、自分の得意分野で挑戦表明してきた。
「足相撲?
やり方知らないから教えて!」
直実はやる気満々だ。
「ああ、いいぜ。」
徳子はウインクして答えた。
「そう言えばユッコは?」
直実はテスト乗り切り同盟の一人、裕子がいない事に気付いた。
「ユッコなら女卓の固まってるところにいるよ。
長谷川部長、明日、試合だかんね。」
明美が奥を指さす。
「アケはいいの?」
直実が明美がハブられているのではと心配になり尋ねた。
「あっ、なぁに、その可哀そうな子を見つめる眼差しは?
言っておくけど、別にハブられてる訳じゃないからね。
あとでしれっと加わるから問題なし。
――それよか、今は友だちの少ないナココのそばにいてあげないと。」
「なにをーっ!」
直実は全裸で明美にサイドヘッドロックを掛けた。
● ● ●
入浴後、食事、ミーティングが終わり、大部屋で足相撲大会やUNО大会が終わった後、直実と希望、長谷川の三人は女子選手部屋としてアテンドされたトリプルルームに移った。
ちなみに足相撲大会女子の部の優勝者は徳子、男子の部の優勝者は駆け引きに秀でた土肥だった。
男子と女子の優勝者対戦という話も出たが、土肥が照れまくり流れてしまった。
「長谷川さん、明日、試合なんですって?
頑張ってください!」
直実が正座した状態で両拳を握り、長谷川にエールを送る。
「‥‥ありがとう。」
長谷川はうつむき加減に直実に礼を言った。
「私は明日、個人練習があるんで応援に行けませんけど、心の中で応援してますから。」
「心の中で応援なんかして、不注意で怪我したって知りませんよ。」
長谷川は言葉こそキツいが優しい口調で直実に言う。
「まあ、私なんかの応援がなくっても長谷川さんは大丈夫ですよね。
強い心臓を持ってますから。」
「‥‥そんな事ありません。
明日の事で胸がパンクしそうな程、緊張しています。
――いつも肝の据わった鷹ノ目さんにはわからないかもしれませんが。」
そう言うと長谷川は黒縁眼鏡を外し、枕元にそっと置いた。
「ちょっ‥‥私だって緊張ぐらいしますよ。」
「例えば?」
「えっ?
えーと‥‥テスト用紙が配られる前とか、知ってる人が万引きしたのを見た時とか。」
「‥‥前者はともかく、後者は聞かなかった事にします。」
長谷川はそう言うと布団に入った。
「あなたたちはお喋りがあるでしょうから電気はそのままにしておきますが、適当なところで身体を休めた方がいいですよ。
――では、おやすみなさい。」
「はい、おやすみなさい。」
直実と希望もおやすみの挨拶を返した。
「‥‥今夜は早めに寝よっか。」
「そうですね。」
希望は立ち上がると、部屋の照明を落とした。
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